第2話 呪文の初日は、心得(こころえ)から

 よし、こっほん。皆、集まったな。

今日から、呪文師の見習いの時間を始める。


 良いか、見習いは、長あい期間を、稽古と肝試(きもだめ)しで、技磨きを過ごすことになる。覚悟しておけ。止めたくなったら、又やり直せば良い。誰でも、一度や二度は、出直すことは有る。


立派な呪文師となって、笑う奴を見返してやれ。



 でえは、初めは、もぬけの呪文について、話す。


 もぬけの呪文は、。

何っ、聞こえんって言ったか。そうか。声が小いさいか。


こほん、ん、ん。もっ、もぬけのっ。


このぐらいの大きさでどうだ。良いか、聞こえたか。これで行く。


もぬけの呪文はっ。

何っ。声が大っきいって言ったか。面倒だなあ。


もも、もうぬけの。このぐらいでどうだ。そうか。なら良いな。


もうぬけの。話し辛いな。


何あん度も、話の中途で腰を折られると話し辛い。

何っ、腰を折ったって言う意味ではないぞ。


そうだ、こっちは婆あだからな。腰は少うし曲げて話すのが楽だ。ああ、話が続かん。だんまりで聞け。話しかけるな。


何っ、分からんのを聞きたい時か。そうだな。後でまとめて聞け。


何っ、分からんのが何かを忘れた時か。なら、忘れろ。一生忘れろ。



 良いか。もぬけの呪文は、恐ろしい呪文だ。

 数の多い呪文の中でも、と、く、に、恐ろしい。それっだけ、効き目が強い。誰にでも掛けられるからな。


 元は、死んだ奴の、もぬけの殻に、ちゅおっとした細工をして、もぬけの呪文を掛けて操ったのが始まりだ。


 ああんまり、上手く掛かるんで、死んだくせに、自分を生きたまんまと勘違いする死んだ奴も出て来た。


 生きてる奴のなかには、死んだ奴が、目の前に現れたんで腰抜かすのもいる。な、面白いだろ。



 そうか、やりたいか。もぬけの呪文は、それだけではないぞ。いろっいろある。それは後で話す。



 先ずは、死人(しびと)の呪文の話からだ。


 いや、その前に、心得(こころえ)だ。死人(しびと)を操る心得を伝えておく。忘れるな。


心得は肝心だぞ。



一、死人(しびと)を好きになってはいけない。


情が沸くと、操る方も、操られる方も、互いに離れられんからな。


呪文の言葉を知られると、面倒くっさい。

「その呪文、嫌」とか「こういう呪文にして」と言われる内に、自分が呪文にかけられて、操られるのがオチだ。


好みの死人(しびと)は、目を閉じて操れ。


目を開けて、死人(しびと)がいない時は、その死人の好みの奴を探せば、見つかる。




一、死人(しびと)の機嫌を取ってはいけない。


好きとは違う話だぞ。


死人(しびと)を気の毒に思うとろくな目に遭わない。


死人はおおよそは居心地良く、ねんねんころりんで、どっかの土ん中で眠るものだ。


それを無理に叩き起こされれば、誰でも機嫌が悪い。


むっすうとした顔で口を尖らせるのを見ても、気にするな。


操ってやるうちに機嫌も直る。


死んだ奴の気分に振り回されて、やる気を失くすなよ。

気疲れは病の元だぞ。




一、死人(しびと)の世話に心を折れてはいけない。


死人(しびと)は厄介だ。

生きて動いた時よりも、図々しい。


自分勝手に飯を食いたがる。

さっき食ったと思っても、すうぐ、腹が空いたとぬかす。

忘れっぽい。


その上、あれが欲しいこれが欲しいと欲にきりがない。


心をへし折られたら、甘い菓子でも食って、一からやり直せ。


面倒くっさい死人(しびと)は土ん中に戻して寝かせてやれ。





 それぐらいだな。でえは。


 何っ、死人(しびと)が怖いと言ったか。そおか。なら、お前も土ん中に埋まって、死人(しびと)の気分を知ってから、呪文を学べ。


 死人が怖い奴は、死んでからやれ。笑え。お前らは死ねない。

残念だな。墓場で子守歌でも歌っておけ。




(第2話 呪文の初日は、心得(こころえ)から終わり)

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