第40話:御影煌司 - 観測者

 御影煌司は、暗闇の中にいた。彼の理論は完璧だった。しかし、それを証明する手段がなかった。未来の技術がなければ、彼の研究はただの空論に過ぎず、現代においては理解されることもなかった。


 彼は知りたかった。未来は確定しているのか、それとも選択によって変わるのか。もし変えられるのならば、どこまで人は未来を操作できるのか。


 その問いに答える者が現れた。


「君の求める答えは、ここにある。」


 ラプラスと名乗る存在は、彼の前に現れた。そして、すべてを語った。


「未来は確定している。しかし、それを知るには、すべての魔法使いを殺さねばならない。」


 煌司は、一度目を閉じた。考える時間は、ほとんど必要なかった。


「未来が決まっているのなら、それを受け入れる。だが、本当にそうなのか確かめなければならない。」


 彼は魔法を手にした。その瞬間、世界の見え方が変わった。無数の未来が揺らめき、確率が揺れ動く。


「選択肢が観測によって消滅する……。」


 彼の研究が現実になった。だが、それは同時に、彼自身を縛る制約でもあった。


「選べば選ぶほど、可能性が減っていく。ならば、最適な未来を選び続けるしかない。」


 煌司は、与えられた魔法の本質を理解するため、自身の能力を試した。


「量子とは、観測するまで確定しないもの……。」


 彼は目の前に置かれたコインを見つめる。魔法を使う前は、そのコインが表になるか裏になるかは不確定だった。しかし、彼が観測した瞬間、結果は確定し、それ以外の可能性は消え去る。


「未来の選択肢を無限に持つことはできない。選べば選ぶほど、選択肢は減っていく。」


 彼は手をかざし、目の前の物体に干渉する。彼の魔法は、「この瞬間、あるべき未来」を選ぶことができる。


 例えば、敵の攻撃が成功する確率が50%だったとしよう。煌司がそれを観測した瞬間、その確率は一方に収束する。彼は「攻撃が外れる未来」を選ぶことができる。しかし、それは代償でもある。


「一度選んだ未来は、次には選べない。観測すればするほど、未来の自由度が狭まる。」


 未来の回避方法を使い続ければ、やがて逃げる手段が尽きる。攻撃を当て続ければ、次第に確実に外れる未来が増える。


「短期決戦ならば、無敵に近い。しかし、長期戦ではいずれ確定した敗北が訪れる……。」


 彼は理解した。


「この戦いが続く限り、私は敗北する運命にある。」


 御影煌司は、ただ観察者として、そして試す者として、バトルロイヤルの戦場に足を踏み入れた。


 時間が経過し、煌司はある情報を得た。


「魔法使いの半数が消えたか……。」


 彼は静かに目を閉じ、呼吸を整える。選択肢が減るということは、未来がより確定に向かうということ。確率の揺らぎが収束し、残された魔法使いたちの行動がより限定されていく。


「興味深い。」


 戦いが激化するほど、選択の余地は狭まる。


 煌司はゆっくりと立ち上がる。


「そろそろ、観測を始めるとしよう。」


 静かに歩みを進める彼の姿は、迷いがなかった。彼は未来を知るために、今度こそ戦場に足を踏み入れる。


 彼には、すでに見えていた。


 最後の戦場。そこに立つ者たち。最期に生き残る一人、そして散る者たちの姿。


「未来は決まっているのか、それとも……。」


 彼は口元にわずかな笑みを浮かべる。確定した未来を観測するのか、それとも誰かがその確定を覆すのか。その瞬間が、彼には何よりも楽しみだった。


「さあ、どんな選択を見せてくれる?」


 静かに、闇へと溶けるように彼は歩みを進めた。

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