氷鬼 真相 part2

「お前は最初から私を利用していたのか…」


 虚ろな目でコウを見つめながらアリスはそう言う。しかしコウはその言葉を一部否定する。


「確かに俺はお前を利用していたが、それを最初に提案したのはお前だぞ。」


「…ああ、そうだった。」


 アリスは思い出した。コウに協力関係を求められた時に、それを断り、利用し合う関係ならいい、と言ったことを。


「つまり自業自得だったという訳か。」


「まあそうだが、この話には実はもう少し裏があるんだ。」


「どういうことだ。お前は私が利用し合う関係を提案したから私を利用したんだろ?」


「確かに最初に利用し合う関係を提案してきたのはアリス、お前だが、実は俺はこのゲームに参加する前からお前に目をつけていたんだ。」


「は?何を言っているんだコウ。」


 当然の如くアリスの頭ではもう話について行ける状態じゃなかった。


「じゃあ最初から説明しよう。俺は二週間前にこの世界に転生した。転生したその日から俺はデスゲームに参加し、多くのゲームをクリアしてきた。確かにこっちの世界のゲームは俺がいた世界のゲームよりも刺激があって面白い。だがな、それでも俺には物足りなかった。やはり俺に必要だったのはどうしても俺を殺したいという野心に溢れた強者だったんだよ。」


(自分を殺したい人間が必要だと。なんて男だ。)


 コウが語りだした狂った内容にアリスは気持ち悪さを覚えた。いや、それすら超えた恐怖だろう。

 アリスの頬に汗が伝う。


「だから俺は探した。野心に溢れた強者を。そんな時にある噂を耳にした。家を追放されかけていて、どうしても転生者を殺さないといけない天性の身体能力を持った女がいるってな。そしてそいつが難易度<技>が高いゲームを探して、うろちょろしてることをな。」


 アリスにとってどこか親近感がわく内容だった。


「それって…」


「そうだ。アリス・アークライト、お前のことだ。」


「まさかそんな噂になっていたとは。」


 アリスは少し恥ずかしくなって顔を手で覆う。コウはそれを鼻で笑いながら。


「そこで俺はお前と同じゲームに参加しようと思った。そしてそのゲームで利用しつくして絶望させてやろうと考えた。」


「趣味が悪いな…」


 ボソッと呟くアリス。コウは気にせず続ける。


「だがそれをするには一つ確認しなければならないことがあった。それはお前の身体能力のレベルだ。いくらすごいとは言え、実際に見てみないとわからない。そこで俺はあることをした。」


「あること…だと?」


「ああそうだ。覚えてないか?ゲーム中一風変わったイベントがあっただろ。」


「そんなことあったか?」


「そんな難しいことじゃない。ゲーム中にゲームとは関係ない出来事があっただろ。」


「う~ん…」


 目を瞑り、深く考え込むアリス。コウはそれを見ながら呆れる。


「ここまで馬鹿なのか…」


「いや~、ゲーム中に殺し屋に襲われるということしか思い浮かばなくて…」


「え?」


 アリスの言葉に今まで出したことがない驚きの声が出るコウ。


「え?」


 そんなコウを見て同じような声を出すアリス。


「え?アリス、お前答え出てるじゃん。」


「え?一風変わったイベントってそれのことか?」


「いやそうだろ。ゲーム中に殺し屋に狙われることなんてそうそうないだろ。」


「初めてのデスゲームだったからこういうことはよくあるのかと。それに私実家金持ちだからそういう人がいてもおかしくないかなと思って。」


 アリスの言葉には、デスゲームで無敵の男と呼ばれていたコウですら開いた口が塞がらなかった。


「まさかここまでとは…」


 そしてここでようやくアリスは気づく。


「ちょっと待って!じゃああの殺し屋送り込んできたのコウだったの⁉」


「え、今更かよ。」


「なんのために?」


「今の話に流れでわからなかったか?」


「うんわからなかった。」


 アリスのバカっぷりに今度はコウが膝から崩れ落ちそうになった。


「お前の身体能力のレベルを測る為だよ。それによってゲームでどう利用するかが変わる。」


「なるほど、そういうことだったのね。それで私のレベルはどうだった?」


「思った以上だったよ。だから俺は石から取り出した液体が鬼に効くかどうかをお前に試させることにしたんだ。お前なら鬼の目にも液体をかけられる、そう判断したんだ。」


 コウの話を聞き終えたアリスはしばらく考え込んだあと、何かを閃いたかの表情をし、話し始める。


「つまりこういうことか。お前はデスゲームで自分を殺そうとしている人間を探していた。そしてたまたま転生者を殺すという目的がある私を発見した。お前は私を利用するために私の実力を知る必要があったので殺し屋を雇い、実力を測った。その結果私は利用する価値があると判断したから利用した。それにより私は死にかけた。ということか?」


「そうだ。やっと理解してくれたか。」


 コウはアリスにバカさに疲れ、ため息を吐いた。


「疲れたよ。もう俺帰るわ。」


 コウはアリスに背を向け、歩き出す。しかしアリスはまたコウのコートを引っ張り、それを止める。


「ちょっと待って。最後に聞きたいことがある。」


「あ?なんだ?」


 コウは顔だけアリスに向ける。顔は疲れ切っていた。


「どうして私が鬼にやられそうになっていた所を助けたの?お前の計画は完璧にいった。私を利用し、鬼を無力化し、ゲームでは完全勝利。それに最後に強者である私が鬼にやられそうになり絶望する姿も見ることができた。私を助ける理由なんてないじゃないか?」


 真剣な眼差しで質問するアリスに対してコウは「ああそんなこと。」と言って理由を説明し始める。


「お前を助けた理由は未来の俺の為だ。」


「未来のコウの為…?」


「そう。お前は俺に利用され、最後には命すら失いそうになった。これでお前は俺のことを死ぬほど恨んでいるだろう。その状態で生き残ったらどうなる?普通は復讐しようとなる。しかし俺はこの世界ではデスゲームのルール以外で死ぬことはない。つまり俺を殺すには、俺と同じゲームに参加して殺すしかないんだ。」


「じゃあ私を助けた理由って、私がデスゲームでお前にまた挑むようにするためってことか…?」


「まあそういうことだ。」


 笑顔でそう言うコウにアリスは腹が立った。ここまで自分は見下されているのかと。


(それってつまり、私はここで殺さなくても害にはならないと言っているようなもんじゃないか。どこまで人を見下せば済むんだ、この男は。)


 そして思いの丈をコウにぶつける。


「いつか絶対お前をデスゲームで殺す。絶対にだ!」


「ああ。楽しみにしてるよ。だが今のお前では百パー無理だ。もっと強くなって出直してこい。」


 自分は絶対にこんな女には負けない。コウの顔はそう言っていた。そんなコウに再び腹が立つ。

 コウはアリスの手を振り払い歩き始める。アリスのことを全く気にすることなく。


「強くなって絶対に殺してやる。」


 アリスはそう強く決心した。




 






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