警察の極上プロファイラーが実験と称して私を溺愛してくる

またたびやま銀猫

第1話

 空木小夜歌うつぎさやかはいったん立ち止まり、不安とともに古びた建物を見上げた。


 入口の上部には桜をトゲトゲにしたような紋章があり、その下には『雲雀ヶ丘ひばりがおか警察』と大きな文字が浮き出ていた。

 かつては白かっただろう壁は全体的にくすんで灰味がかっており、雨の跡と思われる幾筋もの黒い線が垂れていておどろおどろしい。


 正義の味方のいる場所には見えないな、と冗談めかして思ってみるものの、緊張がやわらぐことはない。

 秋の涼しい風に深呼吸をして自分を落ち着け、数段の階段を上って中に入る。


 と、カウンターの中にいたスーツの男性が振り返った。

 三十過ぎと思われる背の高い彼は、鋭い目に細い銀縁の眼鏡をかけていて怜悧な印象があった。ピシッとしたスーツに真っ直ぐなネクタイ、重めの前髪は黒くつややかだ。


 イケメンだ、と少しどきどきしたが、今はそれどころじゃない。

 どこに行けばいいんだろう、と見回すと一人の女性警官が歩み寄って来た。


「どのような御用件でしょうか」

「……ストーカーの相談、みたいな」

 実際にストーカーの相談に来たのだが、つい「みたいな」と付け足してしまった。


「でしたら三階の生活安全課になりますね」

 礼を言ってエレベーターで三階に行くが、生活安全課の札が掲げられた入口の前でしばらく迷った。


 自意識過剰だと思われたらどうしよう。警察に言ったことであの男が逆上したらどうしよう。

 そうは思うが、やはりこのままでは状況は悪化するだけのように思える。せっかく半休をとってまで来たのだから。


 勇気を出して中に入ると、がらんとしていてひと気がなかった。奥にいる年配の男性がパソコンからひょいと顔を上げて彼女を見る。

「ご用件は」

「ストーカーの相談に来たんですが……」


「今は人が出払っててね。どうしようかな」

「俺が話を聞きますよ」

 後ろから声が降ってきて、彼女はびくっと振り返った。

 いつの間に来たのか、さきほど見かけた背の高いイケメンの男性がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る