第9話 星野さんと美人の条件。
いつから涙を流していたのかもわからないままに目を腫らしていた私は、
星野さんから温かい濡れタオルを受け取る。
「いま、冷えたタオルも持ってくるわ。」
至せり尽くせり、ここに極まれり。
…大変申し訳ない。
子どもの頃に見た教育実習の大学生はもっと大人だったはずなのに…。
大学生になって、なお赤ちゃんばりに号泣してしまうとは黒歴史案件だ。
最早、漆黒歴史かもしれない。
いや、暗黒歴史か?
名づけのセンスが何故中二病じみているのかは、察していただきたい。
ただあの時の後遺症に今も悩まされているとだけ記しておく。
そんなくだらないことを考えながら、
私は
「星野さんはなんで自分自身を美人だって言い切れるの?」
だいぶ目の腫れが引いた頃、自分でもびっくりするくらいすんなりと質問が転がり落ちていた。
星野さんに対する嫌味な感情は涙に溶けきったらしい。
「本田さんは、美人の条件ってなんだと思う?」
まーた星野さんが難しいことを言い出した。
「んー、他人から見て美人なこと?なんちゃら比みたいな。」
黄金比、いや、白銀比だっけ?
「全然違う。」
このやり取りがクセになり始めている私は重症に違いない。
「違うことないでしょ。基準がなきゃ判断しようがないじゃん。」
「…美人の基準は具体的に何?」
「えー、目が大きくて、鼻が高くて、小顔で―
「出目金じゃない小さい目が、
魔女を連想させない低い鼻が、
美しいとされる国もあるわ。
小顔って言うと脳が小さい馬鹿だと受け取られる国も。」
「ここ日本だし!」
「アンタの大好きな本田美波さんが、外国に行って不細工だと非難されたら同意するのかしら?」
「するわけないじゃん!目がおかしいのはソイツら!」
「安心しなさい、アンタ含めみんな目がおかしいから。現にどこかの国の美人を否定しているのはアンタでしょう?」
確かに正反対の美人の基準があるなら、そうなる。
押し黙った私を
「でも私は美人の基準はないけれど、
唯一の成立条件ならあると思うの。」
そう言うと星野さんは私に真っ直ぐに目を合わせた。
圧に押し出されるように、
「…というと?」
答えを促してしまう。
星野さんは、もったいぶるように一息入れ、
「自分で自分のことを美人だと思っていること。」
そうのたまいやがった。
「美人の絶対的な基準がない以上、
アンタが本田美波さんを美人だと思うことと、私が私を美人だと思うことに差はないわ。
この世に絶対の美人はいない。
美人だと思っている人がいるだけよ。」
…この暴論が痛快になってきた私は最早重体かもしれない。
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