オタクの友達が性転換しました

藤桜

第1話 《その少女は》

 俺こと鷹尾たかお奏汰かなた小鳥遊たかなし柚月ゆづきと出会ったのは高校入学してすぐだった。

 お互い席が前後ってことで何となく話しかけたのがきっかけだ。

 正直柚月に対する第一印象としては男なのに背が低く髪が長く女々しい感じだったが話しかけると意外と面白くお互い漫画やアニメ、ゲームなどが好きなオタクってことですぐに意気投合。しかも地元が一緒かつ隣の地区らしく中学校は別だったが家は近かった。

 そして今年度高校2年生になった俺たちはまた同じクラスになった。

 いつものように一緒に通学した俺達は新しい教室に入り番号順になっている席に座った。


「えーっと僕はここで奏汰は僕の前だね」

「やっぱり今回も柚月の前の席か」

「番号順ならそうなるからね。ねぇ、今日学校終わったら予定ある?」

「いや、特に予定は無いが」

「僕ん来ない? 良い物ゲットしたんだよね」

「ほぉ、そんじゃ昼飯食ったらすぐ行くわ」

「待ってるね」


 始業式が終わり全校生徒は午前中に下校。

 俺達も各自家に帰り昼飯を食った後すぐに柚月の家へ向かった。

 柚月の家は徒歩で行ける距離だ。

 家のインターホンを鳴らすと柚月が出て来た。


「いらっしゃい。早く来て来て」

「一体何をゲットしたんだ?」


 2階に上がり柚月の部屋に入るとそこには大型テレビとスピーカーが置かれていた。

 俺の持っている32インチテレビより断然デカい。50インチ以上はあるだろう。


「おぉ! これってサブスク観れるやつじゃん。それにこのスピーカーって重低音が出るってやつだよな? どうしたんだ!?」

「親戚が引っ越すとき持っていけないからってくれたんだよね。今日はこれでアニメ観ようよ」

「OKっ! でこのスピーカーならどのアニメオススメだ?」

「戦闘系のアニメが良いからやっぱりこれかな」


 俺達は大型テレビでアニメを観始めた。

 いつも観ているアニメとは違い映像が綺麗でなんと言っても音がヤバい。

 戦闘シーンなんて映画並みだ。

 

「このシーンってこんな迫力あったのか」

「ビックリするよね。しかもこの声優さんの低音ボイスもカッコイイし」

「確かに。なんと言うか厚みがあるって感じだな」

OPオープニングEDエンディングも豪華に聞こえるよね」

「確かに。それなら次にあのバンドアニメ観よう」

「うんっ」


 俺達は語りながらアニメを観見続けていると午後5時を知らせるチャイムが聞こえた。

 窓の外を見ると空がオレンジ色に染まってきている。

 かなりの時間アニメを観ていたみたいだ。


「もうこんな時間か。俺そろそろ帰らないと」

「今日は早いね。明日休みだけど遊べる?」

「すまん。土日どにちは婆さんの家に行くことになってるんだよ。親戚の集まりってやつでさ」

「それじゃまた来週月曜日にだね」

「またいつもの時間迎えに来るわ」

「うん、分かった。またねぇ~」


 俺はオレンジ色に染まった街を見ながら帰路に着いた。

 この時はまだいつもの日常があるんだと思っていた。

 後日、柚月が体調を崩し入院したことを本人からのメッセージで知った。

 どうやら一緒に遊んだ翌日突然高熱と身体の痛みが出たらしい。

 症状はすぐに治まったが何やら検査入院とかで少しの間入院することになった。

 柚月が居ない学校生活は意外と暇だ。連絡しようにもスマホが使えないらしい。

 一応他にも友達は居るが柚月みたいにアニメを語れる奴は居ない。


「(最新話の作画やばかったなぁ~。早く語りたい!)」


 そんな生活を1週間ほど過ごした週末。家で漫画を読んでいると柚月から久しぶりにメッセージが来た。

 今朝退院して家に帰って来たらしい。

 午後から会えないかと連絡メッセージが来ていたので二つ返事でOKした。

 

「(退院祝いに何か買ってやるか)」


 俺は柚月の家に行く前に本屋に行き先日出た新作の漫画を買った。

 家に着きインターホンを鳴らすと玄関が開いた。

 そこに居たのは柚月――ではなく柚月に似た少女だ。

 髪は少し長く大きいパーカーを着ている。そのパーカーはアニメショップで一緒に買った限定品だ。柚月の物を着ているってことは家族? いや、柚月に妹は居ないはず。となると従妹なのだろうか?


「えーっと……柚月居ますか? 俺高校の友達で――」


 俺が自己紹介をしようとすると少女はクスッと笑った。


「意外と気が付かないんだね。僕だよ。柚月だよ」

「へ?」

「まぁそう言う反応になるよね。詳しくは部屋で話すよ」


 そう言って柚月と名乗る少女と共に柚月の部屋に入った。

 部屋に入るとそこには柚月の姿はない。

 

「えーっと……柚月は?」

「だから僕が柚月だって。まぁ無理も無いよね。こんな姿おんなのこになってるし」

「いやいや、流石に冗談だろ? 漫画じゃぁあるまいし」

「証拠を見せれば良いのかな? それなら奏汰がうちに来た時見たアニメの話しでもしようか?」


 そう言って少女は最後に一緒に観たアニメの感想の事などを話し始めた。それに加えここ最近俺がオススメした漫画の話しなども。

 一瞬ドッキリなのかと思ったが暗記していたなんてそんな手の込んだことはしないだろう。そもそも柚月はそんな事はしない。

 俺はこの少女が柚月だと確信した。逆に信じない方がおかしいくらいだ。


「本当に柚月なんだな」

「だから最初からそうだって言ってるじゃん。それにスマホの指紋認証も反応するし」

「それで何で女の子になってるんだ?」

「僕も良く分からないんだけどこの前遊んだ後に急に熱が出たってメッセしたじゃん?」

「身体が痛いとかってやつな」

「それで1日寝ていて目が覚めたらこの身体になってた」

「肝心なところ分からねぇのか」

「ずっと寝ていたからね。まぁ熱や身体の痛み自体は何故か急に治まったけどこの身体について検査入院していたって訳」

「そうだったのか。それじゃぁ学校の方は」

「明日から復帰するよ。学校の方にも事情説明してあるし必要な物も届いたからね」

「必要な物って――」

「それはお楽しみに。それより今季のダークホースかもって言われてるアニメ観ない?」

「ほぅ、それは気になるな」


 俺達はいつものようにアニメ鑑賞をした。

 1週間ぶりに語るアニメの話しはやっぱり楽しい。

 見た目が女の子になっていても柚月は柚月だった。


「入院中スマホ使えなかったら暇だったんだよね。アニメも見れないし。だからずっと漫画読んでたよ」

「あっ、そうだこれ退院祝いにって買ってきたんだった。ほらこれ、この前話してた漫画」


 俺はリュックから取り出した漫画を柚月に手渡した。


「わぁ~! これ気になってたんだよね。ありがとうねっ」


 そう言って柚月は満面の笑みを浮かべ俺はその顔になんだかドキッとしてしまった。

 いつもの言動も全て可愛く見えてしまう。

 

「奏汰どうしたの?」

「べっ、別に。そう言えば明日はいつもの時間に来ればいいか?」

「うん、いつもの時間で良いよ。あと心の準備もねっ?」

「なんだそれ? まぁいいや、今日はもう帰るわ」

「早いね」

「退院したばかりなんだしそれにまた何かあったら大変だろ?」

「む~……もっとアニメ語りたかったのにぃ……」

「それはいつでもできるだろ。それじゃまた明日な」

「わかった~」


 俺は帰路に着いた。

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