第03話 詞ノ葉つづり
前髪パッツン姫カットな黒髪ロングの女の子で、おっとりとしたエメラルド色の瞳が特徴だ。コンセプトは女子高生の図書委員ということらしい。
愛称を〝つづりん〟とする彼女もまたヴァーチャ学園所属のVtuberであり、俺が唯一フューたん以外にチャンネル登録をしようかと悩んでいた子でもある。
理由は単純。フューたんと仲が良いから。
たしか、つづりんの愛称もフューたんが付けたはずだ。
複数のVtuber同士が共演するコラボスタイルの配信は片方の枠でしか公開されないこともあり、正直フューたんが出ている配信を全て追うのであればつづりんを登録しておいた方が良いのは間違いない……だがしかし、フューたん一筋を貫いていた俺は「なんか浮気っぽい」という謎の意地で他の女の子のチャンネルは登録しておらず、配信もあまり見ないでいた。
〔つづりん今日は何やるんだろうな。────ふーん、雑談配信だってさ〕
「なにジョン松、お前つづりんも推してんの?」
〔ん? あぁ、推しって程じゃないけど、オレはヴァー学の女の子は一応追うようにしてるんだわ〕
「え、全員?」
〔もち全員〕
「まじか、すげーな」
ジョン松は軽く言い放ったが、ヴァーチャ学園所属のVtuberは五十名近くいる。
当然、全員が時間帯をズラして配信をしているなんてことはないので、その全てを追うためには複数のウィンドウを開き、同時に配信を見る必要があるわけだが……一体コイツは普段、何窓しているというのだろうか。
恐るべし、ジョン松。
相棒として不足なし。
〔てか、つづりんってけっこうフューたんとコラボしてるし、お前は特に追ったほうがいいんじゃねーの? とり
「だよなー、正直それは思ってた」
〔そんでもってさ、ちょっと前から感じてたんだが……〕
「ん?」
〔つづりんの声って、少しポコライオンに似てると思わん?〕
「へぇ……そうなんだ、意識して聴いたことないな」
〔いやいや、普通に公式チャンネルとかでも出てたりするやんけ、それにフューたん枠のコラボでも聞いたことくらいあるだろ〕
「ふっ。俺はフューたんの発言に全集中してるからな。他の女の子の声はまともに聞こえんのだわ」
〔ぶっ‼ 笑わすなって。なら今聞いてみてくれ、似てるから〕
ジョン松の発言を受け、一旦ポコライオンさんの声を脳内で再生してみる。
(おつかれさまでした~とり
柔らかくて大人しい、囁くような声……だよな。確かに図書委員という雰囲気には合っているかもしれない。
────カチッ、カチッ。
そしてポコライオンさんの声の余韻を頭の中に残しつつ、比較対象である
〔みなさんこんつづりー。ヴァー学所属、V図書委員の
うん絶妙だった。
似てるといえば似てるが、つづりんの方が少し声色は高い。
「確かに……けっこう似てるな」
〔だろ? なんか親近感湧いて推したくなるっしょ〕
「いや、俺はフューたん以外興味はないが……。まぁちょっと面白いから今度ポコライオンさんにも教えてあげるか」
〔いいね、実はつづりんの中身がポコライオンだったりしてな〕
「なわけねーだろ、登録者百万人越えのVtuberだぞ?」
〔だ、だよな。流石にねーか、そんなラノベ的展開〕
ポコライオンさんは、たまたまヴァペのカジュアルマッチで一緒になり、何故かボロクソに野良に煽られてたのを助けたのがきっかけで遊んでいる友人である。
確かにオンラインゲームで有名人と接点を持てた一般人、みたいなニュースは数年に一度聞いたりするが、その確率は奇跡みたいなものだろう。
特にヴァペックスは世界的にも大人気を博しており、アクティブユーザーは数百万にも登るのだ。
「ないない、そんなことは夢のまた夢だってーの」
〔でも、推しが知り合いとかだったらマジで嬉しくね?〕
「だからありえねーって」
〔つまらんやっちゃのう。まぁそれは冗談としても、普通につづりんって可愛いよな……ポコライオン関係なくても推しちゃうね、これは〕
「・・・・・・」
確かにジョン松の言う通り可愛い……、っていかんいかん。俺にはフューたんがいるだろうが。
俺自身が開拓されていくのを感じる。
恐るべしVtuberの世界。
それに……。
「意識して聞いてなかったけど、つづりんとかポコライオンさん系の声質。俺けっこう好きかもしれん。ウィスパーボイスっていうの? なんかいいな」
〔……お前なぁ、それ今度ポコライオンに直接言ってやれよ〕
「は? なんで?」
〔なんでってそりゃ、絶対ポコライオンはお前 ── っていやなんでもない〕
つづりんがポコライオンさんかもとか言い出すし、さっきからまじで何いってんだコイツ。
「俺がどうした?」
〔い、いや気にしないでくれ流石に出過ぎた。そ、そうだっ‼ つづりんの雑談配信、ちょっとコメントとかしてみようぜ〕
「おぉ、おもろいな。けど、この速度だとまず拾ってもらえねーだろ」
: こんつづりー
: こんつづりー
: つづりん配信待ってたよー!
: ¥500 つづりちゃん大好き
〔ウルチャありがとうございます。えーっと、今日は何の話をしましょうか。
箱トップの人気を誇るフューたんに勝るとも劣らない速度で流れているコメント達。流石である……そして、つづりんのファンネームは
「丁度、話題は募集してるな」
〔とりま書いてみるわ。カタカタカタ、ッタン〕
: 今日何食べたのー?
: ライブの練習とかどう?
: 今パンツ穿いてますか?
: 配信まで何してたの?
: 右肘と左肘ってくっつく?
物凄い速度で流れていくコメント群の中に、一瞬だけジョン松の名前が映った。だが内容までは当然読めない。
「なんて書いたの?」
〔パンツ穿いてますか〕
「・・・・・・」
こういうところだ、コイツの欠点はこういうところだと思う。ポジティブに捉えるならば素直。だがあえて、オブラートに包まずに伝えることも大事だろう。
「キモすぎるわ……止めとけマジで。モデレーターに消されるぞ」
〔いや違うんだって。ポコライオンが昔、ヴァペ中は集中力が上がるからパンツ穿かない時があるって言ってたことあっただろ?〕
「・・・・・・」
どうやら素直という表現はポジティブすぎたようだ。
愛すべきバカに格下げしよう。
たしかに、ポコライオンさんはそういう話しをしていたことがある。だがその時のアクセントはパ↓ンツ↑だ、パ↑ンツ↓ではない。
さらに、膝上まで隠れる大きめのトレーナー……たしかライオンの着ぐるみっぽいデザインだったかな? そのお気に入りの一枚を被ることで、百獣の王に護られている気がして集中力が上がる。これが話の正解だ。
ポコライオンさんの名誉のために言っておくと、ちゃんと下着はつけている。と思う。
「いや……あれはだな……まぁいいやもう。てか、まだ諦めてなかったのか
〔あたぼーよ、1%でも可能性がある限り俺は諦めないぜ〕
「……せいぜい頑張れ」
〔:配信まで何してたの? ── えっと今日はですね、友達とヴァペの練習をしてました。とても上手い友達がいて、いつも教えてもらってばかりでちょっと申し訳ないんですよね。もっと私も頑張らないと〕
華麗にスルーされたジョン松のセクハラ。まぁそれは当然の結果である。
視聴者数は現在9,539人。そのうちどれくらいがコメントしているかは分からないが、真っ当なコメントをしていたとしても配信者の目に留まる確率など1%未満に違いない。
〔やっぱ拾ってくんねーか〕
「当たり前だボケ」
〔ふっ。てかつづりんってヴァペのランク、ドミネーターなんだぜ知ってた?〕
「まじか、凄いな」
〔ゲームとか苦手そうなのにな、まじヴァー学って最近FPS力入れてるよなー〕
「なー。フューたんが同期でもヴァペ流行ってるって言ってたけど、そのうち箱企画とかやったりして」
〔おぉ、この流れでキア嬢もヴァペやってくんねーかな。ちょっと触ってるらしいって情報はあるんだが、まだ配信では見たことねーんだよな〕
「へぇ」
〔:ヴァペで他の子とコラボの予定ある? ── あ、そうだ。今度フューさんと一緒にヴァペ配信やろうかなって思っています〕
F・Y・U、この三文字のアルファベット発音を俺が聞き逃すはずもなく。
「なぬ⁉ フューたん⁉」
〔ほぅ〕
〔:どっちの枠ですか? ── あー、私の枠でやるかもです。ライブの後大会とかもありますし、実は定期的にフューさんとはコラボしようと思ってて〕
フューたんと定期的に⁉︎
ど、ど、どどどどうする......。
これは話がかわってくるぞ。
プルプルプル。
マウスカーソルが......。
つづりんのチャンネル登録ボタンの上で震えていた。
違う……よな?
うん、違う違う。
これは浮気じゃないよな、フューたんを推すためだし。
そうだよな、これは浮気じゃないよな?
「ジョン松‼ これは浮気じゃないよな⁉」
〔はい!? 急に何!?〕
カチッ......。
鋼の意思が折れた音というのは、どうやらマウスのクリック音と同じようだった。
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