初恋と絆創膏

音央とお

1

また冬がやってきた。

頬に触れる風の冷たさや白い息が、あの日の君の表情を思い出してしまう。


「二人ともさぁ、ゴロゴロしてるなら掃除機くらい掛けてくれない?」


新年の準備だと忙しそうに家の中を動き回る母が姉と私に声を掛けた。


「えー」っと不満の声を漏らしたのは姉の詩季しきで、県外に進学しているため昨日帰ってきたところだ。


「夜行バスで帰ってきたから疲れてるんだよね」


そう言って朝から炬燵の住人と貸している。わたしに「アイス取ってきて」「お茶入れて」と指図する姉は当然の如く「亜季がやってよー」と言う。

見るからに戦闘力高そうなギャルの彼女を怒らせると怖いのでパシリが身に付いている私はイラッとしつつも従ってしまう。怒らせたほうが面倒なのだ。


ささっと掃除機を済ませ、台所で見つけた蜜柑を数個抱えて炬燵に戻ってきたら、つまらなそうにリモコンを操作する詩季がいた。


「この時間はろくな番組やってないねー。あ、サッカーやってる」

「……サッカーなんて興味あるの?」

「今いい感じの先輩がサークル入ってるのさ。ルールとか何も分かんないけど先輩が好きだから話題になるかなって」


理由である。


「これ高校生の試合なんだね? イケメンいないかな!」


プレイよりもイケメン探しを始めてしまった。

期待外れの酸っぱさの蜜柑を噛みながら、私はテレビに背を向ける。


サッカーは見たくない。

見れば色んなことを思い出してしまうから。

しかし、


「あ、この子、結構イケメンじゃない? フォワードだって」


見て見て!としつこく促され、仕方がなくテレビに目を向ける。


「……あっ」

「ん? どうした?」


思わず漏れた声は小さかったけど気付かれた。


「いや、なんでもない」


誤魔化しつつも、私は姉の言うイケメンから目が離せなくなった。

選手としてはあまり大きくない身長だけど、泥臭くボールを追いかけ走り回る。あの頃と全然変わっていない。


解説者が口にする名前は、紛れもなく中学時代の元カレ・遠藤 那央なおだった。


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