自分の形
当番の時間は終わりに近づいたけど、相変わらず人が来ない。静かな時間だ。誠の側だったら練習で走り回り、怒号のような大声が飛び交っている頃だろう。
結局、終了時間間際に一人本を借りに来ただけで、片付けもすぐに終わり帰路につく。
今度の計画について、自分同士の対面はマイナスになる不安もあるし費用もかかるけど、決行を決めた一つの理由として、先月ついに美久に生理が来た。標準と比べるとやや遅いぐらいだと思う。いずれ訪れる変化でこれに限ったことではないけれど、男女の性差、美久と誠の肉体が別のものであるということを改めて認識させられた。
幼稚園児ぐらいまでは身体的な差は少なく、自分一人が二つの場所で別の役割を演じているだけのように思う時もあった。しかし自分の体は二つ、それぞれ違うのだと言うことは否応なしに感じさせられてきた。第二次性徴期に入った今は特にそれがはっきりとしてきている。これから成長していくに従ってその差はますます広がっていくだろう。
異なる肉体だとしても今のところ身体の操作には支障はない。目覚めた時点で頭の中での切り替えがうまくいっているんだろう。しかしそれが今後も継続できるのか? 『ずれ』が大きくなっていったら? 不安は募る。未来の自分はどうなっているのか、悪い想像がいつも付きまとう。現在14歳×2で、実質28年生きている。つまり今後ある程度長生きすると、場合によっては200年近くを体感することになる。そういった二人分の人生を一人の精神で抱えきれるのか。それとも物理的な頭脳自体は二人分あるのだから許容範囲に収まるのか。
ずっと気になっていることがある。自分達自身は実際のところどんな状態なんだろう。二重人格の逆、一つの精神や魂のようなものが二つの肉体の間を行ったり来たりしているようなものだと基本的には解釈している。
ここで気にかかるのは、完全に一つのものだという証拠はないこと。本来は二つの魂がどこかで癒着して境界線がなくなっているのかもしれないし、癒着どころか混ざりあってどこからどこまでか別の魂か分からないレベルかもしれないし、逆に一つの魂が肥大して中途半端に二つに分離しかけているのかもしれない。シャム双生児のように二つのものが一つになっているのか、細胞分裂のように一つが二つになっているのか。
もっと不均一な状態という解釈もある。もともとある二つの魂のうち片方がもう一方を取り込んでいって支配しつつあるとか、一つの脆弱な魂が強い魂に寄生して生き延びているとか、親となる魂が子となる魂を産んでいっている? 脱皮するように魂の抜け殻が剥がれ落ちて行っている? ……それとも二つの肉体があるというのがそもそも妄想に過ぎないとか。
何をどうすれば正体がわかるのか、手掛かりさえもつかめそうもない。そしてそんな状態は死ぬまで継続するのか――。今みたいなアンバランスな状態が未来永劫続く保証はない。……続いてしまったらどうなる? でも、その場合の心構えもしておかなければ。
万が一何らかの変化があるとして想像しやすいのは分離辺りかな。元々二つであったはずの魂に戻るか、一つの魂の分離が完了して完全な二つの魂になるか。――そうなったら、自分は美久と誠のどちらになるのだろう。
二つの魂が癒着していると仮定して、自分にとっての本体があるとすれば美久なのか、誠なのか。それとも現在の状態と関係なく、自分ももう一つの魂もいっしょくたにして乱暴に切り分けられてしまったら? 絡まった二つの糸を丁寧にほぐす事もせず刃物で切り分けてしまうように。今自分が認識している『自分』というものがバラバラになってしまう。
それがどういう事になるのかは、想像したくない。
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