自分の正体を

 色んなことを考えて、間違えないように話す癖がついた。

 美久である自分が、誠である自分が知るはずがないことを話してしまわないように気をつけるようになった。驚かせないように。疑念を持たせないように。ある意味では常に隠し事を悟られないようしている状態だった。

 おとなしい頭のいい子、と言う風に褒められることも多かった。でもそれは、結果的にそういう振る舞いになっただけのこと。

 美久の側で、美久の家族と美久の友達と笑って楽しく過ごす。誠の家族も友達も知り合いも一人もいない。朝になれば今度は誠の側でみんなと楽しく過ごすけど、今度は美久の側の人間は一人もいない。そしてそれを繰り返す。二つは完全に切り離されている。

 誰一人、自分の半分以上を知らない。

 知ってほしい、分かってほしい、だけど……。否定されたくない、心配させたくない。一体誰が自分たちの事を分かってくれるのだろうか。いつになれば分かってくれる? 理解してもらうための道のりはどれくらいだろうか。


 だったら、今は人に話すよりもまず行動をしてみよう。自分同士の対面――これから始めてみる。

 将来、可能な限り近い内に、壁を越えて自分の正体を知ってもらえるようになれば。


 幼い頃の記憶、千夏に砂場で自分の事を打ち明けた場面を思い出す。受け入れられた記憶、自分はまだそれに縋りついている。でもいつかは――。

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