第5話:「過去の亡霊」

ゴブリン退治の依頼を終え、ギルドで報酬を受け取った俺たちは街を歩いていた。


「今日の仕事はうまくいったわね!」


 セシリアが満足げに微笑む。リーナも「防御は完璧だったでしょ?」と胸を張る。


「むにゃ……疲れたから甘いもの食べたい」


 エレナがあくび混じりに呟き、みんなが笑い合う中、俺は心の奥で小さな違和感を感じていた。


(……誰かに見られている気がする)


 その感覚が消えないまま路地裏に差し掛かった時、背後から声がかかった。


「おい……待て」


 足が止まる。振り向くと、そこには一人の男が立っていた。目の下にクマを作り、生活に疲れたような表情をしている。しかし、その目は鋭く、俺を見据えていた。


「お前……まさか、あのデスゲームの……」


 心臓が強く跳ねた。全身に冷たいものが走る。


「……何のことだ?」


 口を開くが、声が少し震えた。男は一歩前に踏み出し、声を低くして言う。


「あのゲームで……俺の弟が死んだんだ。お前の“ルール”のせいでな……!」


 その瞬間、過去の光景がフラッシュバックした。血に染まったステージ、恐怖に歪む顔、そして勝者と敗者——。胸の奥が締め付けられる。


「待って、どういうこと?」


 セシリアが戸惑った声を出す。リーナも眉をひそめた。


「ちょっと、なんでレオンが責められるのよ?」


「関係ない……」


 俺は彼女たちの声を制した。これは、俺が背負うべきものだ。


「関係ないだと?」男の声が荒れる。「そのまま戦っていれば弟は勝てた!!それなのに……お前のルールさえなければ……!」


「……そうだな」


 否定しようとして、できなかった。デスゲームの運営者だった俺には、人を裁く権利なんてなかった。だが、そのルールによって人が死んだのも事実だった。


「この先も、のうのうと生きていくつもりか?」


「……」


「忘れるな。お前だけは、絶対に許さない」


 男はその一言を残し、踵を返して去っていった。街の喧騒が耳に戻ってきたが、胸の奥には重苦しいものが残ったままだ。


「レオン……今のって……」


 セシリアが心配そうに声をかける。俺は答えず、一歩ずつ歩き出した。


「待って、何があったの? 説明してよ!」


 しばらくの沈黙の後、俺は観念したように口を開いた。


「……昔、デスゲームギルドと貴族たちと結託して、勝者をコントロールしてたんだ。金持ちの連中は大金を賭けていて、俺は【ルールメーカー】で彼らが望む勝者を作り出してた。だが、ある時、ルールの設定を誤って……勝たせるはずだった戦士が負けてしまったんだ」


 胸の奥に重いものが広がる。セシリア、リーナ、エレナは静かに俺の言葉を聞いていた。


「それで、その戦士は死んだ。俺のせいでな……」


 言葉を終えると、冷たい夜風が頬を撫でる。だが——


「……で、それがどうしたの?」


 セシリアがあっさりと言った。


「お前、今は冒険者としてやり直してるんだろ? だったらそれでいいじゃないか」


 リーナが肩をすくめる。


「むにゃ……過去は過去だよ。今のレオンは私たちの仲間なんだから」


 エレナがあくび混じりに笑う。その言葉に胸の重さが少しずつ消えていった。


「……ありがとな」


 夜の街の灯りが、少しだけ暖かく見えた——。

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