追放されたデスゲーム主催者がセカンドライフを謳歌する

@usagiinu1919

第1話:「追放された男」

「勝負は決まったな」


 観客席からは熱気と興奮が渦巻いていた。デスゲーム「ブラッディ・ロワイヤル」もいよいよ大詰め。

 戦場に立つのは、オッズ1.1倍の最強魔法使いと、オッズ12.8倍の剣士。誰もが魔法使いの勝利を確信していた。


 ……が、俺には勝算があった。


 俺のスキル【ルールメーカー】は、自分が関わる戦闘に独自のルールを追加することができる。

 そして今回のルールは、

「カタカナを発音したら、一定時間行動不能」


 魔法詠唱にはカタカナが含まれる。つまり、魔法使いは攻撃手段を封じられるわけだ。

 これなら、剣士が確実に勝つ。ギルドの意向通りに。


試合が始まった瞬間、魔法使いは違和感を覚えた。


「……ん?」


 開幕を攻撃魔法で制するべく、彼はファイアーボールを唱えた。


 ——その瞬間、一瞬だけ身体が硬直する。

追撃が出来ない。


(……何だ?)


 一瞬の出来事だったが、確かに異変があった。まるで、何者かが妨害魔法をかけているかのように。だが、敵の剣士にはそんな技を使う気配はない。


 観客席からは「何をしている! 早く攻撃しろ!」と怒号が飛ぶ。


 その間に剣士が間合いを詰める——が、


「くらえ! ライトニング・スラッシュ!!」


 ——ピタッ。


 剣士の動きが止まった。


 は?


「ライトニング・スラッシュ」(カタカナ含む) → 禁止ルール発動 → 行動不能


 固まった剣士の目の前で、魔法使いがニヤリと笑う。


「ファイアーボール」


 ——ドゴォォォン!!


 剣士は吹き飛ばされ、動かなくなった。


「勝者、魔法使い!!!」


 俺は崩れ落ちた。

「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”あああああ!?!?」


 カタカナ禁止ルールを作った俺が、まさかの技名を叫ぶタイプを見落として負けるなんて!?



 順当な勝者を見届けた観客たちは思い思い会場を後にしていたが……


 貴賓席では、裏の賭けに乗った貴族たちが血相を変え、ギルドマスターの顔は引きつっていた。




「ちょっと待て! これは誤解だ!」


 俺は必死に弁解しようとしたが、興奮した貴族たちの怒号にかき消された。


「金返せー!!」

「絶対に勝てるのではなかったのか!」

「インチキルールを作ったやつを吊るせ!」


 大混乱。貴族達からは酒瓶や果物が飛んでくる。くそっ、こうなるとは思わなかった!


 俺のスキル【ルールメーカー】は、戦闘に独自のルールを設定できる便利なものだ。これまでにも、数々のデスゲームを調整し、望む勝者を作り出してきた。


 だが今回は、完全に俺のミスだった。

まさか必殺技を叫ぶタイプの剣士だったなんて想定外だった。


「お前のせいで、ギルドと大切なお客様が大損害を受けたんだぞ!!」


 ギルドマスターが顔を真っ赤にして怒鳴る。彼は怒りに震えながら俺の胸ぐらを掴んだ。


「お前の設定したルールのせいで、剣士は負けたんだ。 どれだけの金が動いていたか、わかっているのか!? それを帳消しにする手段は……たったひとつだ」


 ゴクリ、と俺は息をのんだ。


「ギルドを……辞めてもらう」


 その瞬間、俺の頭の中が真っ白になった。


「ま、待ってくれ! 確かに今回の失敗は俺の責任だ! だが、次は絶対に——」


「次はない。お前は終わりだ」


 ギルドマスターの冷たい視線が俺を貫いた。


 そして俺は——デスゲーム運営ギルドから、追放された。


 ◆


 その日、俺は路頭に迷っていた。


 所持金はゼロ。ギルドの拠点からも追い出され、行くあてもない。


「……どうすっかな」


 俺はため息をついた。


 これまで、俺はデスゲームを運営する立場だった。戦うのは参加者たちで、俺はルールを操る黒幕側。だが、今は何の後ろ盾もないただの一般人だ。


 いや、違うな。


「文無し無職のポンコツ元デスゲーム主催者……か」


 何もかも失ってしまった。俺に残されたのは、この日常生活では役に立たないスキル【ルールメーカー】だけ。


「……仕方ねぇ、冒険者にでもなるか」


 デスゲーム業界に戻るのは不可能だし、他の仕事もなさそうだ。なら、冒険者になって一からやり直すしかない。


 ——こうして、俺の『第二の人生』が始まったのだった。


 だが、この時の俺はまだ知らなかった。


 俺のスキルには、冒険者としての適性がバカみたいに高かったことを。


 そして——俺を狙う「敵」が、たくさんいることも……。


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