2.俺の正体
「危ない、落ちる……!」
彼に向って思わず叫んだ時にはすでに、私の体は
その
ただ、空っぽになった自分の手を、彼に向って必死に
でも、悲しいかな。私は運動オンチだった。
急に駆けだす、だなんて。慣れないことをしたばっかりに、私の足は見事に
「何してんだ、お前」
次の瞬間、私の頭上から妙に
誰だろう?
顔を上げた私が見たのは、さっきの
どうやら、彼は
結果、私は母猫にくわえられた子猫みたいな、情けない格好になっていた。
「ひょっとして、お前、俺を助けようとしたのか?」
「まぁ、実際に助けたのは俺のようだが。この俺が間違って河に落ちるようなヘマをするとでも?」
彼はひとしきり笑うと、
「……た、助けてくれてありがとう……」
私は、制服のネクタイを直しながらモゴモゴと言う。
「……でも、そこ、危ないから降りた方が良いんじゃ――?」
「そんなことより」
私のセリフをさえぎって、彼が
「お前、名前は?」
「
ボソボソと名乗る私に、彼は満足そうにうなずいた。
「ツバメ、か。幸運を招く小鳥の名とは
ニヤリと笑みを浮かべる彼のつり目が、赤く
どうにも
私は小さく
「そういうあなたの名前は? その制服、私と同じ
「そうだな……」
雨の混じる風で乱れた白髪をかき上げながら、彼が
「……では、この橋にちなんで、『カンダチ』とでも呼んでくれ」
「カンダチ、ね――」
とりあえずうなずく私。
でも、「カンダチ」だなんて聞いたことの無い名前だ。
と、いうよりも――
「――ん? 待って。『橋にちなんで』ってどういうこと?」
「なぁ、ツバメよ」
カンダチは再び私を
「お前、先ほどは俺を助けようと走ったのだろう? そんなお前を見込んで頼みがあるのだ。聞いてくれ」
「……頼み?」
「あぁ」
短くうなずくカンダチは、
「昨晩、俺の大事な
そう言うカンダチの顔を見て、私は小さく息をのむ。
その顔からは、さっきまでの
私は恐る恐る口を開いた。
「ギョク……って何?」
「見た目は黒い石のような物でな。大きさはこれくらいだ」
カンダチは右手の握りこぶしを掲げてみせた。
「盗人の顔は遠目で見えなかったが、服装はこれだ」
そう言いながら、カンダチはゆっくりと自分のブレザーの
「……つまり、
私の問いに、カンダチは
「俺は一刻も早く
「え? なんで私?」
私は慌てて問いかける。
「そんなの、学校の先生に言いなよ。それか、警察とかに――」
「それは無理なのだ」
カンダチはバッサリと否定する。
「なにしろ、今の俺の力では人の町まで行くことができん。河から離れると
気まずい沈黙が流れた。
雨の混じった梅雨の風が、ひゅるる……と間の抜けた音を立てて通り過ぎていく。
「……それ、どういうこと?」
私はなんとか口を開いた。
「ちょっと意味が分からないんだけど」
「……ツバメ。お前、
低い声で毒づくカンダチは、ガシガシと
と、思えば「よし、見せた方が早いか」と
私はますます混乱する。
「見せるって何を?」
「俺の正体を、だ」
その言葉と同時だった。
体が宙を舞う、
カンダチと私は手をつないだまま
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます