第31話 私、配信者ですけど何か?

 ファミレスでお会計を済ませた私達は、駅に向かうために繁華街の道を歩いていた。

 その道中は一日の出来事を振り返ったり、ファミレスでは話せなかった動画配信について歩きながら楽しく話をしていた。


 つい5分ほど前まではーーーー。


「お二人さん、超可愛いねー!!」


 信号待ちをしていると、韓国マッシュの黒髪男に話し掛けられた。いわゆる、ナンパだ。

 よく人の目がある場所で、女の子に話し掛けられるよね。恥ずかしいと思わないのかな。相手の気持ちも分からない人に、心を開くと思うなよ。


「君達、名前はなんていうのかな?」

「「…………」」


 私達は男の話を無視して、駅の方に向けて歩き続ける。ナンパ対策として、相手の話に耳を傾けないのが一番だからね。


 それでも諦めずに男は話し掛けてくる。


「名前が分からないから黒髪ちゃんと茶髪ちゃんって呼ぶね。それにしても黒髪ちゃんも茶髪ちゃんもスタイルがいいね! 俺なんかすぐお腹に肉が付くから維持する方法を教えてほしいな」


 勝手に変なあだ名を付けないでほしい。

 それにスタイルを褒められたところで、貴方に教える価値はない。それに視線が顔から下ーーー胸の方にあるのバレバレですからね。


「そうだ、連絡先教えてよ。 それで筋トレの話をしたり、悩み事を聞いたりするよ」


 意味不明。素性の知らない人に、誰が連絡先を教えると思う。それに悩み事を話したとしても解決策を見出してくれる訳ではないだろうから、交換条件として割にあわない。私だけが損をしている。


 ほら、段々と焦った顔になってきている。

 何かのネットで調べたのか知らないけど、そんな初心者丸出しのナンパは無意味だから。


「くっ……そろそろ俺の話に耳を傾けてくれてもいいじゃないか……」

「「…………」」


 次の手は人情に訴える気か。

 そんなことをした所で、私達の心が動くはずがないのにね。無駄な努力。お疲れ様です。


 先輩さんの方に視線を向ける。

 先輩さんはスマホ画面を見ながら、小さくため息を吐きを吐く。


「そうか…俺では無理なのか。 悲しいけど可愛いお二人さんとはお別れらしい」


 さっさと帰れー!!!


「最後に一言だけ言わせてほしい」


 男は咳払いをした。


「君達可愛いんだから、芸能界や動画配信者になった方がいいよ。俺、絶対に見るからさ!」

「…………っは?」

「お前……何言ってんだ?」


 男の『芸能界に挑戦した方がいい』に対して、私だけではなく、先輩さんも反応した。

 ただ「ありがとうございます」の反応ではなく、これは正反対の反応だ。


「私、これでも配信者ですけど何か?」

「えっ……そうなの」

「お主、何故彼女の配信を知らないのだ。そんな弱小者がオススメできる立場ではないだろ」

「お…お主?! 時代劇?!」


 男は口を開けたまま、目が点になっていた。


 その瞬間、先輩さんは私の手を掴み「行くよ」と言い、私は勢いに身に任せて一緒に走りだした。

 

⭐︎


 駅に着くと、ナンパ男は追って来ていないことに気付き、呼吸を整えながらホームへと歩いていた。


「ほんとナンパ男は面倒臭いよね」

「街中の女性に声を掛けるなら、自分の身近にいる女性に声を掛ければいいのにと思いますね」

「きっとアレだよ。 自分のことを知らない人に声を掛ければ、成功率が高いと思っているんだよ」


 確かに成功率は高いと思う。自分のことを知られていなければ、どんなに失敗しても笑って誤魔化せることができる。もし知り合いだったら誤魔化すことはできないし、何なら幻滅される可能性もある。


 普通の恋愛をしろと思うよ。


「まあ最終的には警察に相談をされて、警官に厳重注意とかされる羽目になると思いますけど」

「あるあるだね。 ナンパした女性が実は未成年でしたパターンもあるし」

「もう年齢詐称ですよ。詐欺ですよ」

「確かに詐欺は当てはまるね」


 先輩さんは小さく微笑んだ。


「話は変わるけど、動画配信をやればと言われた時、雪菜ちゃんの反応が良かったよ」

「お…お恥ずかしい。自分のことを知られていなかったのが悔しくて……」


 一生懸命頑張ってきた配信活動。

 個人チャンネルの方は急上昇に上がるほどの動画もあるのに、あの男は知らなかった。そんな人が言う絶対に見るは信用できない。あと自分の知名度の低さに泣けてくる。


「分かる!! 何故、あの男は雪菜ちゃんの配信を知らなかったのか!! 何だか腹立つな!!」

「私の為に怒ってくれてありがとございます」

「雪菜ちゃんのためなら、どんなことがあっても守ってあげるからね! もちろん大神君込みで」

「巻き込まれ体質の大神君ですね」

「それでいいのだ」


 電車内ということもあり、周囲に迷惑にならない程度の声量で笑った。


 それから最寄駅に着き、先輩さんが家の前まで送ってくれて解散した。もう彼氏だったね。


⭐︎


 七五三掛さんが帰宅してから一時間が経った。

 帰宅してから、七五三掛さんは俺に一日の出来事を楽しそうに話してくれた。


 色々と気になる話もあったけど、メールが来てから伝えたかった写真についての感想を、本人を目の前にして言えたのでホッとしていた。


 そしてベッドでゆっくりしていると、枕元に置いていたスマホが震えた。

 スマホを手に取り、画面を確認するとーーー先輩からのメッセージが来ていた。


 ーーー先輩からのメール? 何だろう?


 疑問に思いながら画面をタップすると、そこには驚きの文章が書かれていた。


『夕方頃から変な男に付けられていた。雪菜ちゃんから話は聞いていると思うけど、ナンパ男とは別の変な男。詳細はバイトがある時に話す』


 変な男だと…。考えられるのはただ一つ。

 例のコメントの人と、この変な男が同一人物である可能性が高いと想像できる。

 あくまでも憶測であるから判断材料としては弱いけど、念のため警戒はしておいた方がいいかもな。


『了解』


 ただ一言。

 その文章を送って、俺は枕に顔を埋めた。

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