第26話 先輩の助言は聞くでござる

 放課後。普段なら家にまっすぐに帰るところ、少し気になることがあったので、バイト先である喫茶店に寄ることにした。


 喫茶店に着くと、店内はまばらに席が空いており、レジには先輩が立っている。先輩に挨拶をしつつ、席を確保して、レジの方へと足を運んだ。


「大神君ではないか」

「店内に入った時に挨拶をしましたよね」

「それは視線だけでしょ。 ちゃんと言葉を交わして挨拶はしていないから」


 どちらも同じような気もするけど、先輩にとっては言葉を交わすことが大事になるのだろう。それなら先輩に合わせた方がいいな。


「なるほど… では改めて、先輩こんにちは」

「うむ、それでよろしい」


 また何かしらの真似をしているな。

 前回は少年雑誌系だったけど、今回は何系をやっているのだろう。まあ特に気になるようなことではないのでメニュー表に視線を落とすと、先輩の次の発言で一気に正解に辿り着くことになった。


「それで大神殿は何をご所望かな?」

「………」


 これ……時代劇系だ。名前のあとに“殿“と付けるのは時代劇しかない。そうなると、俺も先輩に合わせて“ござる“とか付けた方がいいのかな。


「どうかしたでござるか?」


 よし、普通に話そう。

 そう決意をして、俺は飲み物を頼むことにした。


「アイスココアをMサイズで一つ」

「無視しないでほしいでござる…だけど注文は承りましたでござる」

「どっちなんだよ……」


 先輩の言葉に呆れながら、俺はアイスココアの代金をお皿の上に置いた。そのお金を先輩がレジに入れ、その間にアイスココアをテキパキと作り、作り終わるとレジの場所に戻り、俺はレシートを受け取った。


 先輩はこちらに向けて微笑む。


「お待たせしました。ご注文のアイスココアになります。ごゆっくりお過ごしくださいませ」


 そこは最後まで通そうよ…。

 何で注文を終えた途端に、語尾の“ござる“が消えるんだよ。先輩……頑張ってくれよ。


「ありがとうございます」


 お盆を持って座席に戻り、一口アイスココアを啜ってからスマホを取り出した。


 スマホを取り出した理由はただ一つ。

 それは綱嶋さんが言っていたことを確認するためだ。彼女はコメント欄の中に『気になるコメント』があると言っていた。さらに周囲には警戒をした方がいいと忠告をしてきた。


 ーーーどんなコメントが来ていたんだ。


 あの時、俺はコメント欄を読んでいた。

 だけど緊張していたせいか、いくつのかコメントを何度も見逃している。その中に綱嶋さんが言うコメントがあるはずだ。


 画面をタップして、アーカイブを再生した。


 出だしのコメント欄には気になるようなコメントは見つからなかったので、再び画面をタップして10秒送りで確認していくことにした。

 動画が始まって10分くらい経ったところで、一つ引っかかるコメントを見つけた。


「“俺の嫁、暴走中“が綱嶋さんの言っていたコメントになるのか……?」


 仮にそうだったとしても、このコメントしか見ていない。警戒する理由には物足りない。

 そうなるとーーーまだ似たようなコメントがあるということになる。


 再び動画を再生させ、同じように10秒送りで動画を確認していく。そして一通り確認したところで、俺は一人で頷く。


「この人は要注意人物に格上げだわ。まさに確定演出だったな」


 数回ほどしかコメントはしていないが、そのうち半分のコメントの中に“嫁“という文字があった。

 以前、何かのネットニュースで、動画配信者のコメント欄に“〇〇の嫁“とコメントする人には気を付けた方がいいと書いてあった。だからと言って、全ての人が危ない人にはならないけど、この人は駄目と危険信号が出ている。


 ーーー女の勘ならぬ男の勘…だと言うべきか。

 こんなことを誰かさんの目の前で言ったら、腹を抱えて笑われそうだな。


 口元に手を添えながら微笑していると、突然話し掛けられた。


「大神殿。不気味過ぎるでござる」


 この癖のある話し方に聞き覚えのある声。

 あの人しかいないよな。

 確信しながら視線を声の主に向ければーーー予想の通り、目の前に先輩が座っていた。


「先輩。 バイトはどうしたのですか?」

「別にサボっている訳ではないよ。 今日は早めの入りだったから、今日のお勤めは終わりなのだよ」

「なら、早く制服を着替えてきた方がいいですよ。制服のままだとお客様に呼ばれますよ」


 これは経験則だ。一度、制服で他のことをしていたら、バイトは終わっていたのにレジをすることになった。そして列が切れなくて、結局上がれたのは五分後だった。あの時は辛かったな…。


「平気でござるよ。 何故なら、私はこの服を羽織るでござるからな」


 そう言い、先輩はパーカーを持ち上げると、それを上から羽織った。それなら喫茶店の制服は見えないから、話し掛けられることはないな。あと語尾は統一してほしいですね。


「それでバイト終わりの先輩が何か用ですか?」

「用はないのだけど、大神殿が何やら神妙な面持ちで画面を見ていたからね」

「そう……ですね。 少し厄介ごとになりそうで」

「この先輩に話してみるでござる。 何かしらの助言ができるかもしれないぜよ」


 確かに先輩からの助言はほしい。だけど七五三掛さんの件だし、第三者に話をして巻き込むのは気が引ける。どうすればいいものか…。


 先輩は手の甲を頬を開き、こちらに微笑む。


「何も悩むことはないぞ。 この私を巻き込んでこそ、事件の解決が進むのでござる」


 何やらカッコいいことを言っているんだけど、語尾の所為で全てが台無しだな。あと事件の解決が進むって…まだ事件は起きていないんだけど。


 俺はため息を吐き、先輩の方に視線を戻した。


「七五三掛さんの配信のコメント欄で気になるコメントがあり、それが厄介ごとになりそうで」

「あー、偶にいる〇〇嫁野郎のことね」

「 !? 先輩、知っていたのですか」

「知っているも何も、私は雪菜ちゃんのファンだから、全ての配信を見ているからね。その時に〇〇嫁野郎が目に付くんだよ」


 そう言えば、先輩は七五三掛さんのファンだったな。本人を目の前にして暴走をしていたし、色々と記憶から消していたわ。


 先輩は腕を組みながら、その〇〇嫁野郎のことについて愚痴を溢している。それほど前からコメント欄にいたとなると、七五三掛さんも知っていそうだな。


「とりあえず、その〇〇嫁野郎に関して、ある人から警戒しておいた方がいいと忠告を受けまして」

「ある人とは?」

「それは黙秘権を使わせていただきます」


 一応、先輩は他にも二人の女子と暮らしていることを知っている。だけど名前までは言っていないので、ここは黙秘するのが妥当だろ。


「許そう。 そしてある人の言う通り、忠告は耳に入れておくことを助言しておこう」

「分かりました。 先輩、そしてある人の言うことを頭に入れて行動したいと思います」

「よろしい。 そうゆう訳で大神殿、私が雪菜ちゃんと一緒にお出掛けできるように予定を聞いておいてくれ」

「……………っは?!」


 どうして俺が先輩の為に、七五三掛さんに予定を書かないといけないんだよ。一緒にお出掛けをしたいのなら、自分から聞けばいいのに。


 ーーーあっ、連絡先を知らないんだった。


 そのことを思い出し、俺は先輩にとあることを聞くことにした。


「先輩。 七五三掛さんに、先輩の連絡先を渡してもいいですか?」

「………………っな。私の連絡先を雪菜ちゃんに渡すなんて、何て恐れ多いでござる」

「あの……当日、待ち合わせ場所で会えなかったらどうするつもりですか?」


 どこに出掛けるかは分からないけど、待ち合わせ場所にいても会えない可能性はある。同じ場所にいるのに、同じ場所で会えない。不思議なことだな。


 先輩は腕を組み、「そうだな」と呟く。


「大神殿の言う通り、連絡先の交換を許可しようでおじゃる。 大神殿、頼んだでござる」

「お…おう。 頑張るよ」

「あと私の助言はちゃんと聞くように、ね!」


 先輩はウインクをしてから席を立ち、背中を向けながら手を振った。

 その背中を見送ってから、俺はアイスココアを一気に飲み干し、後片付けをした。


 ーーーやる事が多いけど、この件は真面目に考えておこう。動画で護身術とか見とくか。


 そんなことを考えながら、俺は店を出た。

 

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