第20話 配信当日の朝と準備
配信当日の朝。リビングにて俺、七五三掛さん、瀬倉さん、綱嶋さんの四人で朝食を食べていた。
休日の朝は綱嶋さんがいることが少なく、いつも三人での朝食が多かった。
ーーー動画配信、当日に限って…。
そんな大事な日に限って四人全員揃うのは、まるで波乱が起きそうな前触れにしか思えない。
あくまでも予感だけで、実際に起こるとは限らないから、頭の片隅には入れておいた方がいいな。
七五三掛さんは食べ進めていた箸を置き、二人に視線を向け、唇を動かした。
「茉莉花ちゃんと麗奈ちゃんは、午後は何か予定あるのかな?」
「予定は特にありませんが、七五三掛さんには何か予定があるのですか?」
瀬倉さんが首を傾げながら聞き返す。
「その…何と言いますか…」
七五三掛さんが言い淀んでいると、綱嶋さんが横から言ってきた。
「今日が配信日だから家にいてほしくないんでしょ。ちなみに、私は外出して家にはいないから心配しなくてもいいから」
綱嶋さんの言葉にドキッとしたのか、七五三掛さんの顔が少し動揺しているように見える。
「そ…そうなんだよね。 実は配信をすることになってて、二人には見られると恥ずかしいんだよね…」
見られていることに慣れているはずの七五三掛さん。そんな彼女が恥ずかしいというのは、きっとカップルチャンネルをやることに関してだろう。
「配信ですか! 七五三掛さんの配信をしている姿を見てみたいですね」
「 !? 別の日にやる配信なら近くにいてもいいけど、今日の配信はちょっと困る…かな」
「そうなのですか? 七五三掛さんがそう言うのでしたら、後日見学させていただきたいですね」
よ…良かった。この配信に関しては、二人には完全に秘密裏に進めていた話。婚約者候補同士にとって、この活動は七五三掛さんのアドバンテージにもなる。その本人が本気で婚約者候補として思っていれば……の話だけどな。
俺は七五三掛さんと視線を合わせて安堵していると、綱嶋さんが余計な一言を言ってきた。
「まあ本人が嫌がっている理由はカップルチャンネルにあるんだろうな」
「「 !? 」」
「カップルチャンネルとは…何ですか?」
その一言を聞き、瀬倉さんは再び首を傾げながら、七五三掛さんに聞いてきた。
「その…カップルチャンネルとは…擬似カップルになって一緒に配信をするみたいな…ことだよ」
「なるほど。 それで相方は誰なのですか?」
「それは…」
ちょっと、チラチラとこちらに視線を送るのはやめてくれ。それだけで相方が俺だと言うことが、瀬倉さんにバレてしまうから。
「…………」
ほら、綱嶋さんがこちらを見てきているよ。
ていうか、綱嶋さんにはバレていないか?
「なっ…何か言いたいことでもあるのかな?」
「………別に。その相方が真面目に配信できるのかなーって思ってね」
「だ…大丈夫だとは思うけどね」
「ふ〜ん」
やっぱり綱嶋さんには全てがバレている気がするな。だけど言いふらす雰囲気はないから、意外といい人なのかもしれない。
俺達のやり取りを見ていた瀬倉さんが不満そうに頬を膨らませていた。一方、七五三掛さんは「任せた!」と口パクで他人任せにしていた。おい…!
「綱嶋さん! 綱嶋さんは相方が誰か分かっているようですね?」
「さぁーね。 そんなに気になるなら、自分の目で配信を視聴すればいいんじゃない?」
「そうですね! やはり自分の目で確認するのが一番ですよね!」
そう結論し、七五三掛さんの方に視線を向ける。
「七五三掛さん。 私、部屋で配信を視聴しますね! それなら邪魔にはならないのでいいですよね?」
「まっ…まあいいよ」
歯切れが悪い返事を返す七五三掛さん。
それはいいのかよ!見学がダメなら、配信部屋の近くで配信見るのもアウトだろ。色々と不安な要素はあるけど、一番怖いのは配信終わりの突撃だな。
ーーーまあ瀬倉さんの場合は突撃はすることはないとは思うけど……多分。
てか、段々と空気が悪くなっている気がするのに、綱嶋さんは普通に朝食を食べ進めているよ。
「……………なに?」
横目で見ていたはずなのに、綱嶋さんにはあっさりとバレてしまった。視線に敏感すぎるでしょ。
「いえ…特に何もありません」
「あっ、そう。 なら、こっち見ないで」
「すみません…」
それから無言のまま朝食を食べ終え、食べ終わった人から自分の部屋へと戻っていった。
⭐︎
配信開始三十分前。既に配信用の衣装ーーータキシードに着替えた俺は、七五三掛さんの部屋にいた。目の前には七五三掛さんが制服を着て、配信の準備をしている。
「それにしても朝は驚いたよね」
カメラの位置を確認しながら、七五三掛さんはそんなことを呟いた。
「確かに驚いたわ。瀬倉さんがあそこまで配信に興味があるとは思わなかったし、綱嶋さんには何もかもがバレているように思えたよ」
「ほんと!! 茉莉花ちゃんが配信を見ているイメージがないよね。ザ・お嬢様って雰囲気だし。あと麗奈ちゃんに関しては、あれは回避しようがないよね。勘だけはいいみたいだし」
「瀬倉さんの話は分かるけど、綱嶋さんの話はどこ情報なんだよ…」
そう聞くと、七五三掛さんは口元に人差し指を添えてーーー。
「内緒。 乙女の秘密だよ」
と、微笑みながら答えた。
「それならそれでいいよ」
仮に問い詰めたとしても、七五三掛さんは一つも質問には答えてくれないと思う。そして時間だけが過ぎていき、結局何も分からないまま配信開始の時間になってしまう。なら、ここで諦めてモヤモヤを作らない方が最善だろう。
「それで配信開始したら挨拶はどうすればいい?」
様々な動画配信者を見ると、出だしは挨拶から始まっている。当然、七五三掛さんの動画にも挨拶はあるのだけど、それを俺が一緒にやってもいいのか気になっていた。
「そーいえば、挨拶の打ち合わせはしていなかったね。私の『スノウこんにちは。雪菜だよ〜!』を真似してもいいよ!」
「それは…真似することはできないね」
その挨拶の中にある“スノウ“は雪。七五三掛さんの名前に雪の文字があるからできること。
俺の名前には雪の文字は一つもない。
だからこそ、俺の挨拶は別のことを考えないといけない。
ーーーでも名前関係の挨拶をすると、身バレの危機があるよな。
何かないか、と周囲を見渡してみる。
そして思い付くものから、七五三掛さんに提案してみることにした。
「タキシード関係はどうかな?」
「う〜ん…。 タキシードは何か違うかな〜」
「それじゃあ、仮面?」
「仮面………仮面か………」
七五三掛さんは腕を組んで、何かを考え始めた。
そして数分間の沈黙の後、七五三掛さんは「これだ!」と言って、視線をこちらに向けてきた。
「大神君の挨拶は『マスカレードこんにちは。僕のことはマスカレードって呼んでください』
「ま…マスカレード?!」
七五三掛さんには申し訳ないけど、物凄くダサい挨拶なんだけど。えっ…俺がこの挨拶をするの。
待て待て待て、物凄く恥ずかしいんだけど。
「ちなみにだけど、その挨拶に対して私は『仮面が取り柄なのかなー?』とツッコミを入れるから」
あっ…これは確定事項なのね。
いや、まだ1パーセントの可能性は残っているはずだ…。
「他の挨拶…は?」
「受け付けておりませーん!」
七五三掛さんは腕でバツのマークを作り、微笑みながら言ってきた。
「ですよねぇ…」
「よし、これで配信の準備はできた。 あとは配信まで待つだけだね」
「そうだね」
緊張してきた…。いよいよ俺が動画配信者デビューするのか。どんな配信になるのか分からないけど、迷惑にならないように精一杯頑張ろう。
隣の部屋に瀬倉さんがいるのは気になるけど。
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