第12話 平和的に解決できる言葉「ノーコメント」
「この度、妹が大変ご迷惑をお掛けしました」
数時間後ーーー夕飯を終えた俺はリビングにて土下座をしていた。目の前には七五三掛さん、瀬倉さん、綱嶋さんが俺のことを見ている。
「大神くん、土下座はしなくていいですよ」
瀬倉さんが少し取り乱しながら言う。
「そんなに謝らなくても大丈夫だよ。 麗奈ちゃんだって怒っていないもんね?」
そう言いながら、七五三掛さんは俺の肩をポンポン叩き、そして綱嶋さんの方に微笑みながら聞く。
「まあ…過ぎたことだし、親が代わりに怒ってくれていたから…もう気にしていないから」
実は俺が呼んだ助っ人はーーー母さんだ。
暴走した玲香を止められるのは俺でもなく、父さんでもなく、母さんしかいない。
当然、母さんが目の前に現れたら、玲香は目を丸くして『ど…どうして…ここに』と目を丸くしながら驚いていた。それからは早かった。
母さんは三人に向けてお詫びをして、玲香も無理矢理頭を下げられていた。
「ほらね。 麗奈ちゃんも何も気にしていないって言っているんだから、顔をあげよ!」
「そうですよ。 いつまでも土下座をさせている訳にはいきません。 綱嶋さんも何か言ってください」
「仕方がないわね…さっきも言ったけど、気にしていないから土下座はやめていいわよ」
三人にここまで言われたら、このままでいる訳にはいかないよな。そう思い、俺は顔を上げた。
「ほらほら、おでこが赤くなっているよ〜」
「し…七五三掛さん?!!?」
突然、目の前に来た七五三掛さん。
そして前髪を左手であげ、右手でおでごをツンツンしてきた。胸の鼓動が高くなるのを感じる。
何かを感じたのか、耳元に口を近づけてきた。
「(こんなのでドキドキしていたら、これからの同棲を乗り切れないよ)」
「そ…そんなことは…てか、七五三掛さんがドキドキさせるようなことをしてくるから」
「(だけど〜同棲するってことは、私達のパジャマ姿を見れたり)ーーーって、うわ」
突然、七五三掛さんが後ろに倒れた。
原因を確認しようと顔を上げると、瀬倉さんが七五三掛さんの肩に手を置いていた。
つまりーーー七五三掛さんが倒れた原因は、瀬倉さんが後ろに引っ張っていたから、だ。
「し…七五三掛さん!! いまのは距離が近すぎると思いますよ!!」
「ちょっと、ま…茉莉花ひゃん…痛いから」
瀬倉さんは七五三掛さんの頬を左右に引っ張られ、七五三掛さんは少し涙目になっていた。
「どうして…そんなに距離感が近いのですか」
「そんなことを言われても、これが私だから…としか言えないんだけど…」
「だとしても、もう少し距離感というものを考えてほしいです!!」
どうして瀬倉さんはここまで熱意があるんだろう。確かに距離感は近いのは悩みどころだけど、それとは別のこともありそうな気がする。
結論が出ないので頭を掻いていると、横から声を掛けられた。
「あのさ…私はもう気にしていないからさ、そんな深く悩まなくていいからね」
どうやら妹に関してまだ悩んでいると思っていたらしく、綱嶋さんが申し訳なさそうに言ってきた。
別に妹について悩んでいる訳ではないんだけど、綱嶋さんにはそう見えてしまったのか。
だけど、ここで否定したら綱嶋さんに恥をかかせてしまう。それだけはダメだよな。同棲初日から親密度がマイナスになりそうだし。いや、既にマイナスにはなっているのか。多分…。
「その…ありがとう。 あと先に謝っておくと、これからも妹が来たら突撃されると思う…」
これは確定事項だと思う。
母さんに怒られているけど、玲香があれで諦めることはない。今回に関しては、妹が好きな“美少女“が絡んでいるからこそ、怒られても何度でも突撃してくる。もはや兄ですらしつこいと思うわ。
それを聞き、綱嶋さんの表情が暗くなる。
「ま…マジ? お前の妹さ、暴走やばくない?」
「何も言い返せません…」
「兄としてさ、妹の暴走くらいは止められるようにならないとダメだからな?」
「ごもっともです」
正論を言われて、強気に言い返せない。
無意識のうちに正座をしているし、綱嶋さんは腕を組んで睨んでいる。
まさに獲物を狩る鷹が綱嶋さんで、それに怯える兎が俺…だな。
「まあまあ、そんなに追い詰めないの!」
瀬倉さんから解放された七五三掛さんが近寄り、綱嶋さんの背中をポンと叩いた。
よく見ると、七五三掛さんの頬が少し赤くなっているのが分かる。あれから何度か頬を引っ張られたようだ。
「別に追い詰めてはいないから。ただ世間一般的なことを彼に教えていただけだし」
「それは世間一般的なことの内に入るのでしょうか?」
瀬倉さんも近付き、綱嶋さんの言葉に少し首を傾げながら質問する。そして返答を待たずして、瀬倉さんは言葉を続ける。
「兄妹というものは、その家庭によって変わりますし、様々な兄妹の形もありますよ?」
「…………まあ瀬倉の言い分も間違ってはいない、とは思うよ」
ここで綱嶋さんのツンデレ発動。発動されたことにより、瀬倉さんと七五三掛さんの頬が緩む。
当然、俺の頬も緩みそうになるが、ここで緩ましたら警戒心が最大になりそうなので押し殺した。
二人の表情を見て、綱嶋さんは顔を赤らめる。
「な…なんだよ」
「いや〜 麗奈ちゃんのこんな表情が見れるのも、同棲の一つの醍醐味だなーって、思ってね」
「そうですね。 学校では不良ぽく見せても、家では普通の可愛らしい女の子ですね」
「か…可愛いって言うな。私は素行が悪い不良娘なんだよ」
自分で不良娘とはあまり言わないと思うけど、確かに同棲していったら、普段の学校生活では見られないことがあるのかもしれない。
「そんな不良娘ではありませんよ」
「もう照れちゃって〜! ね、大神くんも可愛いって思うよね?」
そこで俺に振らないでくれ…。
俺が何を答えても、いまの段階では好感度はマイナス一直線なんだから。
恐る恐る、綱嶋さんの方に視線を向けるとーーー綱嶋さんはこちらに鋭い眼光を向けていた。
要するに『可愛いって言うなよ』的な意味を込めて、こちらに向けているのだろう。
そうなると、俺が答えるのはただ一つ。
「ノーコメントでお願いします」
これが平和的に解決できる言葉。
綱嶋さんには睨まれないし、七五三掛さんや瀬倉さんにとってはつまらない回答にはなるかもしれないけど、俺は無傷で事を済ませられるから何一つ問題はない。
そう答え、もう一度視線を三人に向けると、七五三掛さんと瀬倉さんは「つまらないのー」や「もう少し意見をハッキリと言えるようにしましょう」と言われ、綱嶋さんは「まあいいだろう」的な視線を向けてきていた。
そして瀬倉さんが手を叩き、口を開く。
「そろそろ時間なので、各自部屋に戻り、明日に備えましょうか」
気が付けば時刻は午後二十一時半を回っていた。
これから就寝準備をするとなると、ここが解散するには丁度いい時間になるのだろう。
だけど、ここで一つ問題が起こる。
「お風呂はどうする?」
七五三掛さんの一言で、その場にいる全員が反応する。理由は簡単で女性三人、男性一人の環境でお風呂となれば、どっちが先に入るか問題だ。
「私は最後の方がいいですね。 かなり時間が掛かるので、他の方にご迷惑をお掛けするかもしれません」
瀬倉さんは小さく右手を挙げて発言した。
「私も順番はいつでも平気だよ」
次に七五三掛さんが言った。
「私は最初でいいけど、こいつが先に入ることや後に入ることは容認できない」
二人の穏やかな回答に対し、綱嶋さんはこちらに視線を向けながら言ってきた。
よくある話だな。男が先に入ったら、女性は汚いから入りたくないや、男が後に入ったら、女性は残り香をとか言ってくる。まあ親密度がないからこそ言われる案件の一つではある。
「そしたら大神くんがお風呂に入れませんよ?」
「そうだよ、湯船で疲れを取りたいでしょ!」
瀬倉さんと七五三掛さんの意見に同意だ。
だけど、その説得では綱嶋さんが首を縦に振るとは思えない。
「却下。男は黙って銭湯でも行きなさい」
ほらね。首を縦に振るどころか、人差し指を外に向けて言ってくる。
「お金がいくらあっても足りませんよ!!」
「そうだよ!仲間外れは可哀想だよ!」
まあ確かにここ数年の銭湯は値段が高騰している。そんな銭湯に毎日通っていたら、破産することは間違いない。バイト代が赤字だよ。
「知らない」
一方、綱嶋さんは腕を組みながら、これだけは譲れない、という雰囲気を出して拒む。
それ対して、必死に説得をする二人。
なんだか申し訳なくなってきたけど、ここで俺が参戦したら余計にややこしくなるのは確定事項。
なので、二人の説得を聞きながら、その様子を観察することにした。
それから三十分後。何とか説得に成功して家のお風呂に入ることを許可されたが、湯船に入る前に体を洗うなど少しだけ条件をつけられることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます