第5話 七五三掛雪菜のお願いごと
「ーーーーで、偶然流れてきた写真に目を奪われてから、ずっーとファンです!!」
「ありがとうね〜!」
数秒しか遅れていないはずなのに、二人は席に着席をしていて、会話がかなり弾んでいた。
そして先輩の感想を聞いた七五三掛さんは、先輩に微笑みながら出されていた右手を握り返した。
つまりーーー無料の握手会が目の前で行われていた。他のファンの人達が見たら羨ましがられる光景なんだろうな。
「それで雪菜さんがここに来たのには、何か用事があったのですか?」
平静さを取り戻した先輩が首を傾げて聞く。
「そうそう、大神くんに用事があったの!」
「大神くんに…?」
そう言うと、先輩はこちらに視線を向けてきた。
続けて、七五三掛さんも視線を向けてくる。
ーーーだから何でこちらに視線を向けて来る。
ほら、先輩が疑心の目を向けてるじゃん。
一つ深呼吸をしてから、俺は隣の席の椅子に座り、そして二人に視線を向けた。
「それで用事は何ですか?」
「もう…これから同棲する間柄なのに、距離感を感じる言い方は嫌だな〜」
「し…七五三掛さん?!」
なんて事を先輩の目の前で言うんだ?!
確かに同棲(回避不可能)はするけど、それを先輩の前で言わなくてもいいと思うんだけど。
貴方の目の前にいる方は、貴方のガチファンの方になるんですよ?そんなファンの目の前で『同棲』の二文字は禁句でしょ…。
ほら…先輩からの「説明をしなさい」と言わんばかりの視線が痛い。
「ほらほら、説明してあげないと〜!」
自分は関係ないからと、ニヤニヤしながら言う七五三掛さん。
大きなため息を吐き、先輩の方に視線を向けた。
「説明が難しいのですが…同棲をすることになりました。…………婚約者候補の人達と」
「…………っえ?」
正しい反応だと思いますよ、先輩。
誰だってパワーワードを聞いたら、そんな反応を取りますから。俺だって、硬直したのだから。
「大神くんの言う通り、私と大神くん含め、残り二人の計四人で同棲することになりました」
その言い方だと、婚約したことを彼氏の両親に伝えにきたカップルみたいな雰囲気だな。
「け…計…四人?! 何それ、ハーレムじゃん!」
ワクワクしたような視線を向けてくる先輩。
「現実的にハーレムは実現しませんので、俺は一つも興味ありません」
「そう言って、内心ドキドキしているんでしょ?」
「きっとドキドキしていますよ。顔合わせの時もドキドキしていた表情に見えましたから」
「…………話がないようなので、俺は仕事に戻らせていただきますね」
そう言い、俺が立ち上がると、七五三掛さんが「待って」と俺の裾を掴んできた。
「ちゃんと用事があるの!!」
「はぁ…分かりました」
小さくため息を吐き、俺は椅子に座り直した。
「それじゃあ、私は仕事に戻っているね〜!」
あれだけ興味深々だった先輩は、七五三掛さんの様子を見て手を振りながら仕事に戻っていった。
「それで用事は何かな?」
「実は用事といいますか…お願いといいますか…」
七五三掛さんは指をツンツンさせながら、何か言いづらそうな雰囲気を出している。
「一応、バイト中だからさーーー」
「うん…分かっているよ。だから、待ってて」
七五三掛は大きく深呼吸をして、こちらに視線を戻してから言葉を続けた。
「私と一緒に……インフルエンサーをやらない?」
「俺が七五三掛さんとインフルエンサー?」
「最近伸びが悪くなってたから、何か新しいことを始めないといけないなと考えていたの。そこにやってきたのが婚約者候補の話。これはカップルチャンネルをやるチャンスなのではと思ったの」
「な…なるほど」
色々と言いたいことはあるけど、七五三掛さんの目を見れば本気だということは分かる。
俺は彼女のSNSを見ることはなかったので、低迷していたことは知らない。だけど彼女は嘘を付く人ではないと言うことは、数回しか話していないけど確証は持てる。
ーーーまあ手伝いくらいならいいかな。
窓の外を眺めながら頭を掻き、視線を戻す。
「分かった。手伝いくらいならいいよ」
「 !! ありがとう!! 色々と計画を練らないといけないから、後日話し合おうね!」
「まあ俺は何も分からない状態だから、ほぼ七五三掛さんに任せっきりになると思うよ」
「任せなさい! この先輩インフルエンサーに!」
自信満々に胸を張る七五三掛さん。
そして席を立ち上がり、店の出入り口へと向かおうとした時、何かを思い出したのか踵を返した。
「あっ、同棲する日程が決まったよ! 来週の土曜日に引っ越しするから予定開けておいてね!」
そう言い残して、七五三掛さんは店を出た。
「………っは? 突然すぎるだろ」
いつ同棲するのか、そもそも同棲する物件はどうなるのか分からない状態なのに、いきなり同棲する日程が決まるのかよ…。それなら最初に息子に伝えないとダメだろ。
そんなことを思いながら厨房の方に戻ると、先輩は注文されたと思われる料理を手際よく作りながら、こちらの方にジト目を向けてきていた。
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