2億円で人生を売った男、異世界で生体兵器になる
唯物論チワワ
2億円で人生を売った男
第1話 だから、僕は異世界転移することにした
人歴416年10月01日 大森林
???
せせらぐ川の中、目が覚めた。
時刻は不明。日差しの加減からして朝だと推測する。
浅い川の中でプカプカと浮いていた身体を起こし、よろめきながら岸へ。歩くたびに自分の身体からガシャガシャと金属音。
見下ろすと、革と金属でできた衣服――鎧か?これは――を身につけている。
川に流されないよう、必死に歩いて陸に上がり、思わず倒れ込む。
空を見上げる。
澄み渡る青い大気に、薄くモヤをかけたよう雲。
遠くに見える山影の上、白くなった月が一つ。
視線を落として周囲を確認する。ここは恐らく森で、目の前には流れる川。
仰向けのまま、空に透かすように右手を掲げると、革性の粗末な手甲があった。水を吸って重量を増した手甲が僕の手を覆っている。
息が整ったため起き上がり、自分の身体を確認する。
腰のあたりをまさぐると、木製の鞘に収められた、鉄製の剣を発見した。
鞘から抜き、刀身を晒す。
刃渡りは70~80cmほど。これが短いか長いかは分からない。剣など持ったことはない。
鏡面のように反射した鉄剣の腹に、男の顔が映った。
緩く癖のついた黒髪に、暗い赤銅色の瞳。瞳孔の中には、罰点(×)のような模様が映る。
鼻は高めで、肌の色は白い。唇から右耳にかけて新しい傷があり、ジクジクと血が流れていた。
イケメンかどうかは分からないが、西洋系で悪くないビジュアルだと思う。
しかし、知らない男の顔だった。
僕は抜き身の剣を放り投げ、空を仰いだ。
剣はカラリと砂利を散らしながら地に落ち、砂が足元にかかる。
空が綺麗だ。綺麗な空には鳥たちが飛んでいる。その鳥たちはとても大きいようで、トカゲのような身体に翼がついている。
上空でお互いに火を吐き合って遊んでいるようだ。のどかな光景だ。
「……話が違うっ!!」
深い森、死体が流れる川のほとり、僕ではない僕の声が反響した。
《序章 2億円のために人生を売った男》
西暦2016年8月17日 東京都千代田区大手町
明後日までに2億円が必要になった。
だから、僕は異世界転移することにした。
異世界の発見から26年、地球人類の生活に異世界産の物質・技術が根付いて久しい。
地球人類は数多くの異世界と交流し、歴史的背景の異なる異世界たちの技術を研究・統合して爆発的な進歩を遂げた。
僕が生まれたのは、公式記録で異世界人との接触が始まってからちょうど1年後のこと。
僕が成長期を終えて自我が確立された頃には、異世界は地球人類にとって普遍的な存在となっていた。
地方の生活では異世界人と交流する場は少ないが、東京駅や銀座、あたりを観察していれば時々そこらへんをほっつき歩いているのを見ることができる。
だが、異世界から生還した地球人類に出会うことは、ほぼない。
「
と事務のお姉さんに呼ばれ、会議室に入る。
東京駅前の一等地にそびえ立つ高層ビルの中、僕は就職活動ぶりの面接試験を受けていた。
何のためか。
異世界に転移するためだ。
会議室には僕以外に10人ほどの人間。
その中で面接官は3人らしく、左からおじさんと、おじさんと、お姉さんだ。
お姉さんはモデル体型で、長い耳が特徴的なエルフだった。
面接官以外の7人は、壁際の椅子に腰掛けて僕の方をじっと見つめていた。
「どうぞ座って。本当に時間がありません。一問一答で簡潔に答えてください。急ぎはしますが、焦らず、的確に質問にお答えください」
僕が腰を下ろす前から真ん中のおじさんがペラペラと話し始める。
本当に時間がなさそうだ。
「お名前、年齢と現在お勤めの会社、最終学歴を」
「
一問一答。簡潔に答える。左のおじさんがノートPCに記録していく。
「優秀。お勤め先、隣のビルですよね?」
「はい」
「今日は平日ですが、有給で?」
「いえ、上司から許可が降りなかったので、無断欠勤です」
「…ふむ。応募の動機を教えてください」
「緊急で金が必要です。大金が。詳細はエントリーシートに記載しています」
「……なるほど。たしかにこれは、緊急だ」
僕の応募動機は説明すると長くなるので、詳細な説明は省く。
ちょうど昨夜、緊急で億単位の金が必要になった。
絶望していたところ、この企業の募集がSNSで流れてきた。
渡りに船ということで、爆速でエントリーシートを書き上げて爆速で応募した。
爆速で面接の案内が来たため、爆速で面接を通過してここまで来た。
それだけのことだ。
面接官3人が手元の紙――おそらく、僕のエントリーシートだ――に目を通す。
「異世界の危険性については承知の上ですか?」
「はい」
「当社が異世界に派遣した人材の生還率は21%です。承知の上で?」
「はい」
「今回転移する異世界ですが、事前情報が一切ありません。言葉を選ばずに言えば、募集しているのは人柱です。それも承知で?」
「はい」
「分かりました…医療行為に関して医学的・宗教的な禁忌はありますか?」
「いいえ」
「アレルギーなどは?」
「花粉症です」
そう答えると、おじさん2人が横に座るエルフのお姉さんの方を見た。
エルフが鈴のような声で言う。
「たぶん大丈夫」
真ん中のおじさんが面接を続ける。
「生命に危険が及ぶ仕事に抵抗は?」
「必要ならば、ありません」
「他人に暴力を振るうことに抵抗は?」
「法律で禁止されていれば、あります」
「日本ではない場所で、法律の及ばない場所で、必要に応じて他人に暴力を振るえますか?」
「おそらく、はい」
「ご家族は今回の仕事について反対していますか」
「伝えていません」
「血縁者に政治家はいますか」
「いいえ」
「血縁者の死因を思いつく限り挙げてください」
「大腸がん、C型肝炎、老衰、膵臓がんです」
おじさん2人が横に座るエルフのお姉さんの方を見た。
エルフが鈴のような声で言う。
「たぶん大丈夫じゃね?」
面接が続行される。
「血縁者に反社会勢力に属する人物はいますか」
「曽祖父が組に所属していました。あと多分、叔父も」
「あと3問。異世界で死ぬ覚悟はありますか」
「はい」
「もし、この面接に合格した場合、生きて地球に帰ることを諦めますか」
「いいえ。…死ぬ覚悟は、生還を諦める理由にはならないかと」
そこまで質問に答えると、エルフの女性が真ん中の男性に何か耳打ちをする。
面接官の3人がアイコンタクトで何らかの意思疎通をする。
「最後の質問。異世界の人間を…もしくは、人間に極めて酷似した知的生命体を、貴方の目的の為に殺すことはできますか?」
「…それ以外に方法が無いなら恐らく、はい」
エルフのお姉さんがバッと立ち上がり、ビシィっと僕を指差して叫んだ。
「よしっ!こいつで決まり!!!」
わああああっ!っと会議室にいた人間達が歓声を上げた。
エルフのお姉さんはガッツポーズ。
左のおじさんと真ん中のおじさんは安心したのか、大きく息を吐いている。
「これは、合格ということで?」
「うん、合格だ。いや~、良かった。4人いた転移予定者のうち、1人が昨日になって逃走してね。転移枠が1つ余っていたのだけど、転移先に適応しそうな人間がどうしても見つからなくて焦っていたんだ」
「ああ、だから午前3時とかに募集始まったんですね」
「ああ。今回のような、未開の異世界への転移は経済価値が高い。1つ枠を無駄にするだけでも決算が大狂いしてしまう」
真ん中のおじさんが疲れたような笑顔で話しかけてくる。
「なるほど。それは、僕も採用されて良かったです。ちなみに、転移予定者の逃走理由は?」
「嫁の妊娠が発覚し、死ぬのが怖くなったらしい。」
「そうですか…。気持ちは分かりますけどね。それにしても、随分と時間がなさそうですが、何故?」
「あと90分で異世界側のワープゲートが閉じる」
ん?90分?
「では、僕は90分後には異世界に?」
「いや、マージンを取って43分後だ」
「時間、ないですね」
「その通り。さあ、準備を」
こうして、僕は人生を2億円で売ることになった。
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自分の作品に対するフィードバックが欲しいなと思っており、読者の方々からはこの小説ってどういう印象なんだろうと気になっています。
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