第39話:祭り③

賑やかな声が聞こえる方へと歩みを進める七人。通りの角を二つ曲がった先に広場があった。ダビドゥス市民がお祭りの際に催し物をやる小さな広場だ。

屋台が目白押しのメインストリートとは違い、少しだけ落ち着いた雰囲気の広場で、普段は子供たち向けの露店や家族連れの憩いの場となっている。

それが今日は何やら賑やかだ。


彼らは何となく広場に足を踏み入れてみた。

そこでは何故か休暇を与えた兵たちが大勢集まって何やら騒いでいる。

ケンカやトラブルの類ではないが男女問わず兵士達の人だかりができて何やら楽しげに騒いでいる。


「・・・なんだ?」

ラークが兵士達に気づかれぬ様にそーっと覗き込んでみる。

「・・・にょ?」

アヤメもそろりと覗き込む。

「ふむ・・・」

キャメルは少し下がってラークとアヤメを観察している。

「・・・?」

ウォーロックと皇子達はキャメルの後ろから様子をうかがっている。


「あれは?的・・・か?それと、兵は何を持っている?」

ラークが視線を向けた先には広場の奥に的の様なものがいくつか設置され、20メートルほど離れた手前から兵士達がなにやら構えている。

「さぁ、兵隊さん達!しっかり狙ってくださいよ~♪」

店主らしき恰幅のいい男がはやし立てている。どうやら射的場の様な所らしい。

兵が銃のようなものを構えており、その体の周囲を何やら目に見えない空気でできた層の様なものが覆っている。


兵達が構えているものが何かに気づいたのかキャメルが皇子達に説明を始めた。

「あれ、カンマだね。軍払い下げの。」

「カンマ?」

皇子達が興味を持ったようにキャメルに振り向く。

「うん、簡易魔力砲、略してカンマ。旧式化して採用から外れた武器や兵器類の一部は殺傷能力と国家機密類を削除されたうえで、研究や個人の趣味向けに払い下げられたりするんだよ。もちろん、武器として民間警備会社や国家認定の傭兵組織に払い下げられることもあるけどね。その中でもあれは簡単に扱えて安全性も高いから人気が高いんだ。」


簡易魔力砲は二連発の中折れ式小型デリンジャー。装弾数は当然二発で、兵士から軍高官問わず最後の最後で使う護身銃として制式採用されていた。

通常、銃弾は魔法陣を刻み込まれた魔法弾が採用され、持ち主が任意の魔法を充填した弾丸を装填する。引き金を引くと充填された魔法が発射され、発射した後は銃身を開いて中の魔法弾を取り出し、予備の魔法弾を装填することで何度も使用できる。もちろん使用した魔法弾にも再度魔法を充填することで何度でも使用することが可能だ。


民間に払い下げられた物は、魔法弾に込められるのは純粋な魔力だけに加工されており、魔法弾自体も本体に溶接され外すことができない構造になっている。

魔法弾は魔力だけを込めても殺傷力のない魔力の塊を弾丸として射出することしかできない為、安全なおもちゃとして使用可能なのだ。

勿論当たれば痛いのだが、モデルガンのようなものとして一定の年齢以上であれば購入・取り扱いできるようになっている。

現在簡易魔力砲は幾世代か交代したものが軍に採用されており、この射的場で使われているのは三世代前の骨董品だ。よほどの蒐集家でもない限りあまり持っていることもないだろう。


「それにしても、魔力の扱い下手なのが多いねー・・・これで大丈夫かな。あー、あの子海兵隊だし。やんなっちゃうー。」

アヤメが兵たちの扱い方の稚拙さを嘆いている。

「確かにな、魔力の込め方も上手じゃないものが多いなぁ。魔法が工業製品化された事が一番魔法が身近から離れた原因かもなぁ・・・」

キャメルが残念そうにつぶやく。

魔法と科学が融合したこの時代、様々な場所で魔法が簡単に扱えるようになった代わりに一般人や下級兵士が修行して魔法を習得するという機会もエルフィンに限らず世界的に減ってきている。


「あぁ、あれを見てるだけでもやはり魔法の訓練が必要だというのはよくわかるな。ウォーロック閣下はどう見られました?」

「我が国もそう大差ありませんな、スピークス中佐。やはり民間人や下級兵士は魔法をしっかり習得する機会も少なくなってきています。」

「やはり貴国でもそうですか、嘆かわしい事だ。」


その時、後ろで様子をうかがっていた皇子達がラークに声をかけた。

「あの的当ては私達も参加できるのですか?」

ルシンダがおずおずとアヤメに問いかける。

「もちろんよ、お金はいるけど参加年齢に制限が無ければ問題ないわ♪」

「じゃぁ、私たちも参加したい!お兄様もやってみませんか?」

アルバータもノリノリでオーガストに迫る。

「・・・俺はいいよ・・・」

オーガストがそう拒否したが、アルバータは引かない。

「お兄様、折角なのですから遊びましょうよ、それにたまには魔力も解放しておかなければ体内でよどんでしまいますわよ。」

「しかし・・・」

思春期特有であろうか、オーガストはなかなか首を縦に振らない。

「お兄様、ルシルもお兄様と一緒に遊びたいですわ。」

潤んだ目で見上げられて、オーガストは渋々頷いた。基本シスコンなのだろう。

「仕方ない、1回だけな。」

そう言うと、三人は順番待ちの列に並んだ。

そんな皇子達を見ながらキャメルも楽しそうに列に並び始めた。

「じゃぁ、俺もたまには遊んでみるか、今回の遠征も結局白兵戦が無かったから魔力を使う機会もなかったしな。どうする?ラーク。」

「私は遊んでみるよ、いい暇つぶしになりそうだし。ラークもやってみたら?」

「そうだな、二人がやるなら俺もやってみるか。閣下はどうされます?」

「そうですな、折角ですから私も。」

ウォーロックも列に並んだ。

周囲の兵達も流石にここまでくると彼らに気づいており、慌てながらも敬礼する者が続出した。

ラークは「自由行動中だ、挨拶以上に畏まった敬礼は不要だ。」と兵達を諭し、順番を譲ろうとする兵士にも「特別扱いは不要」と譲らなかった。

「意外とこういうとこしっかりしてるんだよな・・・」

キャメルがボソッとつぶやきアヤメがウンウンとうなずく。

「こういうとこ、偉いよね。」


そしていよいよ、ラーク達の順番が回ってきた。まず最初は皇子達三兄妹が射的台の前に立つ。

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