第24話:大海への出陣

会議の後、三人はそれぞれの執務室に戻る前に海軍司令部内の高級士官専用の喫茶室で今後について話し合う事にした。

「しかし、予測できなかった。三人の領主の内誰かがと思っていたが、2人が犯人で帝都まで巻き込むとはなあ」

キャメルが天を仰ぐと他の二人も同調した。

「確かにな、まさかここまでとは思わなかったが俺たちとしてはすぐに編成を開始して脱出してくるかもしれない皇族を捜索して保護しなくちゃならん。」

「そうよね、私も帰ってすぐにメンバーの選抜に取り掛かるわ。それにしても気になるのはフリージアよね。この機会にメルセリアの領地を狙うってことはないかしら?」

何気ないアヤメの言葉がラークに驚きを与えた。


「・・・確かに、隣国のフリージアからしたらお隣さんの超大国が政情不安、下手をすると自分たちの国にまで影響を及ぼすかもしれないと考えたら、早々に対策を打ちたくなるだろうな。特にフリージアの上層部は国内での求心力が今一つ低い。国外に国民や軍部の目を向けさせるために、安全保障名目で侵攻してもおかしくないな。」

「もしかするとフリージアがクーデターを煽動したという可能性もあるぞ?パガン男爵経由で。」

キャメルが一つの可能性を指摘するとラークがさらに言葉を紡いだ。

「うん、確かにそれもあり得る。フリージアが自国の安定を図るために隣国の脅威を煽って国民の目をそらさせるという事も十分に考えられるからな。」

「そうだねー、教頭先生にも言っとく?フリージアも要警戒って。気づいてるとは思うけど一応ね。」

アヤメがそう発現した時、『なるほど』と彼らの背後から声が聞こえた。

3人が目を向けると、そこにはカールトン、バークレイ、アルトマンの三人が立っており、若い三人はあわてて起立し敬礼を施す。3人の大将も答礼を施すと、アルトマンが代表してラーク達に声をかけた。

「確かにフリージアの可能性を考慮していなかった。我が国とは距離がありすぎるからな。しかし、メルセリアとは地続きの隣国だ、何があってもおかしくない。」

バークレイもうなずいた。

「フリージアに関しては統合作戦本部経由で政府に申し入れをして駐在の大使館に情報収集をさせよう。それとは別に私の諜報部隊から数名フリージア国内に潜伏させる。現在も政府の諜報部員が情報収集に当たっているがそれとは別にな。」

「貴官らはフリージアの事も念頭に活動してくれ。ただ、彼らが敵対するにしても我が国へ影響を及ぼすには地続きの陸から戦力を送り込むしかあるまい。北側航路も南側航路も海軍戦力を送り込むには今からでは時間がかかりすぎるからな。まぁ、ともかくいくら遅くても2週間後、できれば1週間で行動開始してほしい」

さらりとカールトンが無茶ぶりを要求して来た。


「1週間ですか・・・少し厳しいですがやってみます」ラークが応え、他の2人が応えた。

「しかたないしね。陸軍からも機動力メインで選抜しますよ。」

「海兵隊は揚陸艦のない編成はありえないからなぁ、巡洋艦とかは海軍からの出向が大半だし。」

「それを言えば俺たち陸軍も似たようなもんだ。しばらくの間は仕方ないんじゃないか?特に今回の作戦はどこかに上陸して制圧するわけではないから、揚陸艦も最低限でいいだろ?」

「まぁそうね。」


彼らの会話にカールトンが声をかける。

「貴官らも無茶の無いように編成してくれ。特に今回は戦闘が目的ではないとはいえ、メルセリア国内の問題に巻き込まれかねない。皇族が見つかれば速やかに保護し、見つからないなら拘泥することなく帰還する事。いいな?」

「承知いたしました」

キャメルが敬礼し、二人が追随する。


「それでは頼んだよ、出陣の準備を整えてくれ。」

カールトンが答礼し、三人の大将は近くにある将官専用のラウンジへと吸い込まれて行った。流石に酒は飲まないだろうが、コーヒーを飲みながら打ち合わせをするのだろう。

「・・・さて、行くか。」

ラークの一声で二人も立ち上がりそれぞれの執務室に戻っていった。


そして翌日


それぞれの執務室で互いに連絡を取り合いながら部隊編成に追われる3人の姿がそこにあった。学生時代に篤い薫陶を受けた三人はカールトンの性格をよく知っている。

『1週間で行動』と言われれば、『3日で完了』が基本だ。その性格をよく知っている彼らは執務室に缶詰めになりながら編成業務に従事していた。

艦体運用も仕事の内である海軍のラークはともかく、陸軍と海兵隊は今までであれば海軍に依存していればよかったが、今回から自ら艦隊運用にも携わるのだ。ラークの執務室に二人そろって涙目で飛び込んできた回数が10回を超え、リミットの三日目、8月23日に漸くようやく人員選抜と艦隊編成が完了し作戦行動計画も策定し、大将三人に案を送ることができた。


『承諾』


オンラインでの回覧に3つの承諾が表示され、晴れてラーク達は出撃を認められた。

そして4日後の8月27日未明に、ラークが隊長を務めキャメルとアヤメがそれぞれ副隊長を務める形で旗艦として高速巡洋艦キノトグリス、そして駆逐艦2隻に強行偵察型情報収集艦1隻、潜水艦1隻が攻撃力として編成された。

そして後方支援部隊として輸送艦1隻、工作艦1隻、病院船1隻、そして万が一に備えて海兵隊が搭乗した揚陸艦1隻の合計9隻からなる艦隊が首都カナビスを出港し、エルフィン国内で一番メルセリアに近いナットシャーマン諸島の州都ダビドゥスに行軍を開始した。

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