第9話:終戦と再生
往国歴174年1月2日。
元日を戦場で迎えようやく事態が落ち着いた後、両軍は戦闘継続能力を有してはいなかった。
双方が大量の負傷者を抱え撤退して行き、事後処理が行われた。
国軍側は青髪の指揮官についてはその後の消息は知られていない。この乱を生き延びたのか死亡したのかもどの書物にも記述が無く現代まで判明していない。
事後処理については副官が行っていたことまでは記述が残っている。
サモンズ側については、重傷を負ったウインストンはその後療養を続けていたが1月5日に傷が悪化し帰らぬ人となった。
「まだ終われない、国軍がダメージを受け動揺している今こそがチャンスなのに・・・」
その後サモンズ達の指導者として祭り上げられたのは、『血のクロスロード事件』が『宵闇の乱』へと憎悪の階梯を上るきっかけとなったあの事件の被害者である12歳の少年だった。
当時、あくまでコミュニティの代表に過ぎなかったウインストン以外にカリスマ的な指導者も存在せず、そもそもなし崩し的に戦闘状態に突入した彼らにとってはウインストンが死去した今、新たに世間に訴えかけられる『
その意味では乱のきっかけとなったこの少年は世間に名も売れており、まだ幼いという事で世間の同情を引くには十分な存在であった。
そして、ウインストンが死去した翌々日の1月7日、わずか12歳のディーン・ゼファーがコミュニティの代表者に祭り上げられた。
これを機に彼を取り巻く周囲の人間たちが組織の再編を進め、本格的にサモンズ達を取り込んだ武力組織としての存在に生まれ変わっていった。
だが、わずか12歳の子供は組織の顔として祭り上げられただけで実権を握っているわけではなかった。ただ、彼を顔としたことで同じように迫害されつつあるサモンズ達が各国からクルツ共和国に流れ込む、もしくは世界各地でサモンズ達のコミュニティ形成に役立っていたことは否めなかった。
その後、1月10日にはコミュニティ代表団によるクルツ共和国への交渉打診が行われ、代表団同士の面談が行われた。
その中で、共和国大統領であるフォルツが政権掌握後に反サモンズ派を密かにかつ積極的に自陣営に取り入れ、秘密裏に世論工作を行わせ対立を煽動していたことが判明した。
当然のことながらサモンズ側は激怒、国軍内部に残っていた良識派がサモンズ側に協力し半ば市民革命的にフォルツを拘束し政権の交代を宣言してしまった。
その後、臨時政権となった国軍良識派と改めて会談が行われたが、双方ともに受けた憎しみの傷は大きく、結局のところ講和や和平を結ぶまでは至らなかった。
ただし、双方が大きなダメージを受けた魔法弾については破滅的な威力を封入したものは使用が禁止される事となり、その製造にも様々な制約を課すことが合意された。
また、サモンズ達はクルツ共和国南端に位置する沿岸地域に全住民が移住し、共和国の一部ではあるが自治共和国として自治権を有する半独立国となる事に合意した。
最も、自治区とはいってもクルツ共和国自体も国土の急拡大で持て余していた辺境の未開地であった為、体のいい厄介払いという事にはなったのであるが、歴史上初めてサモンズ達が国家と同様のレベルで自らの土地を手に入れた瞬間であった。
その後、全てのサモンズ達が新天地に移住し、コレクトとサモンズの生活圏が分かたれたことで騒乱は一時収まったかに見えた。
だが、クーデターのような形で政権を追われたフォルツがその後反サモンズ派の協力を得ながら他国へ脱出した後に地下に潜伏し、虎視眈々と牙を磨いていくこととなる。結局のところ彼がサモンズを憎む本当の理由は解明されないままとなった。反サモンズの活動も脱出当初は活発に行っていたが、その内下火となりフォルツの存在は歴史の記憶に埋もれる事となった。
クルツ共和国は新たな指導者の下で国内の安定に努めようとしたが、一度分断されてしまった民族間の対立を再びまとめ上げる事は出来ず、反サモンズ派と親サモンズ派による国内の衝突を繰り返していく。
そして、クルツ共和国の内乱を基に発生した『宵闇の乱』は民族間の対立と不安を煽り、復興途上の世界各国に大小さまざまな内乱を引き起こしその後30年程世界各国は内乱状態へと突入する。
そもそもの発端であるクルツ共和国は約10年後の往国歴165年に、移住の合意をし南方に追いやったサモンズ達に滅ぼされる。クルツを滅ぼしたサモンズ達も臨時政権を立ち上げ大陸西端地域の覇権を掌握したが、サモンズ達の内部分裂で独立した獣人たちの一族によりわずか5年後の往国歴160年に滅ぼされる。
その後、かつてのクルツ共和国と呼ばれた地域は、コレクト達と分裂したサモンズ達の争いによって宵闇の乱がおおよそ終結する145年頃まで不安定な状態が続いていく事となる。
この世界的な騒乱状態を憂慮したコレクトとサモンズは往国歴145年に至り、世界的な呼びかけを行い、世界にいくつか存在する大きな影響力を持つ政治集団の長を世界の東側の大陸地域、そこはクルツのある大陸とは海洋を挟んだ東側に存在するもう一つの大陸であり、そこにコレクトとサモンズ問わずに代表者を集結させ停戦と復興への再度の協力を宣言した。西側大陸と比べ比較的早く情勢が落ち着いたことも東大陸が選ばれた理由であった。
ただし、その際サモンズ側から強硬に要請された内容としては、『広範囲を破壊しつくす魔導兵器の制限』『サモンズの独立承認と生活圏の確保』『召喚や転生術の原則禁止及び帰還させる方法の研究開発実施と開発状況の監視』の3つであった。
コレクト側としてはこの条件を飲まずに戦乱を続ける意思はなかったので、仮初めではあるが双方の合意による全世界レベルでの停戦が呼びかけられた。
これにより往国歴145年頃より漸く本格的な世界復興と近現代史へ続く歴史の潮流が生まれるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます