第三話 私の名前はエルネ!
そしてそれから何日か経過して、俺の冒険者ランクが一つ上がった。
わーい、うれしーなー。HからGにあがったー...。
「まじでランク多すぎだろ!」
俺は冒険者ギルドとかいう冒険者に必須である建物から出た瞬間に愚痴った。
「しょうがないの。自然の摂理なの」
そう言いながらウルは干し肉を食べる。
今のウルだったら一体ランクはいくつなのだろう。
C?またもやB?それくらいはありそうだった。
現在冒険者というのはこの国の8割ほどを占めているのだが、Cランク以上はそのなかの約1割程度しかいない。
さらに最上ランクのAランクは現在たったの6名ほどしかいない。
そんな厳しい世界でのウルのランクは普通にBはありそうなレベルだった。
「ウルは冒険者として登録しとかなくていいのか?」
召喚獣だからと言って登録がでいないわけではない。
友好的なモンスターだって登録できる。
だが、
「ウルはますたーの。わざわざ冒険者になって国のために働きたくない。ウルはますたーのために動いて働くの。」
だそうだ。
これじゃウルのランクは分からずじまいか、と俺はとある場所を目指して歩くのだった。
――――――――――――
「ますたーここどこなの?」
「今までのダンジョンじゃ俺の―ウルの―敵じゃないからなもう少し難しいダンジョンに来てみた。...とは言ってもすでに隅々まで攻略され切ってて宝とかそういうのはなんもないけどな。」
「ますたーはそういうところには行かないの?」
「今の俺じゃ到底無理だ。まず俺自身の戦闘スキルをあげないとな。」
そう言って
「いざ出発!」
と、意気揚々に入っていくのだが
「ウル助けてぇぇぇぇぇ!!」
と少し強いレッドゴブリンに追いかけまわされ俺はダンジョン内を片っ端から走ることになっていた。
「ま、ますたー早すぎるの」
だがどうやら火事場の馬鹿力というのが働いたのかレッドゴブリンはそう、ウルですら追いつけない速度で俺は走っていた。らしい。
ちなみにレッドゴブリンはウルがしっかり殲滅してくれた。
「ドロップは...なしか。」
モンスターを倒すとたまにアイテムが落ちることがあるらしい。俺は今のところ一度も見たことはないが。
「ふふ、やっぱり俺たちの敵ではなかったな」
「...ますたーは逃げてただけなの」
...知ってるよ。
「あ、そうだ。時間あるし特別なダンジョン行ってみたくないか?」
「特別な、ダンジョン?」
その疑問に対し俺は、行けば分かる、とそれだけ伝えすたすたと目的地にたどり着いた。
―――――
「...見た目は他のダンジョンとかわらないの」
入口はどっからどう見ても洞窟。強いて言えば入口から幕が降ろされたかのように中は完全に見えないというのが唯一言える違いだった。
その中に俺たちは入り、そして
「うわーすごいのー!!」
そこには無限に広がる空、緑で覆われている大地、なんかよくわかんない生物。まるで異界にでも来たかのようなそんな感覚を覚えさせる。
「ど、どうなってるの?ますたー」
「聞いた話なんだが、ダンジョンの入口がワープホールになってて、入ると特定の場所に飛ばされるようになってるらしい。帰るときは後ろにある魔法陣から帰れるらしい。」
「らしいって...ますたー初めてなの?」
「あぁ、だから今顔には出してないが...クッソ興奮してる。」
「(ますたー、はしゃいじゃえばいいの...)」
そんな時だった、俺のすぐ真上から風をきる音が聞こえる。
「...!!! ますたー!危ない!」
とっさにウルが守ってくれたおかげで、怪我そのものはしなかったものの
「これは、やばい...」
上から来た巨大な何かが起こした風によって俺は近くにあった崖へと吹き飛ばされた。
「ますたぁーーーー!!!」
ウルが全速力で走ってくるが悲しいかな、すでに俺の体は崖の闇へと消えていく。
ますたー!そんな叫び声が聞こえたが今の俺にはどうすることも...。
会ったばかりなのに、召喚したばかりなのに、ウル...ごめんな...。
俺はウルのケモミミの触り心地を思い出す。
あぁ、もう一度触りたかったなぁ。でも死ぬんだもんなぁ。もう、触れないよなぁ。
――...いや、なに弱気になってるんだ。
俺は自分の胸をたたく。
俺にだってやれることがあるじゃないか。
そうして俺は叫ぶ。
「サモン!」
その召喚の呪文を...。
◇◇◇
「サモン!」
そう叫んだ瞬間だった。体がふわっと何かに抱きしめられるような感覚があった。
暗くて顔も、今俺が浮いているのか、はたまた落ちているのかさえ分からなかった。
少しして、上に見えていた光がだんだんと大きくなっていくのがわかった。
そこでようやく今自分は上へと上昇していることに気づく。
それと一緒に俺を抱きかかえて飛んでいる誰かの顔もだんだんと見えてきた。
―――――――――
―――――――――
「ますたーーー!」
ウルは召喚獣失格なの...。
ますたーもろくに守れない。
回復魔法が使えたってその体がどこにあるのかわからないんじゃ意味がない。
ウルの、せいだ。ウルがますたーを殺した。
ますたーが落ちた崖をのぞき込む。
ますたーの姿は見えなかった。それくらい深かった。
ある程普度の深さなら飛び込もうかと思っていた。
だけどこの深さは...。
そんなとき、
「サモン」
そんな声が聞こえた気がする。
...いや、聞こえた。確実に聞こえた。
「ま、ますたー?」
だが、いくらのぞき込んでもその姿は見えなかった。
「(...とりあえず待ってみるの)」
すると崖の中からバサバサと干している布団をたたいたときのような音が聞こえてきた。
そしてその音の正体があらわになる。
「え、そいつは...」
あの姿、見間違えるわけがない。
そいつを見て、目なんて閉じることはできなかった。
―――――――――
―――――――――
「えっとあなたは?」
俺はまるで悪魔のような姿をした少女に抱きかかえられながら崖をゆっくりと上昇していた。
「なに?私を知らないの?ん-まぁ当然なのかな。この世界に降り立ったのも300年ぶりくらいだし」
その多分悪魔は長い漆黒の髪をなびかせ、頭に2本の角を生やし、背中にはどうやって動かしているのかわからない大きな羽がついていた。一見すると清楚そうな雰囲気も感じられるが、話し方的に一切そういうことはなかった。
「あのお名前は」
なんで俺は敬語なんだ。
そんなことを思ったがなんとなく今はそうした方がいい気がしたのでそのままでいくことにした。
「ふふん、聞いて驚きなさい!私は数少ないネームドデビルの一人!エルネ!」
よかった、また名前を考えるようなことにはならなくて。
二人目も考えろなんて言われたら速攻こいつを元居たところに返す自信しかない。
「えっと、エルネって強かったりする?」
とりあえず聞いてみた。
まぁ聞かなくても雰囲気がすでに物語ているが。
「そんなの強いに決まってるでしょ?なんたって400年くらい前にはかおすめっせんじゃー?なんて呼ばれてたんだから!」
カオスメッセンジャーねぇ。混沌使者?なんじゃそりゃ
...どうして俺の周りにはこうも化け物がいるんだか。
けどまぁこれも運がよかっただけ、か。
「えっと、代償は...」
正直言って名前と同じくらい気になっている。
「代償、...代償ねぇ。」
エルネは空を仰ぎ、迷走するかのように目を閉じた。
「1万の命」
「...え?」
「嘘嘘、冗談冗談♪」
エルネは戸惑う俺の表情を見て高らかに笑っていた。悪魔だ。
「命なんて有り余るくらい調達してるし、んー...そうだなー。よし、こうしましょ。義務を与えるわ。私に充実した生活をさせ、私を幸せにする義務を与える。それを代償とする。ね?どう、どう?」
どうって...
「それって代償なのか?」
代償と言いうより約束事って気が。
「いーや、代償なのこれは。もしその義務をはたせないときはご主人の命を貰うんだから♡」
「は、はは」
どこの、メンヘラ彼女だよ。
そんなこんなでもうそろそろ地上という高さになり、
「ウル!」
俺はようやくウルの姿を確認することができた。
だが、ウルの目は俺ではなく...エルネを凝視していた。
「知り合いか?」
俺はエルネに降ろしてもらいながらそう聞いた。
「あっ!ま、ますたぁぁぁぁーーー」
ん?なんだ?今気づいたのかこいつ。
「ごめんな心配かけて。」
俺は、泣きながら頭をぐりぐりと俺の胸に押し当てるウルの頭をなでる。...ふかふかだった。
「うぅ...ごめん、なさいなの。ウルが、...ますたーに召喚してもらったのにますたーを守れ、なくて。」
「大丈夫だよ、そんな気に追わなくても。実際俺は今生きてるわけだし。」
「で、でもぉ」
「安心しろって、俺も次からはこういうことがないように気を付けるし、なによりこんなところで死ぬわけがないだろ。」
なぜだかわからないが俺には死なない絶対的な自信があった。
「成り行きだが、新たな仲間も加わったしな。」
俺は空気を読んで黙っていてくれたエルネに視線を向ける。
「なっ、なによ突然。」
「そういえば遅くなったが突然のことだったのに助けてくれてありがとう」
「へ?きゅ、急になによキモイわね!ま、まぁお礼を言われてうれしくないことはない...けど...。」
エルネの顔が赤に染まっていき、恥ずかしかったのか俺から視線を外すように横を向いた。
なんだこいつツンデレなのか。
「ますたー。そいつ...」
そういえばまだこいつの紹介をしていなかったことを自覚する。
「見ての通りさっき俺が召喚した自称デビルのエルネだ。」
「自称デビルってなによ!正真正銘デビル!悪魔なんだから!」
エルネが必死に弁明を試みる。
「と、まぁこういうやつだ。仲良くしてくれ。」
俺は再びウルに視線を戻すが、ウルは下を向いていた。
そして、
「そいつ、知ってるの」
そんなことを言ってきた。
――――――――
「知ってる?有名なのか?」
召喚獣界隈では有名なのだろうか。いやまぁそういうのが実在してるのかは知らんが。
「ネームドモンスターって言うのはほんとに希少なの、だからある程度は知ってる。ウルだったら狼。それでしかない。それ以上にもそれ以下にもなれないの。」
へぇそうなのか、と俺は感嘆の言葉をこぼす。
「ますたーに、この世界に召喚されてから思ってたけど、ますたーにはもしかしたらそういうのを引き付ける力があるのかもしれないの。最初、なんか強い気がするって出てきてみたの。実際には弱かったけど。」
「やっぱり俺には才能があるのか!!?」
これが隠された力ってやつか!
それがどんな力であれ、確定ではないとはいえ、あるとそう思うだけですごく、すんごくうれしかった。
「「......!」」
ウルとエルネの顔がいきなりこわばり戦闘態勢になる。
「...?どうした?」
「ますたーさがってて」
すると、
『がぁぁぁ!』
と、いう叫び声とともに先ほどの巨大な竜のようなやつが近づいていた。
「ますたーを危険な目に合わせた罰...」「こいつがご主人に危害を...そんなやつ」
「「跡形もなく、ぶちころしてやる...!」」
その瞬間ふたりは飛び出し、
「二人とも気を付k―――」
そんな、俺のセリフが言い終わる前に、辺りは紫色の炎と斬撃のような跡でいっぱいになっていた。
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