3.
賞味期限切れで安く仕入れたインスタントのミネストローネに少々追いキャベツ、それに一袋七十九円の六枚切り食パンを半分食べて晩飯を済ました丈太郎は、ひと眠りした。そして深夜一時過ぎ、むくっと起きだすと仕事着に着替える。認識疎外付きの特殊スーツだ。全身黒ずくめで顔もヘルメットで覆っているその姿は、まるで現代に蘇った忍者のよう。
「さて、行くか……」
ベランダから飛び降り目的の畑まで飛んで――なんてことはせずに、玄関からちゃんと出て、目的地まで愛用の自転車で向かった。
向こう岸にわたる橋が少し離れているので少々の時間の後に目的の畑に到着する丈太郎。
「間違いない、キャベツだ。それも、しっかりと育っている……」
道端から畑内に入り、そこに生っているものを見て丈太郎は眉間にしわを寄せた。
こんなに立派なキャベツが一晩でできるはずはない。もしそんなことが可能なら、一玉千円などというべらぼうな値段でスーパーに並ぶなどありえない。
「……それにしても、おいしそうだなぁ」
ぐうぅ~
丈太郎の腹が鳴った。やはりあれだけの晩飯では足らなかったようだ。
「……」
丈太郎は無意識のうちに腰をかがめキャベツに手を伸ばす。
(少しだけ――、一玉だけ調べるために採取しようか……。調査だ、あくまでも調査の為だ。決して食べる為じゃないぞ……)
自分に言い訳をしながら丈太郎がキャベツへと手を触れようとした、寸前――
バシュッ!
目の前のキャベツが内側から弾けた。
「なにっ!」
反射的に後方へと飛び退く丈太郎。その眼前で畑の中で立派に生っていたキャベツが一斉に弾けていく。舞い上がるキャベツの葉。
「馬鹿な――」
唖然とする丈太郎の前で、土の中から小さな人影が這いずり出てくる。大きな丸い頭部はキャベツそのもののような色形をしており、全身も頭部と同じ緑色で染まっていた。
「キャベツ畑から産まれた?」
一九八〇年代に世界的に流行した人形ではあるまいし、キャベツ畑から二足歩行の生物が産まれることなどない、地球では。
「サイバイ○ンか――」
丈太郎が思わず漏らしたのは、日本のことを知るために見た国民的アニメに登場するキャラクターの名前だった。ドラゴン○ールに登場する種を土に埋めて水をかけると数秒で育つインスタント戦士の名だ。丈太郎はそのアニメが好きで何度もリピートして見ているし、原作も古書店で全巻揃えて読んだ。
目前の生き物たちはそれに酷似していた。そして、伝わってくる攻撃の本能。こいつらは間違いなく戦闘用の生物だ。
丈太郎がそう直感した時、ヘルメットのバイザーに情報が映し出される。
『CXB056:植物性バイオ戦闘生物 その生育には特殊な環境が必要 連邦内ではその育成には許可が必要』
目前の生物の情報のようだ。
「くっ、やはり何者かの陰謀だな。キャベツをこんな風に利用するとは――許せん!」
おいしそうに育ったキャベツを食べられなかったせいもあり、丈太郎の怒りは頂点に達していた。両拳を握り、腰をわずかに沈めて戦闘態勢に入る。
その時、空間が振動し、上空に突然一隻の宇宙船が現れた――
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