第6話 ▽「さしもの作りをする」▽
シャッ、シャッ、とやわらかな音がくり返しかなでられる。トゥーリはその音をきくのが大好きだ。それはラースがさしものをする音だった。
ラースはりょうりが上手じゃないわりには手先がきようだ。森を歩いているときにとう木を見つけると、じ、とながめて、しばらくすると斧を取り出してせっせととう木から使えそうな部分を切り出し、おうちに持って帰って来る。
そうしてひろってきた木の切れはしをかわかしてとっておいて、あるていどあつまると、いくつかえらんで並べて、じゅんばんにけずりはじめる。
そうやってごつごつしていた木を切って、けずって、やすりをかけて、色んな形のパーツを作って組み合わせるとあらふしぎ、木から小さなたんすや、いすや、テーブルが生まれてくるのだ。
できあがったものはヨナスさんのお店におかせてもらって、売ってもらっている。ときどき、ヨナスさんをとおしてお客さんから注文が来ることもあって、そういうときラースは、注文のお手紙をたてによんだり、よこによんだり、あたまをひねったりしながら、木材もたてにしたり、よこにしたり、ぐるぐるまわしたりしてパーツを作り、注文の品を作る。
トゥーリはラースが作ぎょうをするときは、小さなちりとりとほうきを持って、木くずをせっせとあつめるのだ。そうしないとラースはもくもくと作ぎょうにしゅうちゅうして、いつのまにか木くずにうもれているからだ。木くずは森の匂いがした。それをはこにとっておいて、だんろやかまどの火にくべると、めらめらともえておもしろかった。
ラースの作ぎょうの中でトゥーリがとくに好きだったのは、できあがったたんすやいすやテーブルのすみなどに、ラースがせんさいなもようをほるときだった。
大きな手に小さなちょうこく刀をもって、しんけんな目をして、しょくぶつや、どうぶつのもようをほった。そうするとさしものは、まるでいのちがやどったようにあいきょうが出てくるのだ。
ジェンさんはラースに、本当によくできているから、ギルドに入ってお店を出したらとすすめてくれたそうだけれど、ラースは、小むずかしいことはやりたくないと言って、あちこちをまわりながら売りものをとってきたり、作ったり、うらかたにてっすることにしたらしい。
トゥーリも、ラースがお店をひらいたらそれはすてきだろうなと思ったけれど、ラウリもさそって3人で歩きまわったり、のじゅくをしたり、たんけんするのはもっと好きだった。
さいきん、ラースはトゥーリのために安全なちょうこく刀のセットを買ってくれた。トゥーリはそのときはうれしくてうれしくて、セットをだきしめてとんだりはねたりくるくるまわったりした。
そしてラースは、トゥーリのことをひざにすっぽりとのせると、うしろからトゥーリの両手をつつみこんで、ちょうこく刀の使い方を教えてくれるのだ。
とくにやわらかい木材をえらんで、小さなブローチや、スプーンの作り方をおしえてくれた。それから、はっぱや、お花、鳥のほり方もれんしゅうした。いちばんさいしょに作った、小鳥をほったブローチは、ラースがだんろの上にかざってくれた。それにラウリは、トゥーリの作ってあげたスプーンで毎日ごはんを食べているそうだ。
こんど、ヨナスさんが、トゥーリの作ったブローチとスプーンもお店においてくれることになった。だからトゥーリはいっぱいれんしゅうして、お客さんによろこんでもらえるように、ジェンさんにもよくできていると言ってもらえるように、ちゃんとしたのをいっぱい作りたいと思っている。
シャッ、シャッ、とラースは木材にかんなをかける。その音に包まれながら、トゥーリもシュル、シュル、とブローチにもようをほっていった。
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