第8話赤兎

「どうもこうもないわ、今実際に拘束を抜け出してきたってことはそれができる能力があるってだけよ」


雅は結衣のそばに降りた。


「雫ちゃん、無事かしら?」

「なんとか大丈夫です」


結衣は雫に向けて軽く弓を引き、雫は光の糸を腕にわざと受けて屋根の上に引き上げてもらった。


「中の方は3人、できれば倒してきて欲しいが…」

「無理ですよ」


怪人Mに雫が返答する。


「閉鎖空間では朱乃は無敵です。師匠の雅さん含めた全員で相手をしても手も足も出ずに勝てないと思います」



数分前、工場の中では朱乃の前に3人の新手の怪人が標的の怪人の周りに現れていた


「やっと釣れたね」


そこに茉莉が入ってきた。


「朱乃ちゃん!外にも2人怪人がいてそっちにみんな向かってる、だから…」

「大丈夫、すぐ終わらせます!」


朱乃の足から赤いオーラが急激に吹き出し、工場内の空気が重く変わった。


「すごい覇気、息が詰まりそうね」

「俺は特段感じないが、お前はなんか分かるか?」

「ティラノ、お前が鈍感どんかんすぎるだけだよ。このオーラ、限りなく少ないが物理的な干渉をしてくる…実体のあるもののようだね、見掛け倒しではないはずだよ」


ビスマスは一欠片の結晶を手に持っていた。その結晶の端がほんの少しだけ成長していく。


「そうなんだ、私のこれ実体あるんだ」


その言葉は標的の怪人の前で発されていた。


「あ?」


標的の怪人の首は宙を舞った。


「なんて速さだ、少し目を離した隙に!」


ビスマスが朱乃から距離を取ろうとした瞬間、朱乃の斬撃が彼を襲う。

同時に全身を結晶で固めたため、攻撃は防がれた。斬撃が当たった部分の結晶が急激に成長していき、朱乃の刃は内部に閉じ込められた。


「何これ硬い!」

「俺ごと燃やせ!」


炎龍の炎が二人を襲うが、剣を捨てつつ結晶を蹴って空中に回避される。炎龍が結晶を包み込むと結晶は工場の床の3分の1を覆うほどに拡大した。


「あっぶな、降りてたら宝石の棺の中じゃん」


周囲の結晶が破裂すると同時に、その破片のうち大きなものがそれぞれ成長して編み目のような構造を建物内に作り上げた。朱乃は間一髪のところで取り込まれるのを回避していく。

炎龍の炎はその合間を縫って朱乃を四方から攻撃した。回避した先には結晶の足場を使って先回りしていたティラノが尻尾で切りつけた。


「スキュータム!」


炎龍が回避先に回り込んでいたが、シールドによって防がれる。

ティラノが追撃を入れるために飛びかかったが、茉莉が間に入って右手をつきだすと同時に吹き飛ばされて足場にしていた結晶に背中をぶつけてしまう。


「一人で突っ込まないで!」

「ごめんなさい、助かりました!」


空中で直線的な方向転換を見せて朱乃の近くの結晶に乗った。


「背中大丈夫なの?」

「少し痛えな」

「備えろ、!」


炎龍は心配しつつ二人のいる方向に広範囲渡る炎を放出した。その瞬間、4人が乗っていた足場の結晶が一斉に弾け飛び魔法少女たちは通常回避不能な状態となった。


「朱乃ちゃん!」


茉莉は朱乃の方に飛んでいく。


「茉莉さん、今すぐシールドを!」

「はい?す、スキュータム!」


茉莉がシールドを張った直後に炎が直撃する。


「よし、赤い方はこれで」


何かを察したティラノが炎龍の言葉を遮るように投げ飛ばす。空中では手が届かないと判断し尻尾を使っている。

二人のもといた部分を赤い光が通過した。

地上に落ちた赤い光は方向を変え、落下する仲間に走り寄るビスマスに突っ込んだ。


「ブースト!」


深紅の閃光が彼のそばで見えた後、彼の左腕が空を舞った。


「っああああ!」


激痛に見舞われつつ周囲に結晶を出現させることで身を守った。


「あっぶな、足場なくて一瞬で詰みかけた!」


赤い光の正体、朱乃は冷や汗をかきつつ距離を取った。

結晶の破片と共に怪人たちは地面に落ちた。

落下した結晶がゆっくりと煙を出しながら昇華しょうかしていく。量が多いせいで辺り一面が、不均一な形で煙幕のような状態でただよった。

ティラノは受け身をとり、地面を転がったのちに立ち上がる。

炎龍は中途半端な受け身となったが一応動けてはいるようだ。


「味方のシールドを足場にするのはまだしもそのまま突っ込むなんて、雅はどんな教育してるのさ」


茉莉は滞空たいくうしつつシールドを張り続けていたため無事のようだ。


「ビスマス!」


炎龍が放った炎を跳んで避けたが、背後の煙幕内からティラノが斬りかかる。本来お互いに視認することはできないが、炎龍の炎を目印にして攻撃をしていた。

完全に死角からの攻撃であったはずだが、朱乃は宙返りを決めて両手の光剣で尻尾を受けた。


「ブースト!」


打ち合った衝撃を宙返りの回転でいなしティラノの背後に着地した途端、足を覆う赤いオーラが大きく濃く変化してその状態で前方に跳躍した。


「やべ」


すぐに振り返りつつ、両腕を前に出して顔と胴を同時に守る。しかし両腕は光剣に切り落とされ、胴体に朱乃の蹴りが入る。

その瞬間、彼の胴体に赤いオーラが穴を開けた。

朱乃が足を下に戻すと股下までが切り裂かれ、足元の地面もオーラに当たりえぐれた。


「ティラ…ノ?」


腹の無くなった体が地面に膝をつき、前のめりに倒れながら消滅する。

それにより朱乃が炎龍から見えるようになった瞬間、距離を詰められて彼女の体は光剣によって袈裟斬りにされた。


「ああああああ!!」


ビスマスは足元から大量の結晶を出現させて建物の壁や屋根を次々に穴を開け始める。

朱乃は危うく巻き込まれるところだったが謎のベクトルがかかり、茉莉のところへと引き寄せられて助かった。


「なんだあれ!」


外で戦闘中の怪人Mは雅の攻撃を躱しながら変わり果てていく工場を見た。


「早く中のメンバーを回収して逃げてください!少なくともビスマス、彼はまだ生きています!」

「お前は?!」

「大丈夫です、後から行きます」

「させないよ」


結衣が怪人Mに弓を射るが、建物の下に降りつつ他の屋根に包帯を差して固定し、振りこ運動で遠くの屋根へ移動される。矢は途中までは追尾したが、次々と地面に突き刺さった。


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