第6話魔女狩り

 数日後、怪人Mは廃ビルに入っていった。


「遅いぞ15分前行動だろ」


 先に中にいた長髪をまとめた男から叱責しっせきを受ける。しかし、その声色は揶揄からかうようだった。

 他に先についた怪人が4人ほどいるようだ。


「時間ちょうどじゃねえか、何が問題だ?」


 スマホを出して時間を確認しながら返答する。


「お前以外は来てんだよ、包帯野郎」

「まあまあ、これで全員集まりましたね。とりあえず自己紹介をしましょう、それぞれ通り名があれば言ってください。」


 スーツ姿のサラリーマン風の男が場をまとめた。


「私は87地区の『魔女狩り』リーダーで『人狼ウェアウルフ』と呼ばれています。能力はそのまんま狼になることですね」


 先ほどの長髪男の方を『人狼』は向いた。


「俺の通り名は『ビスマス』、能力は特殊な結晶を作り出すことね」


 長髪が話し終わるのを待って、人狼は怪人Mたちの方へ目線を向けた。


「私たち『魔女狩り』は各班に新しくメンバーを補充しました。それが、私とビスマス以外の皆さんです」


 しばらく誰から発言をするべきかの沈黙がその他3人の間に流れた後、怪人Mが口を開いた。


「通り名なし、体の包帯を操るのが能力だ」


 それに続いて二人も答える。一人は女性でもう一人は異形の生物だった。


「私も通り名はないです、両腕から炎の龍を出せます」

「通り名はない、見ての通り尻尾がある異形だよ…尻尾こいつで大体のものは溶断できる」


 一通りの自己紹介を終えた後、人狼は拍手をして注目を集めた。


「さて皆さんの能力はわかりましたが、このままだと不便なのでそれぞれ『包帯男マミー』『炎龍』『ティラノ』と仮称しましょう」

「ずいぶん適当だな」

「そんなもんだよ、俺のだって名付けた奴が勝手にビスマス鉱を連想してつけただけだったし。別に結晶の見た目は似ちゃいないんだがな」

「とりあえず名前については置いておきましょう。次は魔法少女のシステムについてです」


 薄暗い壁にプロジェクターで画像が映された。


「なんだこれは?」


 画面にはスマホの画面の画像が映し出される。そこには大量の怪人の写真に番号がついて表示されていた。


「魔法少女の使用しているアプリの画像です」

「アプリって何の?」

「彼女たちが我々の討伐の依頼を受けるための手段です。先日魔法少女を返り討ちにした仲間がアプリの自動削除前に入手したものです」

「自動削除ってかなりしっかりしてんな」


 画面が次々と変わり、アプリの実態が少しずつわかってくる。


「ここでは怪人がランク付けされていてそれぞれに懸賞金が掛けられています。そしてアプリ内のこのページでは近くのDランク以上の怪人が表示され、それを魔法少女が狩るというシステムとなっているようです。私たちの仕事はこの中のDからCランクの怪人をランダムに決めそのあとを尾行して魔法少女と接触し、これを無力化および捕縛し次の情報源を確保することです」


 人狼は全員のことを見回して言う。


「ただし、捕縛ができないと判断した場合には各々の判断でや撤退をすることは徹底して下さい。我々はあくまで怪人全員の命のために動いています。自身の命は大切にして下さい」


 各々バラバラのタイミングで頷く。


「次は魔法少女の使用する魔法についてですが、現在標準搭載の魔法が三つ確認されています。光剣『エウフォリア』、光弾『オルド』、シールド『スキュータム』です」


 スライドの映像と共に解説される。


「光剣は刃渡り50センチほどのものが多いですが、形状の違うものも確認されているため多少の変形は可能ということでしょう。光弾は基本的に直線で打ち出されることが多いようですが若干曲がった軌道で打ち出されることもあるようです。重力の影響は受けているようですが確定した情報ではありません。それぞれ10ミリの鋼鉄を貫通するほどの威力はあります」

「十分だろ、もろに食らったら即死じゃねえか」


 怪人Mは今更ながら先日の戦いでの命の危機の度合いを理解した。


「シールドはほとんどの物理攻撃を防げる壁で、半球状となっており全球での使用はできないと思われます。そのため確実に仕留める際には複数人で囲む必要があります。」

「それで班での行動が必要で増員したってことか?」

「正確には違いますね、それについてはまた機会があれば教えましょう。」


 人狼が一旦咳払いをして話を続ける。


「未確認ですが回復の魔法もしくはそれが可能なシステムが彼女たちの組織にあると考えられます。足を切り落とした状態で引き分けた時、翌日には元通りになっていたという事例などがいくつか聞かれますので」

「それって仕留めきれなければ相手には損害は一切なく、こちらだけが痛手を負うワンサイドゲームってことじゃねえか」


 人狼は頷いた。


「そういうことです、痛み分けというのはあちらの辞書にはありません。ダメだと感じたら即撤退が基本、下手に長引けばそれだけでこちらのマイナスになります。」


 そこで怪人Mが手を挙げて発言する。


「ちょっといいか…俺はこの間、魔法少女二人と交戦したがそれ以外の変な能力を持っていた。そいつはどうなんだ?」

「あなたはすでに戦闘経験がお有りですか」

「命からがら逃げてきただけだがな」

「そうですね、実際に見たあなたはお分かりでしょう。彼女たちは各自固有の魔法を一つ持っています。それについてこちらが完全に把握することは難しいでしょう。できればそういった不確定要素の多い魔法は使われる前に倒すのがベストですね」


 ◆


 数日後、怪人Mは再び集まり先日の作戦を決行した。


「畜生もうだめだ!」

「逃しません!」


 異形の怪人が魔法少女二人に追われていた。そのうちの1人が光剣を振り被った瞬間、ガキンという音と共に弾き飛ばされた。


「人狼さん、ビンゴです!」


 ティラノが魔法少女の前に立ち塞がった。他のメンバーは建物の上から見下ろしている。


「炎龍やってください」

「了解!」


 人狼の指示で女の怪人が両腕から二匹の炎の龍を出し、魔法少女を襲った。

 間一髪で直撃はしていないが後ろの道路標識に命中し簡単に溶かしてしまう。


「熱っ!」


 その熱量は避けたはずの魔法少女に火傷を負わせた。

 建物の上部では他3人が待機していた。


「俺、炎ダメなんだわ」

「そうですね、包帯燃えちゃいますからね」


 人狼はそう言って飛び降りた。


「らぁ!!」


 異形の仲間が尻尾を魔法少女へ叩きつける。


「スキュータム!」


 シールドで攻撃は防がれたが背後に人狼がまわり込んだ。人狼の体が狼のように変わり相手の懐に飛び込む。


「いい反応ですね、素直でやりやすい!」


 魔法少女の腹を通常の狼の何倍も伸びた爪で引き裂いた。


「痛い…痛いよ、たすけて…」

「花鈴ちゃん!」


 腹部の痛みにもだえる魔法少女を助けようと焦った相方は降りてきた怪人Mに気づかなかった。


「うわあ!」


 背中を蹴飛ばされて初めてその存在に気づいたが、その時にはすでに足首に包帯を巻き付けられていた。次の瞬間、彼女の体は空高く舞い上がっていた。足首に巻き付いた包帯は送電塔の上に回されており、その一部を滑車のように利用していた。

 包帯に掛かる力の方向が変わり、地表へと落とされる。


「あ」


 グシャという音と共に地面に叩きつけられ、全身を強く打った。

 息はあるが意識は途絶えた。


「うっわ、えげつねえな」


 異形の怪人は一連の流れを見て思わず声に出してしまった。


「こっちの方が長持ちするだろうね…包帯男、そいつは楽にしてやってくれ」


 ビスマスが腹部を引き裂かれた魔法少女の全身を何かの鉱物の結晶で包み、拘束しながら怪人Mに言った。魔法少女たちの変身は既に解除されていた。


「それでどうすんだ?そいつ」


 包帯で模った剣で血まみれの魔法少女の首を落としながら聞いた。


「例のスマホアプリの情報が欲しいので、それを拝借してから処理します。炎龍、そちらを先に火葬お願いします」


 炎龍は亡くなった少女を包み骨も残さずに燃やし尽くした。

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