第3話お仕事

朝日が差す前の薄暗い中、一人の男が玄関から姿を現した。


「おはようございます怪人M」

「おわっテメエ何でんだよこんな朝っぱらから!つーか今どこから出てきた?!」


雫にいつの間にかすぐそばまで来られていたため、警戒して2歩ほど後退あとずさりした。


「そんなに警戒しないでください、いきなり刺したりしませんよ」

「状況的に不意打ち狙いにしか思えんわ」

「あなたをってもメリットが少ないんですよ」

「メリット?」


怪人Mが歩き出すと雫はついていく。


「魔法少女には独自のネットワークがあります。その中で怪人にAからEの格付けがあるんです。上の人が危険と判断するとランクが上がり、特筆すべきことがなければ最低ランクのEに振り分けられます。」

「で、俺はランクEだったと」

「はい、何を基準にしているのかはさっぱりですが討伐とうばつ難度なんどと完全には比例しません。」

「俺たちを殺…討伐するとなんか貰えんのか?」

「賞金ですね、Dだとお小遣こずかい程度ですがB以上だと数100万を超えることもあります」

「なるほど、学生にはぼろい商売ってことか」

「基本的にはB以上は出現しませんし、単独でかかることはしませんので山分け前提ぜんていですけどね」

「Eだと?」

無給むきゅうです」

「なるほどな、一番高いやつはどんなことやらかしてんだ?」

「…赤いリスって見たことありますか?これに似た」


雫は充電が40パーセントを切っている携帯を操作し、ソフィアの写真を見せた。

そのは自身が昨日会っていたアルのことだと気づき、怪人Mは立ち止まった。


「…ああ」

「その目の中には何か番号が映ってますか」


雫は怪人Mを追い越してから振り返った。


「いくつだったかは覚えてねえが二桁の数字だったな」


怪人Mは冷や汗を悟られないようになるべく表情を変えないようにしていた。


「ならその生き物は違いますね」

「なんでだよ!今の明らかにそいつが高額賞金首の流れだっただろ!数字入ってる眼球とか言い当ててる時点でビンゴだろが!普通!」

「問題は目の中に数字がない場合なんですよ」


怪人Mと雫は再び歩き出す。


「何故か数字の入った方はランクEなんですが、「」ブランクになっただけで優先度Sランクに変わってしまうんですよ」

「なんだ、ウォー○ーを探せでもやってんのか?」

「知りませんよ、理由なんて」


雫は携帯を仕舞いながら首を横に振った。


「とりあえず俺の見たそいつ…アルには全て番号があった、情報源として詮索せんさくしたってなんも出ねえぞ」

「そうですね」

「つうかテメエなんで付いてくんだよ!俺が遠くまで行くなら登校とかどうすんだよ」

「大人が軽装かつ徒歩で行くとなるとそこまで遠くには行かないのでは?」

「この堂々としたストーキング最後まで決行する気か?!」

「えっ何かやましいところにでも行かれるのですか?」

「ああそうだよ!思いっきり子供には見せられないやましい場所だよ!」


雫は信じられないものを見た顔をして立ち止まったがすぐに後を追いかけてみることにした。



怪人Mはしばらく歩いた先にあった地下のライブハウスに入って行った。

もちろん雫も後をつけている。


「やましい…場所?」


早朝のため、スタッフはいないようだ。当然、利用者もいないため静まり返っている。


「テメエまだついて来てたか」


周りを見ていると頭を掴まれた。やや強く握られていたため、痛みを感じその手を外そうとしたができなかった。


「ここにはやましさは…カケラしかないじゃないですか」

「テメエについてこさせないような返しに決まってんだろマセガキ!」


頭を掴んでいた手が離されると同時に蹴飛ばされた。

そこまで強くない蹴りだった事もあり、よろけるだけで転ぶことはなかった。

怪人Mは携帯を取り出してどこかに電話を掛けようとしていた。


「ったく『馬面うまずら』に時間変更の連絡しねえと」

「やあ早かったね、ぐるぐる」

「遅かったわ」


背後から馬の頭の怪人が現れて声をかけてきた。

怪人Mは通話の必要のなくなった携帯をしまった。


「なになに?迷子まいご?僕は人殺しはやりたくないな」

「こんなきもわった迷子がいてたまるかよ」


実際、馬の頭の男と包帯で全身が覆われた男が少女をかこんで話し込んでいるというすさまじい絵面えずらである。この状況で取りみだしたりしないのはハロウィンの時だけだろう。


「怪人Mさん、その珍妙珍妙な異形系の怪人は?」

「あっもしかして君も怪人?よかったー」


馬面が胸を撫で下ろして言った。


「っそうなんだよ、こいつは最近なったばっかだから案内してまわってんだ」


怪人Mは誤解ごかいに乗っかることにした。


「アルの説明以外にも色々知らないといけないことあるもんねえ、ああ僕はみんなには『馬面』って呼ばれてるよ好きによんでいいよ」

「あなたはどういう役回りなんですか?」

「僕は物品ぶっぴんの受け渡しをする仕事をよくやっているよ」

「どんな能力なんですか?」


雫は続けて質問する。


「頭と下半身かはんしんの一部が馬になっているだけの能力だよ」

「…足の形は普通のようですが?」

尻尾しっぽとかが馬なんだよ」


馬面は冷や汗をかきながら説明する。


「普通の人よりも嗅覚きゅうかくが良くなったのとスタミナがあること以外特段とくだん普通の人間と変わらないよ」

「そうなんですね」


馬面は怪人Mに封筒を渡す。

「はい、お仕事完了」

「どうも」

「んじゃ帰ってゲームでもしようかな、あっ後輩は大切にしなよ」


馬面はスタッフルームへ消えて行った。


「ほら、帰るぞ」


二人は外へと向かう。


「あなたはなんて呼ばれたいですか?」

「好きにしてくれ、統一されってないからな」


そこで雫は先ほどの会話から立てた仮説を確かめるべく尋ねる。


「……あなたの仕事ってなんですか?」

「……人殺しだよ」


怪人Mは振り返り雫を見下ろして言った。

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