大いなる力
街道というのは直線になるように作られる。もちろん、街道は要衝と要衝を繋ぐためのものなので、最初から最後まで直線というわけにはいかないが、それでも方向転換は長い距離をかけて少しずつ行われる。それゆえに街道の上にいるときは、どこまでも続く直線の道が地平線の彼方に続いているように見える。
街道が直線を志向する理由は単純で、その方が馬車が速度を出せるからだ。
では街道の先に山や谷があればどうするのかというと、山にトンネルを掘り谷に橋を架けるのである。
というわけで、道路敷設隊の進撃は、それまでは順調に進んでいたのが、山にぶつかった途端に一気に停滞した。
ここ何日も、山をひたすらツルハシとノミとハンマーで砕くだけの一日が続いていた。
朝早くに朝食を食べ、日が昇るのと同時に働き始め、日が沈む頃に仕事が終わる。その間、ずっと忌々しい土と岩との格闘だ。
「長期戦だな」
と、隊長がぽつりと漏らしたのを聞いた。弱音を吐いたところを見たことがない男だったが、工事夫が誰も見ていないところでもそうであったのかは俺にも分からない。
道路敷設隊の面々の顔に疲労が濃く浮かぶようになっていた。
仕事が過酷になったのとは無関係に労働時間は同じなのだから、1日の疲労が前よりも増えるのは道理だった。
特に俺は、肉体的の限界のぎりぎりのところで踏ん張っている状態だった。
昔、軍隊にいたときはこうではなかった。あのとき、年上の隊員がすぐにへたばっていたのを内心馬鹿にしていたが。今は俺が、みんなに馬鹿にされる番になってしまっていた。
いつもの三人の食事も、絶望感というほどではないが、停滞した空気が流れるようになってきた。
俺は手足の痛みと、全身を包む疲労感で、ここのところずっと口数が少なかった。
それでも気分を変えるために、誰かがいつも新しい話題を提供してくれたが、その程度の新鮮さなど、麦粥を胃に流し込むくらいの時間ですぐにカビが生えてしまう。食事の終わりはいつも白けた笑いで締められるのだ。
「面白くないな」
と、リウニスが言った。それはハカルが披露した露悪的な冗談に対する警告か、今の仕事に対する感想か……。
そのとき、
「どしたの~?♡」
――と、いつもの調子でリナールが聞いてきた。
「どうもしな――いや、どうかはしているか」
「んー?」
いつもならリナールの質問は適当に流しているところだったが。
今日の俺は疲れていたし、それに、リナール以外の人間とずっと交流していたから、こいつがどういう存在だったのかを忘れていた。
油断していた、と言ってもいい。
かつて俺の不用意な言葉でリナールが何をしたのか、そして俺がどうなったか、忘れていたわけではなかったのに。
俺はまた間違ってしまったのだ。
「工事がなかなか進まなくてうんざりしている。それに岩を砕きすぎて手が痛い」
「痛いの〜?」
「ああ。山を抜けるまではずっと痛いままだ」
リナールは首をぐるりと回して、まさに今日の日中に掘り進めていた山の方を指した。
「あの山?」
「そうだよ」
と答えた。
次の瞬間、目の前が真っ白になった。
「わっ!」
目を閉じるだけでは足りずに手をかざすも、瞼の裏まで真っ白だった。
周囲から一斉に悲鳴が聞こえた。
遅れて遠くから地鳴りが聞こえた。
恐怖に包まれた数秒間だった。
……やがて瞼の裏が暗闇に戻った。
恐る恐る目を開く。
あれだけの強烈な光を直視したのだが、不思議なことに、光を目にする前と見え方は何も変わらなかった。
ただ変わったのは、リナールが示した山が、大きくえぐられて谷になっていたことだった。
目の前にあった山だけでなく、その奥の山も含めて、一直線に削られていた。本来は山々に遮られて見えないはずの夜空と水平線が、山を直線に貫く谷の先に見えていた。
えぐられた断面は未だに熱を持っていて橙色に光っていた。
シュウシュウと水分が蒸発する音と、焦げた臭い。
「一体何が起きた!」
隊長が叫んだ。
それがきっかけになったのか、成り行きを見ていなかった工事夫たちはパニックに叩き込まれた。
次に起きることを想像して不安に駆られる者、世界の終わりが来たと神々に祈る者、何らかの自然現象だと理屈をつけようとする者。
俺はみんなに、リナールがやったことをどうやって伝えようか迷って、しばらく何も言えなかった。
「ライゼル、さっきのは……」
と、ハカルはリナールではなく俺の方に聞いてきた。そして畏れるように、リナールに視線を送る。
当のリナールは「これで痛くないね〜」と、場違いにのんびりとした口調で勝手にエンドマークをつけただけだった。
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