異世界《エルミラリア》への転移

「……っ!」


蒼真は息を呑んだ。


視界が一瞬で切り替わり、気づけば彼は広大な大地の上に立っていた。


風が吹く。


草木のざわめき、湿った土の香り、遠くで鳴く鳥の声――

すべてが異常なほどリアルだった。


(これ……ゲームの中、なのか?)


蒼真は、ゆっくりと自分の手を握ったり開いたりしてみる。

ちゃんと指の感覚がある。皮膚の温度も、服の質感も、まるで現実そのものだ。


これが、ゼロポイントの「完全没入型意識転送」の力――


「……いやいや、リアルすぎるだろ……」


心臓がドクドクと鳴る。


これまでのVRとは比べ物にならない。

ヘッドセットを被って仮想空間を眺めている感覚じゃない。

本当に異世界に転移した――そう錯覚するほどの現実感。


(でも、錯覚ってだけだよな……? いくら技術が進化しても、現実の物理法則を超えるわけ――)


その瞬間、頭の中にシステムメッセージが響いた。


《ようこそ、異世界エルミラリアへ》

《本世界は、あなたが探索し、創造することができます》


「……マジかよ」


蒼真は改めて周囲を見渡す。


目の前には、どこまでも広がる緑の草原。

遠くには青く輝く湖と、その奥にそびえる白銀の山脈。

西側には深い森が広がり、森の奥には不気味な黒い塔がそびえていた。


それだけじゃない。


遠くの空を、龍のような巨大な生き物が飛んでいた。

山の麓には、小さな村らしき建物群が見える。

さらにその先には、石造りの城壁に囲まれた巨大な都市が広がっていた。


「……まるでファンタジー世界そのものだな」


実際、その通りなのだろう。

だが、何もかもが「CGの世界」ではなく、現実の延長のように感じられる。


まるで、夢の中にいるような感覚だった。


異世界のステータス画面

(とりあえず、ステータスとか見れるのか?)


蒼真はゲームのように「メニュー画面を開く」ことを意識した。

すると、透明な青白い画面が目の前に現れる。


《ステータス》


名前:天野蒼真

職業:なし(転移者)

スキル:召喚スキル(未使用)、魔法スキル(初期段階)

身体能力:一般人レベル

所持金:0G


「……意外と普通だな」


普通のゲームなら、異世界転生すると最初からチートスキルを持っていたりするものだが、これはそういうわけでもないらしい。


(まあ、いきなり最強だったらつまらないか……)


だが、一つだけ気になる項目があった。


《創造権限:未開放》


「……創造権限?」


ステータス画面には詳しい説明はない。

だが、ゼロポイントの機能説明には、「仮想世界を創造する」能力があると書かれていた。


(でも、まだ未開放か……)


ひとまず、それは後回しにするしかなさそうだった。


異世界の住人との遭遇

(さて、どうするか)


とりあえず、最も近くに見える村へ向かってみることにした。

異世界に来たのなら、まずは情報収集が必要だ。


歩き出した瞬間――


「……ん?」


どこからか、かすかに悲鳴のような声が聞こえた。


反射的に音のする方向を見ると、森の中で何かが動いている。


(誰かが襲われてる……?)


気になって駆け出す。

足元の草が風に揺れ、木々の間を走り抜ける。


そして――


森の奥で、一人の少女が狼のような魔物に追い詰められていた。


「うわぁぁぁ!!」


少女は、木の根に引っかかって転んでいた。

金色の髪に、青い瞳。

まるで童話から飛び出してきたような、美しい少女だった。


「クソッ、間に合うか!?」


だが、問題は――


(俺、武器持ってねぇ!!)


戦う手段がない。


魔物は牙を剥き、今にも少女に飛びかかろうとしている。


(クソッ! 何か、何かできることは……!!)


蒼真は、ステータス画面を思い出した。

そうだ、自分には「召喚スキル」がある。


この世界に来る前に、それを選んでいた。


(……試すしかねぇ!)


頭の中で「召喚スキルを使う」と意識した。


すると――


《召喚スキル発動》

《召喚対象を選択してください》


透明な魔法陣が足元に現れる。


(くそっ、誰でもいい! 俺を助けてくれる戦士を!!)


祈るように叫んだ瞬間、魔法陣が光を放つ。


「召喚に応じよう……」


低く響く声とともに、剣を携えた影が現れた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る