第20話  バブミーベイベー


 鈴奈と出会ったときのことを思い出す。

 俺が中3、鈴奈が中1の時のことだ。



「私はお兄様と家族するつもりないですよ」


 鈴奈と2人きりになった瞬間、いきなりこんなこと言ってきた。


「所詮、私たちは男と女ですからね」


「まぁ、確かにそうだが」

 

まるで私たちは家族という枠組みで住んでるだけですよとも聞こえた。

 正直、少し反発しようと思った。

 俺も自分には嘘をつけない。


「いきなり家族って認められませんもの」

 

鈴奈の目は冷たかった。

 ゴキブリを見下すかのように俺を見ていて、興味ありませんといった感じだった。

 一緒に住むというのにこうも嫌われちゃなんとなくやりづらい。

 なんとかしないと。


「鈴奈ちゃんってすごく可愛いよな」


「だからなんですの?」

 

 めちゃくちゃつまらなそうな返事をされた。

 あれぇー?


「別に仲良くしようとなんてしなくていいですよ」


「あ、いや、兄弟だし」

「単なる男女です、では失礼します」

 

 鈴奈にぺこりと綺麗にお辞儀をされた。

 めちゃくちゃ他人ですよと言わんばかりに距離を取られていた。

 今考えると信じられないが、鈴奈には全く好かれてなかった。

 それどころか、関心すら持たれてすらいなかったのだ。



 「おはよう」


 とりあえず俺は笑顔で挨拶をした。


「おはようございます」

 

 鈴奈は必ずぺこりと綺麗にお辞儀をしてきた。

 あなたと私は単なる男女ですと言わんばかりに距離がやはり取られている。

 会話はそれしかなかった。

 食事も鈴奈の部屋で1人で食べる。

 鈴奈と喋る機会なんて、朝におはようというぐらいだった。

 寮生活で単にすれ違う男女と一緒だ。

 でも、俺にできるのは鈴奈に挨拶することだけだった。

 笑顔で、自分から、相手に聞こえるように挨拶をする。

 ただそれを全力で実行する。

 当たり前のことを当たり前じゃない情熱でやり切る。

 挨拶。

 俺なりに誠意一貫で取り込んだ。


 

 1ヶ月後。


「なんでそんなに私と仲良くしようとしてくださるんですか?」


「い、い、いや、べつに」


「兄は妹を無条件に可愛がる職業でもないですよ?」

 

 鈴奈はつまらなそうに両手を上にした。

 

「職業だ!」


 俺は反射でそう答えた。

 なんかそういうのが正しい気がした。


「え?」


「鈴奈ちゃんはものすごく可愛い義妹なんだ、可愛がらなければ兄としても何もできてないのと同じだろ」

 

 俺は鈴奈に対して日頃から思ってることを素直にぶちまけた。


「はぁー」

 

 豆鉄砲でも食らったかのような表情をして、ぽかーんと俺を眺めていた。


「もうちょっと気の利いた言い方ありませんの?兄は妹が可愛がる職業って自分が言わせておいてあれですけど」

 

 鈴奈がそっぽをむき、両手を上下にすりすりさせている。

 顔を赤くさせて、もじもじしている。


「あ、い、いや、兄である以上妹は無条件に可愛がるべきっていうかなんというか」


「ふふっ、変な人」

 

 鈴奈が俺と会ってから初めて笑った。

 こりゃあモテて当然だなぁと我が義妹の魅力に驚かされる。


「では、お言葉に甘えて生涯永遠と可愛がってもらうことにしますね」


「任せとおけ」

 

 兄は妹を無条件に可愛がるべき。

 それが俺なりの持論だった。


「お願いしますね、兄様」

 

 鈴奈の呼び方はこの日からお兄様ではなく、兄様に変わった。

 俺もこの日以降、鈴奈と呼び捨てになるようになった。



「兄様、どちらの服がお好みですか?」


「まぁ、赤かなぁ?」

 

 鈴奈が青と赤の服を見せてきた。

 どちらも可愛いけど、鈴奈のイメージカラーは赤だったから、赤と答えた。


「なんで俺の好みなんて聞くんだよ」

 

 あの日以降、ほぼ全ての事柄俺の意見を求めてくる。


「服なんて所詮、自分という商品を誰かを喜ばせるためだけの飾り付けでしょう? いかに喜ばせたい人から評価されるかなんて、私の好みなんてどうでもいいんです、私の好みと一緒ならなおよしってところですかね?」


「それもそうだけど、いちいち俺の意見いるのか?」

 

 すると鈴奈は心底から不思議そうに首を傾げた。

 それが妙に可愛い。

 なんなんだ、鈴奈の強烈な魅力は。 


「私を可愛がってくれるんでしょう?」


「わかった、モールに行こう、多分もっと似合う服あるから」


「あら? 気づきませんでしたわ」

 

 鈴奈は口に手を当てた。

 その所作は上品なお嬢様といった感じだ。

 自分の選んだ服以外に似合う服があるなんてゆめにも思わなかったらしい。

 どんな自信だよ。


「鈴奈は自分の思うよりずっと可愛いぞ」


「そうなんですか? そんなこと考えもしませんでしたわ」

 

 またしても、鈴奈は口に手を当てた。

 可愛いと言われなれすぎていたが、そういう言い方はされなかったようだ。

 鈴奈が突然、ニヤリとした。


「兄様ってシスコンですか?」


「鈴奈もブラコンだろ」


「当然ですよ」


「だったら聞かなくても分かるだろ」


「私だって確認したくなる時がありますのよ?」


「あーそういうことか、俺はシスコンだな」


「分かりました」

 

 鈴奈はドヤァ〜としていた。

 ずいぶんと満足げだった。



 ある日のこと。

 俺はアイドル声優のコンサートを見ていた。


「兄様、こんなものに興味がありますの?」


「こんなものとはなんだ、こんなものとは」


 俺の好きなものだぞ。馬鹿にすんな。

 そう主張すべく鈴奈をにらみつける。

 鈴奈はそんな俺に興味も持たず、アイドル声優のコンサート映像を気にしていた。


「だってお客様の理想に自分をカスタマイズするだけですよね」


「そうっちゃそうだろ」


 鈴奈が「うーん」とうなっていた。

 何か、納得いかないことがあったのだろうか?


「アイドルはファンの夢、いや、妄想と言ってもいいかもですけど、女性に対する夢を叶える職業ですもの」


「冷めた目で見てんなぁー」


「事実ですよね?」


 鈴奈は平然とそう告げた。

 俺もそれに関しては否定できない。


「確かに鈴奈は顔もすごく可愛くて、声も可愛いし、アイドル声優にならない方がおかしいけどそんなあっさり言うなよ」


「そんなこと兄様思ってたんですか? やっぱり私は天才だと?」


「天才? 確かに天才って表現が適切か。鈴奈は才能だけなら今の時点でも十分すごいんじゃないか」


「大人気アイドル声優、面白いかもしれませんね」


「鈴奈なら簡単にできそうだな」

 

 俺がなんとなくそういった。

 すると次の瞬間だった。

 鈴奈が俺の右腕に抱きついてきた。


「私は生涯を共にすべき愛するべき人が兄様と今日わかりました。これは運命です」

 

 鈴奈の目がいつになくキラキラしている。


「私は兄様の理想そのものになって仕舞えばいいんですね、結構簡単そうです」

 

 なぜか、鈴奈に兄としてではなく、男性としても好かれてしまった。

 鈴奈の恋は今現在も尚、決着がついていない。

 これから義妹に苦労させられるだろうなぁと思う未来を察する俺だった。


◆◆◆あとがき、お礼、お願い◆◆◆


ここまでお読みいただきありがとうございます。


というわけで、鈴奈ちゃんも可愛いっすよね(どやぁ、作者渾身のどや顔)


もし、


鈴奈ちゃん、すっごくかわいいです、結婚したいです


今回の話も楽しかったです


笑えましたよ


と思ってくださいましたら、


♡、☆☆☆とフォローを何卒お願いいたします。


レビューや応援コメントを書いてくださったらできるだけすぐ読みますし、返信も速やかに致します。


次回からは美咲ちゃんのお母さまが登場します


公開日は5月18日6時頃です。


ぜひぜひお楽しみに!

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