第24話 執着 side.穂香
side.穂香
結菜の胸に顔を埋めたまま、私はそっと瞼を閉じる。
彼女の肌から微かに残る昨夜の香りと温もりが、私をふわりと包み込む。
——嬉しい。
こうして結菜と肌を重ねられたことも、距離を取っていた分、近くにいられることも。
私を求めるように腕を回してくれることが、たまらなく愛おしい。
それなのに、胸の奥がざわついていた。
昨夜の結菜は、優しかった。
たくさん触れてくれたし、キスもしてくれた。
でも……どこか余裕があった。
今までの結菜は違った。
夜にそういうことをする時は、私を独り占めにするように激しく求めてきた。
何度も何度も、私を自分のものだと刻むように。
あの束縛に、少しだけ窮屈さを感じていたはずなのに……。
——どうしてだろう。
今は、あの強引なほどの愛し方が恋しい。
私は結菜の腕にしがみつくようにぎゅっと抱きつく。
胸の奥に芽生えた不安を隠すように。
「……結菜」
掠れた声で彼女の名前を呼ぶと、結菜は優しく髪を撫でてくれた。
その手の温もりが嬉しくて、でも同時に少し怖い。
この優しさが、私を安心させるためだけのものだったらどうしよう。
本当はもう、私を強く求めてくれなくなっていたら……。
「ん……?」
結菜が穏やかな声で返事をする。
優しくて、ふんわりと包み込むような声。
いつもの私だけに向ける柔らかい声なのに、心は不安でいっぱいだった。
——ねぇ、結菜。私のこと、まだ同じように好き?
喉まで出かかったその問いは、どうしても声にならなかった。
聞くのが怖い。
聞いてしまったら、答えが恐ろしいものだったら、どうしよう。
私は代わりに、そっと結菜の首筋に唇を押し当てる。
昨夜、私が何度も触れた場所。
自分の痕がくっきりと残っているところ。
ちゅ……。
そっと吸い付くと、結菜がくすぐったそうに身じろぎした。
でも、それだけ。
これまでなら私が少しでも強く触れれば、すぐに結菜は体を反応させて私を求め返してきたのに。今日は、違う。
——足りない。足りないよ、結菜……。
もっと、私を強く抱きしめて。
離さないって言って。
独占してくれないと、不安で仕方ないのに……。
私はもう一度、彼女の肩に唇を落とした。
何度も、何度も。
昨夜と同じように。
でも、結菜は優しく笑って髪を撫でるだけだった。
違う。違うよ、結菜。
もっと、私を欲しがって。
私を逃がさないで。
「……穂香?」
結菜が少し不思議そうに私を呼ぶ。
私はぎゅっと彼女にしがみついたまま、離れたくなくて、頷くだけだった。
胸が苦しい。
このまま、もっともっと結菜に触れていたい。
繋がっていたい。
離れたくない。
「……結菜……ずっとこうしてたい……」
掠れた声で呟くと、結菜は優しく私を抱き寄せた。
その腕の温もりが、嬉しくて、でもほんの少し怖くて。
——ねぇ、結菜。私がこんなに求めても、余裕があるのはどうして?
どうして、私だけこんなに必死なの?
それでも、私は彼女の胸に顔をうずめる。
この不安を、知られたくなくて。
嫌われたくなくて。
彼女の首筋に顔を擦り寄せながら、ふと気づく。
——あぁ、これが……結菜が今まで感じていた気持ちだったんだ。
私が自由を欲しがるたびに、不安になって、寂しくなって。
もっと私を繋ぎ止めたくて、強く求めていたんだ……。
結菜は、ずっとこんな気持ちだったんだね……。
そう思うと、胸がぎゅっと締め付けられる。
ごめんね、結菜。
私は、結菜のことをちゃんと分かっていなかった。
私が自由を求めるたびに、こんなふうに苦しませていたのかもしれない。
結菜の腕をぎゅっと抱きしめながら、私はそっと瞼を閉じる。
もう二度と、不安になんてさせない。
だから、もっと私を縛って……結菜だけのものにして。
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