第11話 契約士、加速する成長の第一歩を踏み出す
「――んじゃっ。そろそろ
ミュゼアがジョブ【女神】に覚醒した翌日。
今度は普通に鍛錬・修行として迷宮へ向かうことにした。
もう昨日ほど手こずることはないだろう。
ということで。
本格的にモンスターを倒して、二人で強くなっていくつもりだ。
「あの、その、ご主人様。忘れ物、ではないのですが……」
だがその出発前。
ミュゼアは昨日にも負けないほどの照れや羞恥を含んだ顔で、何かを訴えかけてくる。
……さっきからずっとソワソワしていたが、言いたいことがあるらしい。
<あの堂々とした、女神然とした態度とは天地の差ですね。何でしょう……おトイレ? そうであればミナト様がちゃんと見てますから、遠慮せずすればいいと思うんですけど>
いや見ねぇよ。
……サポートちゃん、ちょいちょい垣間見える変態性、なんなの?
それなら純粋にエロの方向に吹っ切れてくれた方がまだましだ。
<あっ! 言っちゃった~言っちゃった~。ミナト様、知りませんよ? 言質取りましたからね>
…………。
「――それで、忘れ物じゃないって、何だ? 何かあるんなら今の内に言っておいてくれ」
サポートちゃんは無視して、ミュゼアを促すことにした。
「はい。では……――あっ、あのダンジョンに行って、モンスターを倒すのでしたら! 【女神の祝福】、発動、しておいた方が、いいと思います!」
豊かな二つの果実の前で、ミュゼアは両手をギュッと握りしめる。
そして赤らんだ顔のままグイっと顔を近づけてきた。
まるで、ここが勝負所と判断したかのような押しの強さ。
……何事?
「……? まあ、効果がどんなのかは知らないけど。できるんなら、しておいたらいいんじゃないか?」
何故それを言うのに、ミュゼアは一世一代の告白をするかの様なもったいぶりが必要だったのか。
疑問符をいくつも頭に浮かべながら、否定する理由もなく。
そうして頷き肯定を示すと、また食い気味にグググっと寄ってきた。
<あぁ~。これは“ご主人様、言質、取りましたからね!?”って顔してますね。“後で撤回とか、無しですからね!?”って表情ですはい>
サポートちゃんの声に反応しようかどうかと考えた瞬間である。
ミュゼアが見たことないくらいの素早さで、俺の真横に移動していた。
そしてほんの少しだけの背伸び。
ミュゼアの髪、女の子の甘く優しい匂いが一瞬フワッと香って――
「失礼します。――んちゅっ……」
――頬に、温かで柔らかな“何か”が触れた。
<キャァーッ! キッスだキッス! ミュゼア様、大胆っ!>
「…………」
ミュゼアの顔が離れたのを確認。
それから反射的に右手の指先で、その頬に触れていた。
人差し指と中指の、先っぽ。
ほんのわずかに残る
まだじんわりとした温かみもあった。
「っ~~!」
その温かみを残していった
顔を真っ赤にしてうつむいていた。
プルプルと震えながらも、自分の唇にずーっと指を当てている。
……あっ、ちょっと嬉しそうにはにかんだ。
――やっぱりキス、だったんだよなぁ。
<ひゅ~ひゅ~。……とまあ、そこらへんで、お熱いお二人さん。青春して朝からお楽しみでも構いませんが、今のは一応【女神の祝福】の発動のためだったんでしょう?>
サポートちゃんの声で、ハッとして我に返る。
……そうか、スキル発動のための条件だったんだな、うん。
だからキスに特別な意味はない、特別な行為ではない……よし。
そして切り替えるとほぼ同時くらいに、自分の体の異変を感じとる。
温かい光の膜に包みこまれたような感覚。
だが具体的に何かパワーアップしたとか、使えなかったスキルを使えるようになったとか、そんな感じはしない。
「あの、【女神の祝福】は成長を促進するための、その、スキルだと思います。ですので……はい」
つまりモンスターを倒したり、修行したりすれば効果を実感できるらしい。
「あっ、そっか。……うん、じゃあ、行くか」
ぎこちないミュゼアの言葉に、俺もぎこちなさを消せずに答える。
お互い気恥ずかしさみたいなものが残ったまま、言葉数少なくダンジョンへと向かったのだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「――【
迷宮の3階層目。
先程までの静かさが嘘のような、ミュゼアの気迫のこもった声が響く。
地上では見られないような神秘さを纏う水晶。
それが先端についた黄金の杖を、軽く一振り。
合わせて、光の塊が線となって真っすぐ飛んでいく。
あの杖も、【女神のヴェール】により強化された装備の一つだ。
「BOO――」
ボーンソード。
ミュゼアと昨日、10分以上かけて倒した奴の上位互換。
俺が殺されかけた奴でもある。
それが骨どころか武器である粗末な剣ごと、ミュゼアの放った光に貫かれる。
[ボーンソードを討伐しました。従者“ミュゼア”が経験点を獲得しました。内訳 力:+1 技:+2 魔:+1 センス:+1]
昨日苦しんだ相手、その上位種との戦闘は、完勝に終わったのだった。
「お疲れさん。全然余裕そうだったな」
俺も戦闘には参加したが。
盾役やタンクすらいらないほど、ミュゼアの魔法は鮮やかだった。
詠唱もいらず、かといって威力がないわけでは全くない。
もう殆どミュゼアの手柄みたいなもんだ。
「お疲れ様です! 良かった、普通に倒せましたね!」
ホッとした笑顔でミュゼアがこちらに駆け寄ってくる。
その足取りがとても軽やかなのは、何もそのブーツに【浮遊】のスキルが宿っているからだけではないだろう。
……それにしてもスカートの丈、本当短いな。
ミュゼアが駆ける度にフワッフワッってなるんだよ。
中が見えそうで、いつもドキドキしちゃうんだけど……。
「杖も凄いな……貴族様の宝石かってくらい光ってる」
短いスカートから覗く、綺麗で魅力的な太もも。
そこから意識と視線を逸らすように別の話題を口にする。
ミュゼアの手にする杖、その柄の部分に限らず。
先っぽについている青い水晶も、とても高価そうな見た目だ
「杖の効果が【光魔法 詠唱破棄】と【光魔法Lv.+1】ですからね……もうこれとグローブだけで、私も立派な魔法使いになっちゃいました」
ミュゼアは杖を掲げながらも、照れやら苦い感情やら、色んな思いが混ざった顔をしていた。
……過去のことが思い出されたのだろう。
「……【女神】のジョブは、ミュゼアが今まで努力してきた証みたいなもんだろ。だから【女神のヴェール】でできた武器や、そっからくるスキルも。全部ミュゼアの実力。胸張って使えばいいんだ」
俺が【ステータス
それにミュゼアが頑張ってきたからこそ、一定の経験点が元から貯まっていたんだ。
だからこの言い方でも間違ってないはずである。
「ご主人様――……はい。わかりました」
もうこの話題はこれでおしまいと、ミュゼア自身が切り替えるように笑顔を浮かべる。
少しだけあった苦い感じのニュアンスはもうすっかり消えていた。
……うん、よし。
<枕にしたいほど柔らか豊かで素敵な胸をお持ちのミュゼア様に向かって“胸を張れ”……ふむ>
何が“ふむ”だ。
意味深な言い方はやめい。
別にミュゼアに胸を強調してもらって、目の保養にするために言ったわけじゃないからね!?
ったく……サポートちゃんは。
さっきぎこちなくなった時は、上手く話しかけてくれたのに。
かと思ったら、こうだよ。
話を変えるためにも、戦闘の成果を改めて確認する。
経験点を得たのは、何もミュゼアだけではない。
【女神の祝福】の効果が早速現れたのだ。
[ボーンソードを討伐しました。経験点を獲得しました。
内訳
力:+1(女神の祝福→力:+6)
技:+2(女神の祝福→技:+7)
魔:+1(女神の祝福→魔:+6)
センス:+1(女神の祝福→センス:+6)]
すべての獲得経験点が、5ずつ増えていたのである。
――――
あとがき
レビュー★の数が100に到達しました!
異世界ファンタジーでは初めての経験ですので、大変嬉しいです。
とても励みになります、ありがとうございます!
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