第39話 婚約式の準備


「マクシミリアーン、そなたは今後どうする?」

「また次期皇帝にまつり上げられるのは御免ですので、陛下のお許しがあれば家族全員で他国へ移住したいと。ピョートル、いいだろう?」

「いいだろうとは、家族でザラタローズに移住を望む意味か?」

「そうだ。アレクサーンデルはアヴローラと婚約するし、ナターリヤは強い希望がある」


「私はアヴローラ様付きの女官を希望します。恩返しにもなりますし、私は皇子妃教育でローディナ帝国だけでなく、ブリトンなど他国のマナーも学ばされました。アヴローラ様は外務大臣夫人代理をなされておられましたから、各国の言語など堪能だと承知しておりますが、公式訪問や他国からの訪問の際に調整役を私が担えます」

「素晴らしい心掛けだナターリヤ。ザラタローズの者は、ナターリヤがここまでアヴローラを慕う気持ちを無碍むげにするのか?」


「お気持ちは畏れ多いと同時にありがたいのですが、ご実家のリューティク侯爵夫妻や祖母のフェオドーラ様が反対なさるのでは?」

「大丈夫よ、アヴローラ。息子夫婦は責任能力なしと判断して廃嫡したわ。リューティク侯爵位は帝室に返上します。陛下、私になんらかの身分を頂戴できまして?」


「姉上にはベリョーズナヤ大公に就いて、皇宮内に住まいを移していただきたい」

「わかりました。アヴローラ、ナターリヤの気持ちを受け取って頂戴」

「はい、畏まりましたベリョーズナヤ大公殿下。ナターリヤ様、本当にありがとうございます」


「ザラタローズに利ばかり、どうお返しすれば」

「ピョートルがいなかったら俺は廃帝をブン殴り、帝室を消滅させていた。お前が皇帝の執務を担ってくれたから、ローディナ帝国は存在している。何か返したいと思うなら、家族全員の移住を認めて欲しい。爵位は面倒だから要らないと言いたいが、伯爵位をくれ」 


「皇弟が伯爵はあり得ない、公爵だ」

「だったら、エドゥアールドに公爵位を。それと今、ここで言うのは非常識だが、いいか」

「いいぞ」


「エリザヴェータ、私が婿入りするから結婚して欲しい。政略結婚がなければ、私はエリザヴェータが成人するまで待つつもりだった。離婚したばかりのおじさんは嫌だろうか?」

「……私は幼い頃から、マクシミリアーン兄様に憧れていました。私は32才、研究ばかりしていて女性らしさのカケラもないんです」

「素晴らしい研究者として、世界中で有名だ。研究者が普通の貴族女性がする、社交や茶会などにかまける暇はない。私は、そのままのリーザを愛している」

「ピョートル兄様、お受けしてもいい?」


「リーザの正直な気持ちを言えばいいんだ」

「はい。マクシミリアーン様、お受けします」

「長年の初恋が実ってよかったではないか。マクシミリアーンが婿入りするなら、エリザヴェータに大公位を与えてくれ」

「では、椿の研究者であるエリザヴェータに相応しい、カメーリヤノフ大公家にいたします。リーザが当主で、マクシミリアーンはいいのか?」

「私が当主だと、両帝国から不満が出る。リーザはザラタローズ皇帝の妹、リーザが当主だ」


「エリザヴェータはカメーリヤノヴァ大公、マクシミリアーンはヴィノグラードフ公爵だ。ヴィノグラードフ大公領は名前を変更し、ローディナ軍の大規模な基地にする。しばらくはザラタローズだけで祖国防衛は難しい。両国は血で結ばれた兄弟国。軍事同盟も締結し、両国の軍は非常時に備え、そこで共同訓練を行う」

「ありがとうございます、叔父上」

「陛下、ありがとうございます」


「マクシミリアーンとエリザヴェータの婚約式も、アヴローラとアレクサーンデルの婚約発表と同時に行えばよい」

「私は婚約署名式用の、ドレスを用意しておりませんので」

「アヴローラのドレスと一緒に作らせているよ、リーザ」

「用意周到ね、マクシミリアーン兄様の意地悪」

「拗ねた顔も可愛いよ、リーザ」


 いきなり溺愛モードのヴィノグラードフ大公殿下にアヴローラは驚いたが、息子のエドゥアールド殿下とアレクサーンデル殿下が虚無顔。父親の溺愛姿が微妙なのだろう。ナターリヤ様は嬉しそうにニコニコしているのが対照的。


「アヴローラとアレクサーンデル、エリザヴェータとマクシミリアーンは着替えよ。婚約署名と写真撮影を行う。そなたたちは目立ちたくないだろうから、廃帝と新皇帝即位、ザラタローズ帝国建国などに紛れて、婚約を発表すればよい。写真はこちらから報道機関に渡す」

「陛下、まず家族写真はいかがでしょう? この姿のまま皆で撮影。それから着替えて婚約署名をする時に、男性は軍の制服で記念撮影を」

「なるほど、我々は家族だ。その後はローディナ帝国とザラタローズ帝国として署名式だな?」

「左様でございます」


「なら、マクシミリアーン、どこで撮影する」

「本来なら謁見の間ですが、廃帝好みの装飾品が邪魔になります」

「最優先で片付けさせよ。レーベデフ公爵とアルローフ公爵も呼び出してくれ。その間に婚約署名書と、両帝国署名書を作成する」

「御意」


 ヴィノグラードフ大公が御前会議の間から退出。エドゥアールド殿下とアレクサーンデル殿下、ザラタローズ公爵が草案を作成。両国で保管するので二部ずつ必要になる。アヴローラは草案の校正を頼まれ、陛下も目を通して了承を得た。


 まずはアレクサーンデルとアヴローラ、マクシミリアーンとエリザヴェータの婚約署名書。次が先帝陛下が革命前にするはずだった、ザラタローズ家へ領地の返還と帝国の建国。不戦条約とローディナ帝国軍とザラタローズ帝国軍との同盟。両国は非関税貿易条約を結び、共通通貨条約に基づきローディナ帝国のものを使用。ザラタローズ領の人間は全てザラタローズ帝国に属し、戸籍の登録や身分証、パスポートを発行。銀行、郵便局や通信回線も、しばらくローディナ帝国内のものを使用。各国の大使はローディナ帝国兼ザラタローズ帝国。皇帝は即位したが、戴冠式は急ぎで十一月にそれぞれ行う。


 ローディナ帝国内にいる、ザラタローズ領出身の文官や武官、女官は、そのままローディナ帝国で勤務可能だか、戸籍と身分証は登録必須。ザラタローズ帝国で勤務したいなら、勤務先の上司や上官に申請後に面接。貴族家や一般国民でザラタローズ帝国に移住したい場合は、申請してから面接。なのでザラタローズ帝国の大使館が必要になるが、既に建物は確保していた。ザラタローズ帝国にもローディナ帝国の大使館が必要だが、同じく確保済み。


 帝都のザラタローズ公爵家の土地建物は、ローディナ帝国に返還。そして、ザラタローズにあるローディナ帝国離宮はザラタローズに返還。ヴィノグラードフ公爵家族は、しばらくザラタローズ城に住んでいただく。アレクサーンデル殿下は次期皇婿こうせいなので、城内に住むのは決定事項。エドゥアールド殿下とアレクサーンデル殿下には別々の公爵位が与えられる。

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