第22話 君の名は3

『大聖女・ケレスティーア、私を許さなくていい。あなたは処刑されてしまった。しかし、私があなたを愛した気持ちに嘘はありません』

『ラスティラーフ王太子殿下、ですね?』

『はい、そうです』


『わたくしもラスティラーフ王太子殿下をお慕いしておりました。婚約式を中止させたお詫びを、最後にお伝えしたかったのです。わたくしが処刑された後は、どうなりましたか?』

『私も異母弟に殺されるとわかっていたので、女神様に誓いを立てました。この命を捧げるので、生まれ変わりあなたに会いたい、と』

『何故、そこまで』


『女神様は、『生まれ変わり巡り合っても、ケレスティーアがそなたを愛するとは限らない。それでも生まれ変わるか?』と。私は『ケレスティーアが生まれ変わり幸せな人生を送って欲しい。可能なら愛し合う存在になりたい』と願いました。女神様は、『そなたの命だけでは足りぬ。ならば代償を払え。願いが成就すれば、二人に命ずる』と。私はあなたにも負担をかけるのをわかっていながら、生まれ変わり巡り合うのを望み、その場で命を捧げました。あれから数千年の間、私はあなたと何度も巡り合いましたが、あなたはすぐに亡くなってしまう。それと女神様が封印した、もうひとつのあなたの人生があります』


『何故封印されたのでしょうか?』

『ある男があなたに執着し、尊厳を意図的に踏みにじり、殺されたからです。聞きたいですか?』

『聞かせてください』


「裏うらら、またはアリアードナ・ヴィークトロヴナ・カンテミーラ」

「あっ! はい、私の名前です。なら、総領事で父親になってくださった、カンテミール公爵閣下や白川会長に、名を呼ぶのも嫌なリチャードとの記憶も?」


「カンテミール公爵閣下や白川会長は、あなたを大事にしていました。しかし、リチャード・リーズとの記憶はあまりにも酷いので、あなたが思い出して絶望されないように、女神様が改変しています。あなたは彼と婚約してからバリ島に行き、ある夜、リチャードから拘束された状態で酷い目にあい、殺される寸前に正当防衛で気絶させた。違いますか?」

「そうです」


「実際は婚約せずに、ビジネスパートナーなら働くと告げ、バリ島で戦死者の魂を送った数日後に無理矢理純潔を散らされ、殺されました」

「殺された? あの時は、ヴィンセントの厚意でお姉やヴァレンタイン、シルヴェスターとティナもバリ島に来てくれて、みんなで演奏して歌って楽しかったっ、オリバー?! ほしたらラスティラーフ王太子殿下も真司様も、シンガ王子も太郎くんも、オリバーやったん?」

「せやねん」


「大阪弁やん!」

「リチャードが逮捕されて、俺は白川会長の弁護士を請け負い、民事でリーズ家に勝った。打ち合わせも兼ねて会長のペントハウスに住んで、大阪弁を教えてもらってん」

「せやってんや。オリバー以外は、もう誰にも会えへんのかー」

「いや、生まれ変わって、何人かは会える。ブチ切れた女神様が、前世と似て非なる次元に生まれ変わりさせはってん」

「次元が違う?」


「混乱するやろ? ちょい茶しばく?」

「うん、そうしよ。さっき、アールグレイとアッサムのブレンドに、ウバも好きなん聞いたの、バリ島で私が好きやって知ってたからやな?」

「せやねん。何飲む?」

「脳みそパーン! って知恵熱出そうやから、カウンテスグレイのアイスティー」


 卓上のベルを鳴らしてメイドを呼び、カウンテスグレイのアイスティーとケーキを頼んでくれる、サー・アレクサーンデル(オリバー)。この屋敷で目を覚ましてから、メイドの言葉が理解できなかったけれど、今はわかる。メイドが一礼して下がったところでオリバーに尋ねる。


「オリバー。ロシア語でメイドに頼んでたけど、ここはロシアか英国?」

「ロシアと似てるけど次元がちゃう世界で、ここはローディナ帝国。言語もロシア語やなく、ローディナ語やけど、ロシア語と同じ」


「ほな、今の私は?」

「いとさん、今までの記憶を整理してからのほうがええと思うで」

 *いとさん=古い大阪の言葉でお嬢様


「いとさんって呼んでって私が頼んだの、覚えてくれてるんや。むっちゃ嬉しい」

「忘れる訳ないやん。だって」


 ドアがノックされ、大きなピッチャーにカウンテスグレイのアイスティー。グラスが二個に氷の入ったアイスペール、ロシアでは誰もが知っていたアンケパイという、レモンカードケーキが運ばれてきた。メイドが下り、また話す。


「アンケパイは作家のトルストイの奥さんが、レシピ集に載せてたやんかー。ロシアやソ連の人物や作品、食べ物とかも引き継がれてんのん?」

「ある程度女神様が排除や選別して、この世界に引き継がれてる。ロシアに限らず他国もそんな感じやけど、地理や歴史、国の名前や土地面積、宗教がちゃうねん」


 今は簡単に説明する、とオリバーが話してくれて、ほんまに似て非なる世界やと認識。この状況は、人気があった小説に近い。


「日本のラノベでよくある、『異世界転生』?」

「いとさんと俺、数千年以上転生してはバドエン繰り返してるから、そうなるんかなー」

「異世界転生って、主人公はチート能力が備わってたり、前世の知識で無双するけど、うちらにもあんの?」

「それは後で女神様に聞いて。俺が転生を願った代償も教えていただこう」

「せやな」


 白川会長は私が『裏うらら』だった時、仕事ぶりを認めヘッドハントしてくれた恩人。私の親、特に母親が私を嫌い抜いていた。リチャードは白川会長の三男。幼い頃に会長の姉の夫、英国貴族の弟の養子に。ヴィンセントは個人で軍隊を持ち、オリバーの幼なじみ兼上司でお兄様が伯爵。レディ・レイラ・キャンベルと婚約。レディ・レイラと私の高祖父が同じで、その子孫で総領事のヴィクトル・カンテミールは、私が大学でロシア専攻していた縁で顔見知り。私の曾祖母がカンテミール家の令嬢だと判明。お互いの望みが一致、私は総領事の娘になった。


「なんでリチャードは、私を殺したん? 執着されてるのはわかってたし、ヤンデレやからヘタに刺激せえへんようにしてたのに」

「いとさんと俺、特に仕事の話はロシア語で会話してたやろ? あいつはそれに嫉妬して、殺してしまえば自分だけのもんになると思ったんやて」


「私に執着した挙げ句の果てに殺すとか。今、あの男が目の前にいてたらブン殴りたいわ」

「わかる」


「さっき、何人かは会えるって言うてたけど、まさか私の後追いで自殺した、とか?」

「ちゃうちゃう。あいつの件が片付いた後に、お姉やヴィンセントも含め、俺が前世の話をしたんや。そしたら、『お前ひとりで守ろうとして失敗したんだから、次は皆で守ろう。いとさんと仲良くなりたいし、この世界に未練もない。来世が安全で幸せとは限らないけど、皆が一緒ならなんとかなるだろ』って」


「それって私のせいちゃう?」

「ちゃう、俺のせいや。俺が巡り合いたいと願い、数千年バドエン繰り返した。皆も、きっちり後継ぎやら済ませてから、女神様がこの世界に生まれ変わらせた。やから名前やら年齢はちゃうし、それぞれ立場もちゃう。人生色々あるけど俺の知る限り、不幸にはなってへん」

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