破滅ルート確定の悪役貴族ですが、なぜかヒロインがヤンデレ化します

真冬のスイカ

第1話 気づいたらゲーム内最悪の貴族でした

 ――俺はその日まで、ただの社畜サラリーマンだった。

 残業からヘトヘトで帰宅し、寝る間も惜しんでプレイしていたのは高難度のファンタジーRPG『ソード・オブ・ウルティマ』。


「もう少し、あと一撃……よっしゃ、ラスボス撃破ッ!」


 テレビ画面に映る「CONGRATULATIONS!」の文字。やっとだ。長かった。隠しシナリオまでコンプリートしたし、これで完全制覇達成だ。嬉しさと同時に猛烈な眠気が襲ってきて、俺はそのままソファに倒れ込む。

 しかし次に目を開けた瞬間――見知らぬ世界だった。


 まばゆいシャンデリアに、金色の装飾が施された高価そうな調度品。しかも鏡を覗き込めば、そこに映ったのは俺の顔じゃなくて、銀髪碧眼の美貌を湛えた青年だった。


「う、嘘……もしかして、俺がイケメンになってる? ――じゃなくて、こいつは!」


 驚いた俺は部屋を見回す。ここ、どう見てもファンタジー風の貴族の寝室だ。そして記憶がぐるぐると混ざり合う中で気づく。


「まさか……俺、ヴィクトルに転生しちまったのかよ……!」


 ヴィクトル。『ソード・オブ・ウルティマ』内でも随一の最悪の悪役貴族。高慢な性格に加え、勇者やヒロインに嫌がらせを繰り返しては斬られるか、処刑されるかの二択という報われなさぶりが逆に有名だったキャラだ。


 その本人が、今の俺。どうしてこうなった。いや、ここで落ち込んでも仕方ない。例え誰に生まれ変わろうが、現状を把握して危機を回避しなければならない。


「……とりあえず、ヴィクトルって断罪ルート確定じゃなかったか? 処刑ENDを味わうのだけは勘弁してくれよ!」


 ゲーム内の記憶によると、王族とのゴタゴタや領民への圧政、挙げ句の果てに勇者との決闘に敗れ、華々しく散るのがヴィクトルのお決まりコース。


 なんとかして、そいつを回避しないと。


 そもそもゲームの主人公(勇者)をめちゃくちゃやり込んでいた俺なら、この世界のイベントや裏設定をある程度は把握できるはずだ。まだ諦めるには早い。とにかく今は、ヴィクトルの悪評をなんとか改善しなくちゃ。


 そう決心した矢先、部屋の扉がノックされる音がした。


「ヴィクトル様、本日はもうお目覚めでしょうか? 失礼いたします……」


 入ってきたのは小柄なメイド服の少女。ゲーム中で見覚えのある姿――マリアという名のヴィクトル専属メイドだ。原作での彼女は、主人のあまりの自己中心ぶりに嫌気が差し……。


(うわ……この子に冷たく接してたら、間違いなく裏切られるヤツだ)


 そう悟った瞬間、俺は笑顔を作って声をかけた。


「おはよう、マリア。いつも世話をしてくれてありがとう。君のおかげで助かってるよ」


 するとマリアは目を丸くし、ぽかんと固まる。


「え……? ……その……ヴィクトル様が、わたくしにお礼を……?」


 顔が赤くなり、目が泳いでいる。おそらくいつものヴィクトルは、貴族様オーラ全開で威圧しかしてこなかったんだろう。


「メイドだからって遠慮はいらないよ。これからも力を貸してくれると嬉しい」


 さらに追い打ちのように微笑みかけると、マリアは小動物のようにビクッと反応したあと、目に涙を浮かべながら深々と頭を下げた。


「は、はいっ! 何かございましたら何なりと……わたくし、全力でお仕えいたします!」


 そう言うやいなや、バタバタと慌てて部屋を出ていった。どうやら朝の支度をし直すために急いでいるらしい。


「ふぅ……。とりあえず第一関門は越えたか」


 ゲームのヴィクトルが日頃から暴言ばかり吐いていた分、そのギャップだけでもしばらくは効果的だろう。

 ゲーム知識を活かして考えると、俺をよく思わない連中もいるし、イベント次第では味方になってくれる人材だっている。何より、勇者や王女との関わり方を間違えれば一発アウト。


「さて……破滅エンドは何としても回避して、生き残るしかないよな……!」


 俺はそう呟き、鏡に映るイケメン悪役貴族の顔を見据えた。ここまで来たら開き直るしかない。この身体で、この世界で、俺は幸せを掴み取るんだ。


 やがてマリアが戻ってきて、控えめな笑みを浮かべながら言う。


「ヴィクトル様、着替えの準備ができました。今日も……とても素敵でいらっしゃいますね」


 嬉しそうにも見えるが、少し視線が熱っぽいような? いやいや、考えすぎだろう。

 何はともあれ、今日から始まるのは悪役としての第二の人生。俺は大きく深呼吸し、固く拳を握りしめる。


「……よし、それじゃあ破滅フラグ折りまくりの大作戦、スタートだ!」


 ――こうして俺の波乱万丈な転生生活が幕を開けたのだが、この先に待ち受けるのは王道RPGのイベントとはまるで違う、超絶スリルな日々だった。

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