第四話 顔合わせ

 6つ目の椅子に座り荷物を足元に置くと、グランツは今回集まったメンバーへと視線を動かしていく。


 まず1人目、グランツから向かって右隣。


 グランツよりも身長、肉体は一回り大きく、血のように濃い赤肌を持つ……亜人の一種、オーガの男。

 男は背もたれに体を預け、坊主頭を小刻みに揺らし、目を深く閉じて昼寝をしている。

 ツラは寝ていても分かる程に風格があり、所々古傷のようなものがあったりした。


 次に2人目、オーガの右隣。


 長袖の服を着た焦げ茶色のベリーショートの女。

 ラフな服を着た彼女は片手をポケットに入れ、他の面々を観察している。

 戦闘経験豊富なのだろう、切れ長なシャープな目で周りを観察しながら、持っていた水筒を口に持っていった。


 彼女の右隣の3人目もまた観察をしている最中だ。


 ブロンズの髪を丸めのフェードカットにしたエルフの男だ。

 細く引き締まった顔つき、スラッとした高身長のスタイル。無駄の無いシャープなデザインのメガネ。

 綺麗な長耳を除けば、どれ一つとってもインテリの英国人を十二分に想起させる。

 エルフの男は冷たい目線を向けながら物色、時たま嘲笑を隠すよう静かに鼻息を鳴らした。


 4人目、エルフの右隣。


 中肉中背、黒髪をパーマにした日系の男。

 深緑のコートを着た彼は、疲れ切ったような目でずっと地面を見つめている。

 そして時たま視線を上げ、悪くはないが少々間抜けそうなツラを晒していた。


 最後に5人目、日系の男の右隣、そしてグランツの左隣。


 見た目年齢だと5人の中で一番若い、まだ十代後半の青臭さが残る褐色肌の男。

 身長は180cm前半、髪型は逆立ったまま少しボサつき、目は常に眠気をはらんでいるように見える。

 しかしながら、その目からは恐ろしくギラついた殺意が見え隠れしていた。


 それ以外は壁際で睨みつけたままの軍人だけだ。

 どいつもこいつも遠くからでも分かる程緊張感が溢れている。

 誰も喋らず、何もアクションを起こさず、ただただジッと見つめるが、銃を離す気配は無い。


 グランツ含めた六人もまた言葉を発さず、ある者は寝て、ある者は威嚇もしくは牽制、ある者は物思いに更けたまま。

 この無音の時間が永遠に続くかと思われた瞬間……向こうからドアが開く音が喧しく鳴った。


「「「「「……」」」」」


 音の方へと一斉に振り向くグランツ達。

 唯一オーガの男だけが「んぁあ……?」と間の抜けた声を上げ、起床し始めていた。

 そんな中音が鳴った方から二人、何者かが歩いて来るのが見えた。


 一人は簡潔に言えば、様々な血が混じったハーフのような男だ。


 メタ的に言えばマーク・ダカスコスだとかその系譜だろうか。

 日本、中国、アメリカ、マレーシア、アイルランド、他にも様々な血が混ざり合ったような顔付きの男だ。

 そんなハーフの男は無精髭を貯え、黒髪はオールバックに。

 色褪せた青のウエスタンシャツはさも当然の如くボタンを外したまま。

 傷だらけの肌着越しでも分かる程引き締まった肉体をさらけ出していた。


 もう一人はエル・パッソの軍人だ。


 褐色肌で引き締まった顔付き、目には光が無く髪は茶の短髪。

 軍服は壁側にいる奴らと同じだが、肉体は彼等よりも遥かに鍛えられているように思える。

 軍人の男は神妙な顔付きで六人とハーフの男を遠巻きに見つめ続けていた。

 一方、ハーフの男は冷え切った目で六人をそして次に自身の手に持ったリストを見つめる。

 そしてエルフの男の方へと視線を向け、


「マクスウェル」


 突然彼の名を呼んだ。


 エルフの男……マクスウェルが見定めるような目を解かない中、男は次にベリーショートの女へ視線を移す。


「リドゥナ」


 ベリーショートの女……リドゥナもまた仲間を見定めている最中だが、ハーフの男は気にせず日系の男の方を向けた。


「スミタニ」


 日系の男……スミタニが声に導かれるように間抜け面を晒す中、次に若いギラついた目の男へと目を向ける。


「フォーサ」


 ギラついた目の男……フォーサは目をよりギラつかせ、ニロへと静かに牽制し始める。

 そんなフォーサを尻目に彼が次に視線を向けたのはオーガの男だ。


「リッキー」


 オーガの男……リッキーは「どうも」と笑顔で言いながら周りの奴らへと手を振る。

 やっと意識が覚醒したみたいだ。目からは微睡まどろみが消え失せていた。

 そんな彼を尻目にハーフの男は最後の一人、グランツへと視線を向けた。


「グランツ」


 グランツはぶっきらぼうに頭だけでお辞儀するが、オーガ以外誰も反応を示さない。


「全員いるな」


 六人の名前を呼び終えると、ハーフの男は少しドスの効いた声で念を押すように確認。


「遠い所からよく来てくれて感謝するよ……まぁラクにしてくれ」


 黒板の前に移動しながらも、感謝とは程遠い声色で六人の来訪を祝う。


「事前に伝えた通りリストにあった人物を殺すのが任務だ。成功時には前金の2倍を報酬として渡そう」


 そして黒板に張られた写真をコンコンと叩きながら説明。簡潔に任務の全貌を伝えると、


「俺はニロ、普段は情報屋だが、今回の任務ではコーディネーターを務めることになっている」


 自らの体を指差し、自身の名前が「ニロ」であることを伝えた。

 ハーフの男……ニロは胸ポケットから何かを取り出し、机の上に投げ捨てる。

 なんてことの無い数枚のメモ用紙と数本のペンだ。


「簡単に言えば現地調達だ、そこのメモに必要な物を書いてくれ、今夜には届く」


 グランツは手早く紙を手に取ると、各々多種多様な武器や装備、必需品等々をリストに書き連ね始めた。


「では、早速で悪いが今夜ある任務を遂行してもらう、書きながらでいいから聞いてくれ」


 ……場内では不可視の殺気が充満仕切っている。

 壁際の兵士は恐怖によって出た汗にまみれ、雇われた者達はピリついた空気が微かに流れる。

 そんな状況下の中、一同は最初の任務の準備へと取り掛かろうとしていた。

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