◆福島
俺はやり過ぎたようで、停学処分を食らった。またこういうことが起きたら、退学処分にすると生徒指導担当の厳つい体育教師に随分どやされた。でも何度内容を思い出しても、やり過ぎたとは感じていない。むしろ全然足りないと思っている。
「タケル普通じゃないよ」
ドリンクバーのコーラを飲みながら、福島がそう言って切れ長の両眼を一層細めた。
「アイツは俺に言ってはならないことを言ったんだ。殺さないと損得勘定が合わない」
「やめときなよ。あんな奴殺して、少年院に行く価値はないよ。それに、停学したらファミレス代が勿体ないじゃない」
「福島はさ、何で俺を見捨てねえの? 屋上メンバーはきっともう俺のことを敵視してるだろ?」
「そうでもないんだよこれが。タケルにやられたアイツ、屋上でも孤立してたからね」
俺は少し気まずい気分になった。孤立してない奴を俺が殴ったら福島に見捨てられていたのだろうか。
「福島はさ、ダイエットでもしてんの? カロリーゼロより普通のコーラの方がうまくない?」
俺はアイスコーヒーをストローで飲みながら言った。
「タケルって男らしくてカッコいい名前なのに、色々と女々しいね~。名は体を表さないんだなオイ。私のこれは、う~ん、ダイエットっちゃダイエットなのかな~?」
「なんだよそれ、意味わかんねえよ。太ってねえのに」
「服で隠してるだけよ。お腹の贅肉とか最近やばくてさ。北斗の拳のハート様だよ。拳法殺しだからね」
「えっ? そうなの?」
「あはは、そんなわけないじゃん。私は十分スレンダーだよ。っていうかスレンダーを超えてシックスパックが出来てるよ。全盛期の、アーノルド・シュワルツネッガーみたいに」
僕はアイスコーヒーを吹き出しそうになった。しかも此奴、北斗・ターミネーター世代じゃないだろう。いや、俺もだけど。
「絶対嘘だ。あとホントだとしてもスレンダーを超えたとか自分で言うか?」
「努力の賜物は自慢してもいいんだよ。見てみたい? 私のシックスパック」
俺は唾を飲んだ。女の体には興味あるけど、それは断じて福島の様な遊び人風、悪い言い方をするとビッチ風の女の体ではない。大和撫子の穢れのない体にはとても興味がある。いや、福島の体が穢れていると言いたいわけでもないんだけど……なんでこんなこと俺が考えてるんだろ、あほらし。
「何露出狂みたいなこと言い始めるんだよ。福島ってさ、一年留年したとか、最初遭ったときはすげーネガティブなこと言ってたような記憶あるけど、何か余裕あるよね? なんで?」
「なんだよ。均整な女の体に興味がない年齢じゃないだろう。ふふ、余裕のわけは、いつか教えてあげるよ。停学中、タケルはどうすんの? 正直もう学校が暇で暇で、干からびそうなんだけど私」
「福島の背中のチャック開けたら小さいおっさんが出てきそうだな。つーか暇だと干からびるのか? 背中のおっさんが屋上の日光で干からびるのか?」
「それは語感で察しなさい。馬鹿。あとオッサンが入ってるのは背中じゃなくてうなじだから。私はそれを駆逐されないように大切に育ててるの、たまごっちみたいに」
……こいつたまごっちのこと絶対分かってないわ。
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