Air/まごころを、君に編その5 くんま水車の里  THE END OF 『2025 人類乗車計画』になるはずだったもの

「これで最後のポイントだね。秋、ナビに登録して」

 竜ヶ岩洞で楽しんだ3人は、いよいよ最後のコラボパネルのポイントである『くんま水車の里』へと向かう事にした。名称からしてド田舎だとわかる場所、いや本当に田舎の方になるのだ。普段、普通の生活をしているなら、まず訪れる事はないような、そんな所だ。お洒落さとは無縁な場所ではあるが、長閑な景色は、仕事の事など考えず、何も考えずに癒されたいと思うならば、絶好の場所ではある。まぁそういう所だ。見どころは、現役で使用している水車。そして清らかな水が流れる阿多古川。地元の『かあさん』たちが作る料理も素朴なものばかりだという。女性陣は楽しんでもらえるかなぁと心配する。


(こういう所は、義妹が喜びそうだな。流石に一緒に行く機会は無いだろうけれど)

 冬馬は、『シン・ハママツ計画』の情報を提供してくれた義妹の事を思い浮かべていた。こういう長閑な風景や、昔からの佇まいを残しているような民家とか好きだって言ってたからなぁ。かくゆう冬馬も、そういったものには興味は持っている。だから結構楽しみだったりする。


「入力出来たよ。結構、距離はあるね。でも最短ルートで検索したから、それ程長時間にはならないと思うよ」

 秋葉さんは名称を入力してナビで検索、案内を開始した。その時には、その後に起こる悲劇の事など微塵にも思ってはいなかった。いや、前兆はあった。到着予定時間がまるでエラーでも起きたんじゃないかっていう長時間になっていた事。『何かおかしいね』とは言ってみたが、 誰もそれ以上は気にはしなかった。まさかそれが、『地獄へドライブ』の前奏曲プレリュードだったとは、だれが想像するのであろうか?


「本当に周りに何もないような所ね。暫く続くのかしら」

 夏子は周りの景色の代り映えのなさに辟易していた。最初は集落も見えていたが、次第に普通の集落さえも見えなくなっていった。周りは木々ばかり也。

「まるでスキー場に向かう時みたいだね。こういったルートは慣れているけれど、気は使うね」

 運転手の秋葉さんは、シーズン時には自分で車を運転してスキー場に向かう様な猛者だ。山道のルートはお手のものだったりする。こういう時には本当に頼りになる存在だ。それにしても……、

「この山道は何だよ。本当にここは政令指定都市なのか?」

 冬馬がそう思うのも無理はない。いつの間にか一車線になっていて、まだガードレールはあるが、カーブばかりの山道ルート。勿論、スピードは出せないし、狭い道幅なのに対向車が来る場合もある。言い方は悪いがド田舎なので、滅多に対向車と鉢合わせはないが、もし出会ってしまった場合は、お互いにすれ違うのに苦労をする事になる。山道に慣れているはずの秋葉さんさえ、ちょっと苦労をしている。カーブばかりだし休憩するような所もないので、一気に山道を抜けないといけない。皆、口数も少なくなってくる。


 気が付いたらガードレールさえも無くなっている。車1台がやっと通れるくらいの狭い道路、見渡す限り生えている木々。こんな所で道を踏み外したら一巻の終わりだ。ナビは何てルートを案内するんだと冬馬は憤慨する。いつもだったら、夏子の茶々が入るはずだが、何の反応もない。おかしいと思って夏子の方を見ると、夏子の顔色が悪く、ぐったりしているようだ。

「夏子、大丈夫か?気持ち悪いのか?」

「ゴメン、あんまり大丈夫じゃないみたい」

 どうやら夏子は、今日なカーブの連続で車に酔ってしまったらしい。秋葉さんは、車を止める事の出来るスペースを見つける。対向車が来ても大丈夫な場所だ。

「夏、大丈夫?吐きそうなの?」

「…………、気持ち悪い」

 夏子は車から降り、草むらを捜し急いで移動した。夏子の苦しそうな声が聞こえるようだ。


(しばらくお待ちください)


「夏子、車出して大丈夫?」

「多分。悪いけど後ろの席で寝させて」

 冬馬も夏子の事が心配だったが、持っていたミネラルウォーターを飲ませるぐらいしか出来なかった。到着までまだ距離はある。いつまでもここにいるわけにはいかないので、秋葉さんは運転を再開した。夏子は、かなりリバースしていたみたいだけど、本当に大丈夫だろうか?再びカーブが続く、狭い山道のような道路を進んでいく。


「…………」

 冬馬は、夏子の友人である秋葉とは、じっくりと話した事はない。何を話したらいいのか、正直迷っている。でも運転に集中している秋葉さんを邪魔したくはなかった。スピードを出したら転落しかねないような、そんな悪条件の道路だ。


「あの、北野さん……」

 くねくねする道をようやく超えたような感じがした頃、秋葉さんが話しかけてきた。

「夏の事、見捨てないでくださいね」

「秋葉さんは、夏子の事を大事にしているんだね」

「夏だけは、孤立していた私を見捨てないでくれたから。大事な友達だよ」


 それから秋葉さんは、高校時代の夏子との事を少しだけ話してくれた。秋葉さんは、極度のブラコンであり、兄の事が大好きだった。それがあまりにも度が過ぎていたようで、次第に周囲から孤立する事になったのだった。誰もが余所余所しい態度をとる中、夏子だけが普通に接してくれたのだった。もっとも夏子も、ちょっとしたすれ違いがあり、周囲から相手にされないような状態だったみたいだが。そんな苦い思い出だったが、秋葉さんは躊躇なく話してくれた。もう吹っ切れたのだろう。


 長く苦しい山道は、いつの間にか抜けていて、道路も広くなっていた。ぼちぼちと民家も見えてきた。そしてようやく道の駅である『くんま水車の里』へと到着した。少し離れれば、綺麗なせせらぎも見えてくるようだ。長閑で空気が美味しい、田舎ながらもいい所だ。しかしながら……、


「……ゴメン、まだ気持ち悪い。外に出たくない」

 夏子はまだダウンしたままだった。本来なら、ここで地元ならではの田舎料理を堪能するつもりだったが、夏子がこんな状態だし、長居は出来ないと判断して、スタンプを押し、コラボパネルを撮影してこの場を去る事にした。因みにコラボパネルは、唯一の顔出し式の少し他のよりも大きいパネルだった。夏子に顔を出してもらって撮影を希望したが、却下された。まぁ当然かもしれないが。 

 楽しみにしていた素朴な料理は、残念ながら楽しむ事は出来なかった。またいつか、リベンジしに行ければと願い、この地を後にした。冬馬は気になっていたジビエのカレー(鹿の肉を使ったカレー)を買っただけだった。


 これで全てのコラボパネルの撮影に成功した。完走したとしても何も貰えるというわけでもないが。でも自己満足は出来た。滅多に行く事もない所もポイントにはあり、今まで気が付かなかった浜松の魅力を知る事が出来たのは、よい収穫だったと思う。勿論、全国でも面積は上位となる浜松市には、まだまだ魅力的な場所が無数にある。また機会があれば、浜松の色々な地域を尋ねていきたい。冬馬はそう思うのだった。



 ○○○○


 本来なら、夏子の『気持ち悪い』で連載を終了するはずでしたが、イベント後半戦で詳細が発表された『浜松エヴァグルメミッション』、そしてまさかのコラボパネル追加の発表があり、もう数話追加することにしました。もう暫くお付き合いしてもらえればと思います。


『くんま水車の里』は、一応行ってきたのですが、諸事情によりゆっくり出来ず、美味しい料理や長閑な風景は堪能出来ませんでした。いつかリベンジに行きたいのですが、かなり距離がありますので、おいそれと出かけられないんですよね。売店もちらっとしか見れませんでしたが、地元ならではの商品に満ち溢れていました。


 https://kunma.jp/


 文中でも出て来たカーブだらけの山道のような田舎道ですが、これは県道47号線です。一応最短での距離になりますが、はっきりいって避けた方がいいですね。(HPでも通らない方が良いとの記載があります)しかしながらナビではこっちを案内されたりします。ナビとかAIは効率しか見ませんので、この辺りが便利さを優先した時の落とし穴かと思います。

 どんな感じの道か知りたい人は、こういった特徴のある道路の風景をあげている人も多々いますので、参考にしてみてください。険道けんどうとか酷道こくどうとか揶揄されています。


 https://www.youtube.com/watch?v=rVSY3OvlXeY&t=597s


ダイジェスト的なものはこちらで


 https://www.youtube.com/watch?v=WzaI_Z5zut4


 余談ですが、くんまの正式な地名表記は『熊』だったりします。『くんま』が地元の人が使う俗称です。まぁ『熊の里』だったら誰も行きたがらないですからね。なお、天竜には『月まで3キロ』の標識、そして書籍で知られる『月』という地名もありますね。

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