第25話 時計塔の秘密 第2弾(中編)

 ノアは階段を一歩ずつ降りながら、周囲を慎重に観察した。

 地下へと続く階段は、何年も使われていなかったのか、湿った空気と古びた石の匂いが漂っている。


「にゃ〜……ここ、なんかイヤな感じがするにゃ」


 ラムが耳をぴくぴくと動かしながら、小さな声でつぶやく。


「確かに、何かがいる気配がするな」


 ノアも警戒しながら歩を進める。


 やがて階段の先に、鉄製の重厚な扉が現れた。


「こんな地下に部屋が……?」


 ノアは扉を調べる。錆びついているが、完全に閉ざされているわけではない。ゆっくりと押すと、重々しい音を立てながら開いた。


 中に足を踏み入れた瞬間——


 カチン。


 小さな音とともに、部屋の奥にある燭台が一斉に灯った。


「にゃっ!? 勝手に明かりが……!」


 ラムが目を丸くする。


 ノアは冷静に部屋を見渡した。

 円形の部屋の中央には、古びた石台が置かれ、その上には何かを記した古文書が広げられていた。


「これは……?」


 ノアはそっとページをめくる。


 『時間を司る者たちの記録』


 表紙にはそう書かれていた。


「やっぱり……この時計塔は、普通の建物じゃない」


 ノアは慎重に内容を読み進める。


『この時計塔は、かつて“時間を司る者たち”の集う神殿だった。』


『彼らは、過去・現在・未来を見通す力を持ち、その知識を記録していた。』


『しかし、ある時、この力を狙う者たちが現れ、時計塔の扉は封じられた——』


「にゃ……ってことは、ここはただの時計塔じゃなくて、もっと重要な場所だったってことにゃ?」


 ラムが首をかしげる。


「そうだな。もともとは“時間”に関する何かを管理していた場所らしい」


 ノアはページをめくり続ける。


『鍵を持つ者が最後の鐘を鳴らす時——』


『時間の記録が解き放たれる』


「鍵……?」


 ノアはポケットの中の錆びた鍵を取り出した。


「この鍵のことか?」


 彼が呟いたその瞬間——


 ゴーン……!


 突然、塔の鐘が鳴り響いた。


「にゃあああ!? 今度は誰もいないのに鳴ったにゃ!!」


 ラムが毛を逆立てる。


 同時に、部屋の奥にあった大時計の針が急速に動き始めた。


「なっ……!」


 ノアが身構える。


 すると、時計の文字盤に浮かび上がるように、ある光景が映し出された。


 それは、この時計塔が建てられた頃の映像だった。

 黒いローブをまとった人々が、時計塔の鐘の下で何かの儀式を行っている。

 その中心には、一人の男が立っていた。


『時間の記録を守る者として、ここに契約を交わす——』


「にゃ……なんか始まったにゃ……」


 ラムが息を呑む。


 ノアは冷静にその映像を見つめた。


「これは……過去の記録か?」


 彼がそう呟いた瞬間、映像が急に乱れ、別の光景へと切り替わった。


 今度は、時計塔が崩れかけた姿が映し出されている。

 黒い影のような存在が塔の中へ侵入し、次々と人々を消し去っていく。


『……この力を封印しなければならない』


『鐘を止めろ……! さもなくば……』


 最後の声が途切れた瞬間——


 ゴンッ……!


 塔全体が微かに揺れた。


「にゃにゃっ!? な、なんかヤバい感じがするにゃ!」


 ラムがノアの腕をぎゅっと掴む。


「この時計塔は……何かの封印を施された場所だったのかもしれないな」


 ノアは視線を鋭くし、古文書の最後のページを開く。


『時の鍵を持つ者よ、選択せよ——』

『封印を解き、記録を取り戻すか——』

『このまま永遠に閉ざされたままとするか——』


 ノアはその文をじっと見つめ、ゆっくりと息を吐いた。


「……選択、か」


 彼は手の中の錆びた鍵を握りしめる。


「ノア、どうするにゃ……?」


 ラムが不安げに彼を見上げた。


 その時——


 ゴゴゴ……!


 部屋の壁の一部が再び動き、奥に続く扉が現れた。


「にゃ!? ま、また何か出てきたにゃ!」


 ノアはゆっくりとその扉の前に立つ。


「どうやら……ここが、最後の場所らしいな」


 彼は扉に手をかけた——。



 (後編へ続く。)



次回:「時計塔の秘密(後編)」


選択の時——封印を解くのか、それとも……? ノアの決断が時計塔の運命を左右する!

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