歪んだ愛とその結末の話
ぶいさん
第1話 肺
私は50代の男だ。妻にはとっくに愛想を尽かされて出て行かれ、今は14歳の最愛の娘と二人で暮らしている。娘は私を「パパ」と呼ぶ。その声は、私にとってこの世で一番甘く、温かい響きだ。彼女は私のすべてであり、私の生きる理由そのものだ。でも、娘には普通の愛情表現とは違う一面がある。
彼女は愛を、暴力を通してしか伝えられない性質を持っている。私の体中に刻まれた無数の傷跡、それはすべて娘の手によるものだ。鋭い刃物で切りつけられたり、拳で殴られたり、時には熱したもので焼かれたり。それでも、私は彼女を責めない。彼女がそうやって私に触れるたび、それが彼女なりの愛だと分かっているからだ。
娘の暴力は、私にとって彼女の存在を確かめる唯一の方法だ。彼女が私を傷つけるたび、私の体に彼女の痕跡が残る。それが私には誇らしいんだ。彼女が私を必要としている証拠だから。私の体はもうボロボロだ。
かつては男としての機能を失い、象徴的なものは娘に捧げてしまった。痛みは耐え難いものだったが、それでも彼女が満足そうに私を見下ろす顔を見ると、心が満たされた。
彼女が求めるなら、私は何だって差し出すつもりだ。心も、体も、内臓さえも。彼女が生きるためなら、私の命だって惜しくない。
そして今日、私はまた一つ、彼女に捧げるものを選んだ。
片方の肺だ。
今度は、彼女の手で切り取られるような無秩序なものじゃなく、ちゃんと病院で手術を受けた。医者には「こんな決断をするなんて正気か」と言われたよ。でも、私にはこれが正しい道なんだ。娘が求めるなら、私の体の一部を捧げることに何の迷いもない。
手術は無事に終わった。病院のベッドで目を覚ました時、娘が私の手を握って「パパ、大丈夫?」って心配そうに聞いてきた。その声に、私は弱々しく微笑んで、「大丈夫だよ、パパは嬉しいよ」って答えた。麻酔の効いた体はまだ重かったけど、胸の痛みさえ娘への愛で和らいでいく気がした。
医者からは予後もいいと言われている。片肺でも生活はできるし、リハビリをすればまた娘と一緒に穏やかな日々を過ごせるだろうって。私は息を整えながら思う。娘のために生き続けることが、私の幸せなんだって。
娘は手術の後、私のそばにいてくれることが増えた。時々、私の傷だらけの体をじっと見て、「パパは私のものだよね?」って聞いてくる。そのたびに私は頷いて、「そうだよ、パパは全部お前のものだ」って返す。彼女が小さく笑うと、私の心は安堵でいっぱいになる。彼女が私を傷つけることはもう減ったかもしれない。病院での出来事が、彼女に何かを感じさせたのかもしれない。でも、もし彼女がまた私に手を上げる日が来ても、私はそれを拒まないよ。彼女の愛をどんな形であれ受け止めるのが、私の生き方だから。
妻がいなくなったあの日から、私は娘だけを見て生きてきた。彼女がそばにいて、「パパ」と呼んでくれるだけで、私には十分だ。体はボロボロでも、心は彼女で満たされている。
予後がいいと言われた今、私は少しだけ未来を考える。娘と一緒に過ごす時間がまだあるなら、それだけでいい。彼女が求めるなら、私の残りのすべてだって捧げるつもりだ。私の命は、娘のためにある。それが私の幸せだよ。
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