第二十三話「外部調査」

 体育館を出ると、青空が広がっていた。

 雲は流れていないし、鳥の囀りも聞こえない。


 こんなにも明るい時間に、外で時間が止まっているのを見るのは久しぶりだ。

 夜よりもずっと、不気味に感じられる光景だった。


「外も止まってるんだな。誰も体育館に入ってこないから期待はしてなかったけど」

「まあ、時間が流れてたら、もう軽音部の出番始まってる頃だしね」


 軽音部のライブが楽しみだと、志保があれだけ騒いでいたから覚えていた。

 演劇が終わった後、一緒に残るように誘われたのだ。

 いや、もはや半強制だった。


 好きなバンドのコピーバンドが出演するとか言っていたけど、

 正直、バンド名は覚えていない。


「どこもかしこも止まってるっぽいけど、一応見ておくか」

「そうだね。どこから回ろっか?」

「せっかく外に出たから、出店の方行ってみよ」


 体育館から出てすぐ、グラウンドが広がっている。

 その横の通りが出店エリアだった。


 焼きドーナツ、たい焼き、クレープ、ポテトフライ、たこ焼きなど、

 美味しそうな看板がずらりと並ぶ。


 どこも人で賑わっている……というか、賑わっていた。

 みんな、食べ物を手に持ったまま、固まっている。


 たこ焼きにソースをかけようとしている人、

 焼きドーナツの袋を開けようとしている人、

 会計をしようとしている人。


「予想通りだったけど、ここもダメだね」

「だな。みんな、カチコチに固まっちゃって……あ」


 碧が出店に来ていたお客さんを指差す。


「ん? どうしたの?」

「ほら、スマホ。俺ら試してないだろ?」


 ——そっか、そうだよね。


 普通、こういう状況ならスマホで連絡を試みるよね。

 完全に経験者の動きをしてしまった。


 残念ながらタップしても何も起こらないことを、わたしは知っている。


「リュックの中に入れてて……あったあった」


 碧はスマホを取り出し、電源ボタンを押す。


「あれ、つかねえな」


 ——ですよね。


 わたしはバッグから自分のスマホを取り出す。


「雫のはどう?」


 色々と触っているフリをして、

 関係のないボタンまで押してから首を横に振った。


「わたしのもダメみたい」

「ダメかー……。スマホ見て思ったんだけどさ、何かの装置が時間を止めている可能性ってない?」

「装置?」

「そう。なんか、時間停止装置的なやつ」

「装置ねー……でも、それを使うなら、その人は動けないと意味ないよね?」

「あ、そっか。じゃあ、装置があると仮定すると、俺か雫が装置を隠し持っている可能性が濃厚になってくるわけか」

「そうなるね」


 まさか、装置の可能性を考えるとは。

 碧、なかなか鋭い。


「なんでそんなに装置推しなの?」

「ほら、脚本で記憶を没収する球体が出てきたじゃん? で、その演劇中に時間が止まったと。そうすると……何か因果関係があるんじゃないかと思うのは自然だろ?」


 装置じゃなくて能力なら、その推理は正解に等しい。


「そんな偶然あるわけないってー」

「可能性は捨て切れないだろ?」

「ま、まあそうだけどさ」


 わたしは曖昧に笑いながらペンを回す。


「でも結局、探し回るしか選択肢はないんだけどな。何もないし、室内に行きますか」


 碧はそう言って、先陣を切って歩き出した。


 小走りで距離を縮め、隣に並ぶ。


「碧は文化祭どこ回るつもりだったの?」

「他のスケジュールも全く見てなかった。大人しく部室に行こうかと」

「えー、文化祭ってもっと『青春!』みたいな感じじゃないの?」

「去年、雫は来れなかったもんな。『青春!』とか言ってるの、先生たちだけだって」


 わたしは細目になって碧を睨みつける。


「単に碧が青春とかどうでもいいって思ってるからじゃないの?」

「お、俺だって『青春したいなー』とか、思うこと、あるし」

「おっ、言ったなー。なになに、どんな青春がしたいの?」


 わたしは碧の横腹をツンツンと指で突く。


「いてっ。雫には、教えま、せん!」

「えー、いいじゃん。教えてよー」


 いじりがいがあって可愛い。

 あと、普通に碧にとっての青春とか気になるじゃん。


「ねえ、碧、教え……」



 ——碧が消えた。



 たった今まで隣にいたはずの碧が、そこにはいなかった。


「碧?」


 手を伸ばす。


「ねえ、碧って……」


 声が震える。


 碧はさっきまで隣にいてわたしと他愛もない会話をしていた。

 あの時間は間違いなく、確かに存在していた。

 わたしの作り出した幻想なんかじゃない。


「……降参! わたしの負け!」


 両手を上げながら放った言葉は、空を切った。


 ——どうなってるの。


 碧は消えた。


 時間も戻らない。


 時間が止まった世界の中で、わたしは一人になった。

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