第9話 ◇真樹夫 マッキー
真樹夫は、いつもつたない話に耳を傾けてくれる三浦くんのことが大好きで、
彼のお陰で真樹夫はとってもお話好きな男の子になった。
ずっと院内の託児所に預けてたんだけど、最後の1年は少し送迎が
きつかったため、地元の公立の幼稚園に変えた。
小学校に上がる時に友達がひとりもいない状態でっていうのは
真樹夫が可哀想だと思ったから。
幼稚園に通うようになってみると、イベントにはかならずと
いっていいほど、夫婦でみんな参加するのよね。マイッタ!
だけど私の心配をよそに、真樹夫は父親のことを一切口にしない。
もうすぐ運動会があるんだけれど、どうやら仲良しの三浦くん
が応援に駆けつけてくれることになってるらしい。
このことは最初に三浦くんから聞き、そのあとでうれしそうに
真樹夫から聞いた。
真樹夫がやたらと嬉しげなのは分かるが……。
私までもが少しほっとしている自分の気持ちに気付いて、
えっ、エッーっと、戸惑っている。
私自身も夫のいない自分がそういう場に母ひとり息子ひとりで
立つことに、何気に怖気てたのかもぉ~とか、気付かされてしまった。
どこまで彼に甘えてもいいのか線引きのことも考えなきゃだけど、
真樹夫のうれしそうな姿を見ると、そんなふうな考えも、ぽわんと
風船みたいにどこかへスルスル~って、飛んでっちゃう。
イカンネェ~!
でも、ひとまず三浦くんに彼女ができるまでは、まぁこのままでいいかなが、
私の下したざっとした線引きだった。
◇ ◇ ◇ ◇
そして──運動会はやってきた。
近隣住民への配慮から、運動会へ行くのに車での乗り入れは禁止されている。
なので弟に送迎を頼んでいた。
三浦くんには我が家まで車で来てもらって、我が家のマンションにある
お客様専用駐車場に車を置いてもらい、私たちと一緒に幼稚園まで向かうことに
してある。
そして、両親にも弟と一緒に我が家に来てもらい、真樹夫の晴れ舞台を
見てもらうことにしている。
運動会の親子で参加するモノに、私の出番はなかった。
三浦くんひとりで奮闘。
父兄に付き添われて竹馬に乗るという種目では、ずっと横で三浦くんに
励まされて一度も地べたに落ちず、三浦くんと一緒にゴール!
よく頑張ったねっていう感じで真樹夫は三浦くんに
抱きかかえられて笑ってる。
両親もその様子を微笑ましそうに笑って見てる。
いいなぁ~って思った。
この一瞬はもう2度と返ってこない時間だけど、返っては
こない一瞬が、最高に幸福な時間で私はしあわせぇ~って思った。
マッキー、よかったね。
楽しい運動会、そして素敵な思い出ができて。
昼食時間になってお弁当を皆で囲むようにして食べていた時、
真樹夫の友達がトトトトってやって来て……。
それは突然だった。
「まっきーのお父さん、すっごく上手だったねぇ? 」
えーっ、そこそこ……そこは地雷なんだってばぁ~
このクソ……ガ○って思ってたら、真樹夫がすかさず言った。
「父さんじゃないよ、俺の(兄)にぃにぃだよ」
「まっきーのにぃにぃ、上手だったねぇ~」
「うんっ、にぃにぃは何でもできるんだぜ……」と得意げ
そして何故か羨ましげに三浦くんを見ている男の子。
その子は三浦くんに話しかけられてもじもじ、うれしそうにしている。
それからなんか、3人で楽しそうに話しだした。
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