第23話 Hの正体

今日も、Hは、ロブ・ノール湖のほとりのテントを、マリーの見送りとともに出る。

Hは、森を抜け、街に入り、いくつか角を曲がり、約一時間かけて、ジャズ喫茶「エクワイア」に到着する。Hは、ドアを入ると、床をモップ掛けしていたシンディーが、長い髪を右手でたくし上げて、Hに言う。

「Hさん、オーナーが、お呼びよ。」


Hは、エクワイアのオーナーのいる2階の事務所のドアをノックして入る。

「お呼びですか。ミセス・ジェリー。」

ミセス・ジェリーは、椅子をくるりと向き直して、Hの方を向いた。

「飽きたわ。こんなことやめましょうよ。あなた。私は、どれだけ、あなたが、帰って来るのを、待ったと思っているのよ。8年間よ。さらに、エクワイアのメンバーたちには、内緒にするなんて。」

「いいじゃないか。君だって、街に、いろんな屋敷を持って、いろんな男と暮らしているではないか。」

「あなた。ヘンリー・スコット・ジュニア。私の旦那さん。」


Hは、息を飲み込んだ。実は、まだ、ジェリーは、深く自分を愛していることに気づいたからだ。ジェリーの瞳はうるんでいる。Hは、ジェリーに駆け寄り、抱きしめた。まだ、愛はあったのだ。

ジェリーは言う。

「あなた、申し訳ございません。私が、浮気をしてしまって、あなたが、怒って、ラクダに乗って、この街、楼蘭を出て、旅に出るというのも仕方ないわ。でも、もう、私は耐えられないわ。だって、いつ帰って来るのかわからない旅だったもの。でも、8年ぶりに、あなたは、ここに帰ってきたわ。再び会って、もう、飛び上がるほど、嬉しかったわ。ヘンリー。」

ミセス・ジェリーは、涙を流し始めた。Hは、きつくミセス・ジェリーを抱きしめる。

エクワイアのメンバーたちは、誰も知らない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る