第16話 コールマンは、宿無し

ジャマイカからやってきたコールマンは、宿無しだった。いつも夜は、道端の木々の下や、ベンチの上、公園や、駅の貨物列車の下で、野宿している。今夜も、コールマンは、エクワイアの勤務が終わるとふらっと、楼蘭の夜の街中へ消えようとしていた。

Hは、何だか、彼がかわいそうに思えてきた。コールマンは、身寄りもなく天涯孤独であるという。彼がどういう経路をたどって、はるばるジャマイカから来た旅の物語は謎だった。Hは、彼を呼び止める。

「どうだ、俺のテントに来ないかい。もしよかったら。」

コールマンは、振り返り、少し驚いて、

「こんな俺でもいいのかい。」と言う。

「いいとも。来いよ。泊めてあげる。」

「金はねえぞ。」

「いいんだよ。俺の好きで言っているのだからね。」

「本当かい。有り難い。では言葉通りについていくよ。」

Hは、コールマンを連れて夜の楼蘭の帰り道を歩いた。雨上がりだったので、道はぬかるんでいた。

「一時間くらい歩いたところのある。ロブ・ノール湖のほとりだ。」

「すまんね。Hさん。」

「妻ではないが女のパートナーがいるけどいいよね。」

「いいよ。名は何というのだい。」

「マリーだ。美しい女だ。」

Hとコールマンは、街を抜け、森の道を並んで歩く。

「この森を抜けると我がテントだ。」

「毎日、大変だな。こんな長い距離を歩くのは。」

「いいや、苦ではないよ。むしろ楽しい。森の中を歩くのはね。鳥のさえずりを聞いたり、小動物を見られるからね。心和むものよ。」

「確かに。今は月が出て静かだけどな。」

「間もなく我がテントだ。ほら、あれだ。」

前方に、明かりのついたテントが見えてくる。

「ただいま。マリー。今晩から、この男も一緒に暮らすことにする。名は、コールマンと言う。同じエクワイアの同僚だ。」

Hは、マリーに言った。マリーは、別に嫌な顔は見せず、すんなり受け入れて、自己紹介をする。コールマンも自己紹介をした。

「わたしは、マリーよ。Hのパートナーだわ。よろしくね。」

「俺は、ジャマイカから来たコールマンと言う。エクワイアに雇ってもらったレゲエミュージシャンだ。よろしく。」

「コールマンさん、だいぶ汚れているわね。Hさんと一緒に、ロブ・ノール湖で体を清めてくるといいわ。」

「そうしよう。ご飯はそれからだ。」

Hとコールマンは、ロブ・ノール湖に行った。

Hは、少しの期間だけコールマンを泊めてやろうと思う。コールマンがエクワイアから報酬が出るまでだ。そのことをマリーに伝えてから、三人は食事にする。食事の後、Hは、コールマンに、コーヒーとタバコをすすめる。コールマンは応じる。しばらく三人はお喋りをする。

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