第20話 異世界文字との格闘
まんぷく亭は、とうに店じまいの時間を迎えていた。
「悪いね、お嬢さん。迷惑かけちゃって」
「お嬢さんなんて、おじさんっぽい言い方止めにしない? オリガでいいわ。あなたは……えっと」
「拓郎だよ」
「そうなのね。じゃあ……タクロウ、今日のところは一晩ぐっすりと寝て、明日また改めて考えたらいいんじゃないかしら」
「見ず知らずの僕に、こんなに親切にしてもらっていいのかい?」
「ううん。構わないわ。困ってる人を放って置けるほど冷たい人間じゃないわ。それに、このことは父さんや、母さんにも伝えてあるか、変に気を使う必要はないから」
「冷たいだなんて、べつにそんな風に思っていないから。それなら、お言葉に甘えさせてもらうことにするよ、ありがとうオリガ」
「そう……? じゃあおやすみなさい、タクロウ。それから、あまり根を詰め過ぎないようにね」
オリガは、そう優しく声をかけ手を降ると、同じ階にあるらしい彼女の自室に向かっていった。
(なんて、いい子なんだぁ……。これじゃあ勘違いしてしまいそうじゃないか? いや、すでに君に首ったけなのは否定しないが)
異世界で初めてできた女友達……ってことでいいんだよな?
兎にも角にも、凡人の僕に起こった奇跡のようなマジックを消化しきれるのは、まだずっと、ずっと、ずぅ~っと先のような気もする。
色々ありすぎて、まだ頭の中で整理がつかない状態でベッドに入ってもすぐに寝付けそうにない。
部屋に入ると、とりあえず備え付けられている机に向かい、年季の入った椅子に腰を下ろした。
「さて、なにから始めよう?」
僕は、泥酔状態でまんぷく亭をあとにしようとするパピルスを呼び止めて、半ば強奪するように貰い受けた『ご贔屓衆監修、姫館御便覧』と、隔日発行らしい『デイリー・キングダム』紙をそれぞれ一部ずつ机の上に並べたてみた。
「とりあえずは、コイツの攻略が最優先事項だろう」
とは言え、難敵とのガチンコで向き合うには、僕がこれまで知り得たデーターのみではあまりにも知識が不足している。
「う~ん、やはり新聞のほうも同じかぁ……」
新聞に書かれている文字も、やはり解読不明な文字の羅列でなんと書かれているのかちんぷんかんぷんだ。
唯一解読できるのが数字だけというのも、実に心もとない。
この国の言語を解する人に読んでもらうのが一番手っ取り早いが、この世界で、仮にも文筆業を生業として行くと決めた以上は、異世界文字の完全解読、そして習得するのはぼくに課せられた責務だろう。
机の上には、発行石のランプの他にガラスペンとインク容器が置かれていたが、いきなり官能小説の執筆に取り掛かるには時期尚早だろう。
まあ、実際に小説を執筆するのはまだだいぶ先になりそうだし、そう焦ることもないだろう。
隔日発行の新聞は、ペナペナの紙切れ一枚を半分に折っただけで……というか、むしろ日本の江戸時代や明治初期のかわら版といったほうがしっくりくる。
それでも、おそらくは定期的に新聞を発行する発行元があって、印刷所もあることは、一応小説家を目指す僕にとっては心強い。
「ところで、これ一体全体なんて書いてあるんだぁ?」
粗末な紙切れに、隙間なくびっしりと印刷された見慣れない文字に、僕は軽い目眩をおぼえてしまう。
しかし、この難題をクリアしないことには、右も左も分からない異世界での僕のアイデンティティが成り立たない。
「まずは、新聞の解読から取り掛かるとするか」
新聞の名前は『デイリー・キングダム』という、たいそうご立派な名称の新聞だ。
しかし、僕が普段読み慣れている日本の新聞とは大きくその形態というか様式を異にしていた。
パピルスから得た情報によると、新聞記事の大半はこの国の王室関連のおかたい記事がメインとのことだが、いわゆる社会面に当たる部分には、王室関連のゴシップネタや王族たちに関するニッチな情報も載っていてるらしい。それ故、結構くだけたというか、おおらかでオープンな国情が新聞からもうかがい知ることができる。
異世界文字解読の端緒として、僕は新聞の一面にあたる部分に印刷されている文字を一言一句書き写す作業から初めた。
幸い、『ご贔屓衆監修、姫館御便覧』の裏面が白紙になっていたので、そこにガラスペンにインクを付けて書き込んでいく。
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??????????……??????????????????……?????????????????????!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
もう何のことやら、皆目、露ほども、てんで、微塵も、ゆめゆめ、丸っきり、全くもって、訳が分からん!!
しかし、何処かにこの文字列解読のヒントが隠されているに違いない……そう思わなければ先へは進むことができない。
「んん? ……ん? んーんっ、ンンー??!! んんっ???!!!」
これはもしかすると、もしかするかも……?
僕は、かろうじて異世界文字解読の糸口を見つけたのかもしれない。
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