ある青年と愛犬のものがたり

@catsince1994

第1話  安全地帯とZED 

 その少年が物心ついた時に強く感じたのは「自分はどこか変な奴だ」という認識と劣等感だった。


昭和の後半、各家庭にテレビが普及し始めた時代、テレビから流れてくる歌謡曲やバラエティの喝采に全く反応しない姿を見て、母親はとても心配した。

まだ、発達障害なんて概念は浸透しない頃だったが、母親からしたら気が気ではなかっただろう。

反面、自治体主催のIQテストでは男の子は高い数値を示した。記憶力も高く、早々と文字を覚えて本を手放さずに、集中したら従弟たちとの遊びの輪に入ることもなく読み耽ることも多かった。もっともそんな性分が災いして、父親譲りの恵まれた体格の割に運動は苦手だったが。


両親の心配をよそに、男の子は成長していく。


「好きな歌手は安全地帯です!」クラスでもとりわけ明るい女子が学級会の自己紹介でハツラツとした声をあげた。

・・・?一体このコは何を言っているんだ??ボクは全く理解が出来なかった。昭和末期、歌番組全盛期だったが、欠片も興味のアンテナが向かなかったボクには「安全地帯」という言葉が歌手グループの名前と認識出来なかったのだ。「8時だよ!全員集合!」は好きだったが、コントの合間の歌謡シーンが邪魔で仕方なかった位だ。無理もない。


ボクの興味はもっぱら当時一大ブームだった「ビックリマンシール」「ミニ四駆」「ゲームブック」に向けられていた。小学生としては普通かもしれないが、思い返しても興味のあることへのボクの熱意は凄かった。寝ても覚めても興味事に全集中するボク。アスペルガーの特質だったのではないかと、今では思う。東京創元社のシリーズを真似てゲームブックを制作した小学生は全国にはそれなりにいたかもしれないが、愛媛の片田舎でボクはついぞ同好の士には巡り合えなかった。スティーブ・ジャクソンの「ソーサリー」は大ヒットした作品だが、これをZEDを使って50周もしたのはボクぐらいだろう。


「やっぱり、諸星くんしか無いわ。付き合うのはもう終わりにしましょ」残酷な一言がボクをズタズタに打ちのめした。

大して運動神経が良くなくても、父親譲りの大柄な体格はスポーツでは大きなアドバンテージだった。特に、体の育ち切っていない小学生ならそれは顕著に表れる。勉強も普通に出来たボクはクラスの女子と付き合った。今思えば、おままごとのようなものだったが、人生初めての恋愛にボクはすっかり舞い上がっていた。ボクなりに頑張って音楽番組も見て、オシャレにも興味を持った。なんとか楽しませようと頑張ったんだが不器用なボクは今まで女の子と話したりしてこなかった。硬派を言い訳に避けていたツケが回って来たんだ。努力しても会話は嚙み合わず続かない。当時、彼女が推していた人気絶頂の「光GENJI」の話を合わせる事すら出来ない朴念仁、に女の子が愛想を尽かしたのは仕方ない話だったろう。だけど、その時のボクにはそれが理解出来なかった。今までは興味が無い、で済ませていた音楽全般を憎むようになる。ますます、自分の興味の向く方へと突き進んでいくことになる。



「子供のころに歪んでしまった心は取り返しがつかないんだぜ!」と故・吉岡等の作中人物、ドン・レオ・スレイが憤るシーンがある。まぁ、平和ボケしたようなトラウマだ。両親はしっかりと愛してくれたし、生活に困るようなことも無かった少年の甘えたトラウマだ。でも、それでも起こるべくして起こったようなこの事件はボクの最初のターニングポイントだったんだ。

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