神殿誓約 ~綿菓子思考は遺伝するか~

夏笆

一、







「だからね。ぼくとアクリーナとで子供を作って、その子をマルシェフ公爵家の跡取りにすればいいと思うんだ」


「んふふー。マルシェフ公爵家の跡取りはー、あたしが産んだげるからー、安心してー」


 月に一度設けられている、婚約者との交流の日。


 マルシェフ公爵家に婿入り予定のゲラーシー・ザラメンスキー伯爵子息は、恋人のアクリーナ・ボンダレンコ男爵令嬢とくっつき、時折ちゅっちゅと口づけを交わしながら、婚約者であるミロスラーヴァ・マルシェフ公爵令嬢に『いい案だろう』と、笑顔を見せた。


「それは、家にかかわるお話のようですから、両家揃っての場で、改めてご提案いただけますか?もちろん、ボンダレンコ男爵令嬢も一緒に。そうですね。我が屋敷が良いでしょうか」


 終始表情を崩すことなく、ゆったりとお茶を飲みながら、いちゃつき合うふたりを見ていたミロスラーヴァは、静かにカップを置くと、揺らぐことのない瞳で、しっかりとふたりを見て、そう言った。


「そうだな。それがいい」


「わあー。マルシェフ公爵家のお屋敷って、すごく大きくて立派なんでしょー?たのしみー。ねえねえ、ミロスラーヴァー。当然、あたしの家まで迎えに来てくれるんだよねー?」


 『あー、胡桃入ってるー。苦手ー』と言いながら、手元のケーキから胡桃を除くべく、ぐちゃぐちゃにしながら、アクリーナが甘えた声を出す。


「いいえ。我が家から迎えの馬車を出すことはいたしません。それから、わたくしのことは、家名でお呼びください。ボンダレンコ男爵令嬢」


「ああー。そういう言い方、駄目なんだよー。あたしはー、マルシェフ公爵家の跡継ぎを産んだげるんだからー、ちゃんと敬わないとー。貴族としてー、笑われちゃうよー」


 手にしたフォークをミロスラーヴァに向けて、ぶらぶらと振りながら言うアクリーナを、ゲラーシーはうっとりとした目で見つめた。


「アクリーナは、素晴らしいね。ちゃんと、相手のことを思って教育出来るんだから」


「ええー。それほどでもー。あるかもだけどー」


「では。わたくしは、これで失礼いたします」


 きゃっきゃ、うふふと笑い合う簒奪宣言者たちに一礼をして、ミロスラーヴァは席を立つ。




 よし。


 言質取ったり。


 後は、これを証人にも聞かせれば、無事に婚約破棄。


 はあ。


 長かった。




 公爵令嬢然とした、静かな表情のままのミロスラーヴァが、その心のなかで、漸く婚約破棄が出来ると安堵していることなど、綿菓子を紡ぐが如くの世界で話をしているゲラーシーとアクリーナは、知る由も無かった。



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