末代まで祟ってやるっ

 


 ソファに寝転がって雑誌を読んでいた浅人のスマホが鳴った。


 見もせずに、

「ほいほい」

とそれを取る。


『浅人~っ』

と恨みがましい声がすると思ったら、律だった。


「……何処の怨霊かと思ったぞ」

と言いながら、雑誌をテーブルに放る。


 律は、なんで、蜂谷に自分のことを注進したのかと文句を言ってきた。


「言ったら、なんかまずいのか。

 お前、帰り居なくなってたな。


 まさか、電車行ったり来たりして、杏の時間に合わせたんじゃないだろうな。


 斎藤に杏のことを訊いてたそうだが」


 そう強気に言い返すと、律は、しゅんとしてしまう。


 ほんと仔犬だな~っ、と思い、浅人は起き上がった。


 強気に蜂谷に噛みついては、やられてしょげる杏と似ている。


「なんなんだよ、お前。

 まさか、杏に一目惚れとか言うなよ。


 俺はお前を兄さんとか呼ぶのはごめんだからな。


 杏の顔が好きなら、俺にでも惚れてろよ」

とつれなく言ったが、電話の向こうで、しょげているのだろう律の顔が浮かび、つい、


「……気をつけて帰れよ」

と声をかけてしまう。


 スマホを切って放り投げた。


 あ~っ。

 もう、めんどくせえなあっ、こいつらっ。


 なんなんだっ、と思っていた。


 杏と律はキャラ的に似ている。


 こいつら、自分と似た相手を好ましく思うなんて、どんなナルシストで、どんだけ自分に甘いんだ、と思う。


 いや、待てよ。

 ってことは、こいつら、もしかして、両思い?


 いやいやいや。

 駄目だろう。


 杏には蜂谷だ、と思いながら、再び雑誌を手に寝転がったとき、玄関前が騒がしくなった。


「だから、なんで、あんたが居たのよ。

 あんた、私のストーカー!?


 私が出るとき、まだ仕事してたじゃないっ」


「はあ!?

 調子に乗るなよ。


 お前が駅まで、カメみたく、のろのろ歩いてたから、お前の乗る電車に追いついただけだよっ」


「じゃあ、私が仔犬王子と話し出すまで、黙って隠れてたのはなんなのよっ」


「今日は疲れてたから、お前とも口をきく気分じゃなかったんだよっ」


「じゃあ、車で帰りなさいよ、疲れてるならっ。

 ただいまっ」


「ガス欠だったんだよっ。

 ただいま、浅人」


「なんで、あんたまで、ただいまなのよーっ」

と叫びながら、杏は二階に上がっていき、蜂谷が残った。


 蜂谷は起き上がった自分に向かい、

「すまなかったな、浅人」

と言う。


「いやいや。

 このくらい」


 二人で目を見合わせ、にやりと笑う。




 おのれ、蜂谷め。

 末代まで祟ってやるっ、と杏は鞄をベッドに投げつけた。


 そのとき、誰かがドアをノックした。


「杏。

 帰るから」


 じゃ、なにしに来たーっ、と思いながら、ドアを開ける。


 蜂谷が立っていた。


「飲んで行きなさいよ、お茶でも淹れるから」

「いや、まだ飯も食ってねえから」


「ご飯出すからっ」

「……要求したわけじゃないぞ」


 わかってるわよっ、と揉めながら、二人で階段を下りる。


 両親は地区の集会で出かけているから、勝手に食べろと食事は置いてあるようだった。


 杏の帰りは遅いことも多く、友達と食べて帰ることも多いので、いつもこんな感じだった。


 もう食べたというわりには、浅人も一緒に食べ始め、結局、三人で楽しく食卓を囲んだ。








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