第9話 空に潜む影

 青く広がる空の向こうに、黒い影が蠢いていた。


 ソラとルナが築いたエネルギーネットワークが徐々に広まり、空の都市がつながり始めた頃、突如として現れたのは、巨大な浮遊都市——「ゼロ・ユートピア」だった。


 「これは……?」


 その都市は、どこからともなく現れ、瞬く間に周囲の空間を掌握していった。

 高度なバリアに覆われ、外部からの干渉を一切拒絶するその都市は、圧倒的な技術力を誇り、まるで天空の要塞のようだった。


 「まさか……。あの企業の残党が、ここまでのものを作り上げていたなんて。」


 ソラは拳を握りしめた。


 かつて環境破壊を推し進め、地上のエネルギーを独占していた巨大企業。

 その企業は、エネルギークリスタルの存在が明らかになったことで崩壊したはずだった。

 だが、その残党たちは地下に潜り、ひそかに勢力を蓄えていたのだ。

 彼らは、新たなエネルギーの時代を利用し、自分たちだけの楽園を作ろうとしていた。


 「ルナのエネルギークリスタルを使えば、無限のエネルギーが手に入る。

そうなれば、選ばれた者だけが生きる完璧な都市を築くことができる——」


 敵の思想は、極端だった。


 「そんなこと……絶対にさせない!」


 ルナは静かに、しかし強い意志を込めて言った。

 彼女の持つクリスタルは、人類の未来を左右する鍵だった。

 それを独占しようとする者たちを、彼女は許せなかった。


 ソラとルナは、「ゼロ・ユートピア」に潜入することを決意した。




 夜の闇に紛れ、空飛ぶ車で都市の外壁へと近づく。

 バリアのわずかな隙間を見つけ、慎重に内部へと侵入する二人。

 しかし、そこに待ち受けていたのは、想像以上の監視システムと、都市を守る無人兵器だった。


 「侵入者発見——排除を開始する。」


 鋭い機械音とともに、無数のドローンが二人を取り囲む。


 「くそっ、見つかったか!」


 ソラは操縦桿を握りしめ、急旋回で敵の攻撃をかわす。

 しかし、ルナの表情は変わらなかった。


 「ソラ、まっすぐ進んで——信じて!」


 彼女はクリスタルに手をかざし、静かに目を閉じた。

 その瞬間、都市全体の電力が一瞬だけ揺らぐ。

 ドローンの動きが鈍った。


 「今だ!」


 二人は一気に都市の奥へと突き進んだ。




 そこに待ち受けていたのは、かつてルナの故郷を滅ぼした企業の残党たち

 ——そして、ルナのクリスタルの秘密を知る者たちだった。


 「君の力こそが、新世界の礎となるんだよ、ルナ。」


 暗闇の中から響く声。


 果たして、彼らの目的は本当にただの独占なのか、それとも——?


 ソラとルナの戦いは、さらなる局面を迎えようとしていた。

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